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『デッド・アディクション 〜依存者たちの最期(ラスト)禁断症状〜』  作者: 天野確率
欲望の着火

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第2話:『12分間の渇望と死の補充』

11:15……11:14……。


タイマーの数字が減る速度と反比例するように、室内の空気は濁り、重たくなっていく。


「ハァ……ハァ……っ」


翔太は固く閉じていた目を薄く開け、己の膝に置いた手を見つめた。

指先がガタガタと痙攣している。爪が掌に深く食い込み、にじみ出た血が皮膚を赤く染めていた。


(触ったら即死……触ったら毒針……!)


頭では理解している。だが脳の奥底から込み上げる衝動が、理性をドロドロに溶かしていく。

視覚と聴覚が、異常なほど敏感になっていた。すぐ隣のデスクから漏れ出るスマホの軽快な通知音。大滝のパチンコ台から流れる脳を刺すような電子音。そして、部屋全体に充満するウイスキーとプロテインの甘ったるい匂い。


すべてが、翔太のドーパミンを暴走させる刺激となって脳へ突き刺さる。


(回したい……! たった1回でいい……! あの虹色の演出を見るだけでいいんだ……!!)


「う……うぁああっ!!」


突然、右端のデスクから狂気の叫びが上がった。

大柄の男——筋トレ中毒の坂本だ。


彼の目の前に置かれた特濃プロテインの容器。結露した水滴がポタポタとデスクに垂れ、激甘な香りが強烈に立ち上っている。

極限の緊張と過呼吸により、坂本の代謝は異常なほど跳ね上がっていた。口の中はカラカラに乾き、ひゅうひゅうと乾いた呼吸が漏れる。筋繊維が縮み上がるような猛烈な渇きが、彼の理性を完全に砕いた。


「のどが……喉が乾いて死にそうだ! 筋肉が、俺の筋肉が干からびていくっ!!」


「坂本さん、ダメだ!! 触ったら死ぬ!!」


若い男——吉野が叫ぶ。だが、そう言う吉野自身もウイスキーのグラスを見つめたまま生唾を飲み込み、体を折り曲げて震えていた。


「触らなきゃいいんだろ!? 手を使わなきゃいいんだろおお!!」


限界を迎えた坂本が、デスクに身を乗り出した。

両手を後ろに固く組み、手を使わない証明とするかのように身体を硬直させ、顔だけをシェイカーのストローへ近づけていく。


(バカな……! 運営がそんなぬるい抜け道を許すわけがない……!)


翔太の脳内で、けたたましく警報が鳴り響いた。


10:01……10:00……。


「いただきますッ……!」


坂本の分厚い唇がシェイカーのストローに触れた、その瞬間。


プシュッ!!


鋭い機械音とともに首輪から長い銀色の針が射出され、坂本の頸動脈を深く穿った。


「ぐえッ……!?」


坂本は目を見開き、喉をゴロゴロと鳴らしながら豪快に崩れ落ちた。

床に激しい音を立てて倒れ込み、痙攣ののち、二度と動かなくなる。倒れたシェイカーから溢れ出た褐色の液体が、床に広がっていく赤黒い血と混ざり合い、異臭を放った。


「ひぃやあぁぁああっ!!」


隣の詩織が頭を抱えて金切り声を上げた。吉野はその場にへたり込み、大滝は口を半開きにしたまま泡を吹いて固まっている。


『脱落者1名。原因:依存対象への接触(口腔部)』


モニターから、あの不気味な合成音声が無機質に響く。


『これより参加者の補充を行います』


ガチャン……!


坂本の死体が転がるデスクの横のコンクリート壁が、観音開きに開いた。

重厚なローラーコンベアに乗せられ、新たな参加者が滑り込んでくる。


頭に黒い袋を被せられ、椅子に縛り付けられた男。

袋が自動で勢いよく脱ぎ捨てられると、そこに現れたのは——全身に異様な傷痕を刻んだ男だった。両腕には無数の古い切り傷と新しい切り傷が混在し、血走った目で周囲をギョロギョロと見回している。見るからに精神が崩壊していた。


「あは……あはは! ここが天国? ねぇ、切っていい? 切るの我慢すればいいの……?」


脱落=即座にさらなる狂人が投入される。

悪夢のような『補填システム』が、現実となって生き残りたちの眼前に突きつけられた。


9:01……9:00……。


残り9分。地獄のカウントダウンは、まだ始まったばかり。

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