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『デッド・アディクション 〜依存者たちの最期(ラスト)禁断症状〜』  作者: 天野確率
欲望の着火

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第3話:『狂気のノイズと生存の期待値』

09:00……08:59……。


室内に漂うのは、倒れたシェイカーから流れたプロテインの生温かく甘ったるい異臭と、坂本の首から流出した血生臭い鉄の匂い。

そして——新たに補填された男の、狂気じみた笑い声だった。


「あはは! 見てよ刃物がある! 触っちゃダメなの? 触ったら……もっと気持ちよくなれるの……?」


コンベアで運ばれてきた男——腕に無数の自傷痕を持つ男のデスクには、一本の鋭利な外科用メスが置かれていた。照明を浴びて銀色に光る刃。男は血走った目を爛々と輝かせ、今にもメスへ手を伸ばそうと全身を震わせている。


「やめろ……頼むからやめてくれよぉ!」


パチンコ依存の大滝が、泡を吹いた口をガタガタと震わせながら叫んだ。


「お前が死んだらまた別のキチガイが運ばれてくるんだろ!? もう嫌だ……俺のパチンコ台もずっと激熱のままだし、頭がおかしくなりそうだッ!」


大滝の視線は、目の前で赤く激しく点滅し続けるパチンコ台に吸い付けられている。

保留は満タン。あと一回ハンドルを捻るだけで、大当たりという最高の快楽が彼を包み込む。彼の右手は空中でハンドルを握る動作を高速で繰り返していた。


「ひっ……ひぐっ……」


詩織はデスクに突っ伏して必死に目を背けていた。

だが彼女のスマホからは、絶え間なく通知音が鳴り続けている。画面を見なくても分かる。自分の投稿に「いいね」が大量に付き承認欲求が満たされていく、あの最高の感覚が、音だけで脳へ直接流し込まれていく。


(全員……限界だ……)


翔太は荒い息を吐きながら、血の滲む拳を固く握りしめた。

目の前のスマホ。ピックアップ中の『極光の聖女』。

喉から手が出るほど欲しい。今すぐ画面をタップして、あの虹色のガチャ演出を脳に焼き付けたい。その強い欲求が、絶え間なく脳を殴りつけてくる。


だが、翔太の頭の中には、もう一つの思考が冷徹に立ち上がっていた。


(考えろ。パニックになるな。俺の得意分野だろ。これはゲームだ。確率と期待値の計算だ!)


翔太は激痛に耐えながら、周囲の観察を開始した。


(坂本が死んだ原因は「ストローへの接触」。つまり、手だけでなく身体のいかなる部位であれ、依存対象に触れた瞬間に即死のスイッチが入る。判定は厳密で遊びがない)


(そして『補填』。脱落者が出ると、数秒で新しい人間が補充される。だが……補充される人間の「狂気度」が上がっていないか?)


翔太の背中に冷や汗が伝う。


1人目の坂本は、まだ会話が通じる筋トレマニアだった。限界まで耐えて、抜け道を探そうとする程度の理性は残っていた。

しかし2人目の補充者は、最初から精神が狂気へ落ち切っている重度の自傷依存者だ。到着直後からメスを触りたがり、死の恐怖すら感じていない節がある。


(もし、脱落者が出れば出るほど『より我慢できない、即自爆する狂人』が補充されるシステムだとしたら……? この部屋の全員が連鎖的に死ぬ。補充が止まらない限り、生き残る確率は限りなくゼロに近づいていく……!)


07:45……07:44……。


「あはっ……やっぱりガマンできないや。切らせてぇぇええ!」


自傷依存の男が、ついにメスへ向けて手を開いた。


「待て!!」


翔太の声が静寂を切り裂いた。

(まずい……こいつが死ねば、次はもっと危険な人間が来る。だったら——)

「お前のメスは、まだ触るな。俺の話を聞け」


読んでいただきましてありがとうごさいます!毎日1話ずつ更新する予定です。また死んでいく登場人物などの裏話もXの方で投稿していきたいと思っています。

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