第14話:『不気味な同盟提案』
「……殺し合いを楽しむ気か?」
翔太は眉をひそめ、冷ややかな視線を白木に向けた。
白木は指先の血を拭おうともせず、薄笑いを浮かべたままカッターの替刃を指先でくるくると弄んでいる。
「楽しむっていうか……効率的でしょ? 邪魔なやつを他人の依存品に押し付ければ、手も汚さずに排除できる。このルールの本質はそこじゃないの?」
「ふざけるな!」
後ろから悲鳴に近い声を上げたのは吉野だった。ガタガタと膝を震わせながら、ウイスキーのボトルを必死にかばう。
「そ、そんなこと許されるわけないだろ! 俺たちは生き残るためにここにいるんだ!」
「そうだね。だから『排除』するんだよ」
白木は吉野を一度だけ薄い目で見下すと、興味を失ったように視線を翔太に戻した。
「ねえ、君。名前は?」
「……翔太だ」
「翔太くん。君は頭が切れる。さっきも『荒井を生かした方が得だ』って瞬時に計算してただろ? 狂人が死んで、もっとヤバい奴が補充されるリスクを避けた。完璧な判断だよ」
白木はすっと距離を詰め、翔太だけに聞こえるような低い声で囁いた。
「君と俺で組まない? 3人以上生き残れば『次の区画』へ行けるんだろ? だったら、俺と君、それに扱いやすい奴を1人だけ生かしてあとの2人を排除すれば確実にクリアできる」
(こいつ……本気で言っているのか……?)
翔太の背筋に冷たい汗が伝う。
第2章のクリア条件は『3人以上の生存』。
白木の提案は数学的な生存確率だけで言えば極めて合理的だった。狂暴な荒井や、いつパニックを起こすか分からない吉野や詩織を排除し制御可能な3人だけを残す。だが、その「制御可能な3人」に白木自身が含まれていることこそが、この提案の致命的な落とし穴だ。
(こいつは排除する側に回りたいだけだ。そして最後には、俺も「排除すべき不確定要素」に数えられる)
「い、嫌よ……」
詩織が小さく震えながら、二人を交互に見つめる。
「頼む……翔太くん、見捨てないでくれ! 一緒に耐えようって言ったじゃないか!」
吉野が必死の形相で哀願する。
部屋の中の空気は、完全に分断されていた。『欲望に耐える者』と『他人を排除しようとする者』。
「断る」
翔太は短く切り捨てた。
「お前の提案には致命的な欠陥がある。白木——お前自身がいつ裏切るか分からない『不確定要素』だ。そんな奴と組むくらいなら、全員の動きを監視して30分耐え切る方が期待値は高い」
「……へぇ」
白木は目を細め、つまらなさそうに溜息をついた。
「交渉決裂か。残念だな……正義漢ぶる奴から死んでいくのに」
その時だった。
『ガガッ!』
突如、部屋のスピーカーから不穏なノイズが響き渡る。
『——イベント発生。これより『強制移動』を開始します』
モニターのタイマーが黄色くフラッシュした。
『27:15……27:14……』
『これより3分ごとに、各参加者のデスク配置をランダムにシャッフルします。最初の移動まであと10秒』
「な……んだと!?」
翔太の表情が凍りつく。
自分のデスクつまり『自分の依存対象』から引き離され、他人の依存対象の目の前に強制的に配置される——。
相互干渉のルール下で、最も危険な悪夢が始まろうとしていた。




