第16話:『破壊のルール』
「やめろ、荒井! それを壊すな!!」
翔太の声も虚しく、暴走する荒井の太い腕が振り下ろされる。
ガンッ!
重い衝撃音が室内に響き渡り、翔太のスマホの画面に蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
(しまっ……!?)
全員の視線がモニターのタイマーと首輪に集中する。
「他人の依存対象の破壊」はペナルティなのか、それとも即死なのか——。
だが、首輪から毒針が放たれることはなくタイマーも淡々とカウントを刻み続けていた。
『……ふぅ、ふぅ……酒…酒をよこせぇ……!』
荒井は脂汗を額に滲ませ画面が割れたスマホに興味を失ったように床へ放り投げた。ぶるぶると震える手で自分の首を掻きむしり、再び酒を求めてあたりを徘徊し始める。
(ペナルティは……発動しない……!)
翔太は冷や汗を拭いながら思考を高速で回転させる。
ルール上、「他人の依存対象に触れる(操作する)」ことは即死だ。しかし、単に殴りつけるような「破壊行為」自体には、システム上のペナルティが存在しない。
(まずい……破壊そのものはルールの穴だ。誰かが俺のスマホを完全に粉砕すれば、俺は依存対象を失った状態でこのゲームを続けざるを得なくなる……!)
その時、画面の割れたスマホが小さくバイブレーションを起こした。
『ブブッ……ブブッ……』
ひび割れた液晶越しに浮かび上がったのは、見覚えのあるメッセージアプリの通知アイコン。
(画面は生きている! だが、荒井がもう一度踏みつければ完全に壊れる!)
「くそっ……!」
離れた席から、己の依存対象が破壊の危機に晒される恐怖。
自分の手で守ることも、近づいて触れることも許されない。
翔太は歯を食いしばり、ただ見ていることしかできなかった。
「ひっ……!」
背後で小さな悲鳴が上がる。詩織だった。
白木が彼女のスマホを片手に掲げたまま、ゆっくりと荒井の方へ歩み寄っていく。詩織は青ざめた顔で震えながら自分のスマホと白木を交互に見つめていた。
「か、返して……お願い……」
「大丈夫だよ、詩織ちゃん。君のスマホは俺がちゃんと守ってあげるからね」
白木は振り返らずにそう言うと、不気味な笑みを浮かべて荒井に声をかけた。
「ねえ、荒井さん。酒が欲しいならさあっちの席をもっとめちゃくちゃにしてみたら? 机をひっくり返せば、何か出てくるかもしれないよ」
「白木……貴様……!」
翔太の怒声にも、白木は悪びれず肩をすくめて見せる。
他人の依存品を「凶器」として利用し、荒井という暴走機関車を操る——最悪の誘導が始まった。
「あっち……? 酒……酒ぇ……!」
荒井の濁った目が、翔太のデスクに向けられる。
よだれを垂らしながら、巨体がゆっくりとそちらへ向きを変えた。
(次のシャッフルまで、あと1分……! それまでスマホが持ってくれれば、配置が変わる……!)
翔太は祈るような気持ちで、ひび割れた画面を見つめていた。
『ブブッ……』
通知音だけが、無情にも静かな室内に響き続ける。
残り時間24分30秒。
次のシャッフルまで、あと1分00秒。




