第八話 自給自足と資源探索
くノ一の葵が合流し、戦力が増えたことは一家にとって大きなプラスだった。しかし、街から追い出されたも同然の一家は、これから自給自足の生活を築いていかなければならず、誠は頭が痛かった。
そんな中、家族との会話から、どうやら葵は誠の嫁と認識されていることに気づく。葵にそれとなく聞いてみても、誠とは昨日夫婦になったと思っているようで、満更でもない様子だった。
「う〜ん、そういうつもりじゃなかったんだけどな。葵には悪いことしたみたいだけど、今更言い出せないし……夫婦ということでいいか。葵はまだ十三歳だし、前世なら逮捕案件だよな……中身が四十五歳のオッサンでゴメンナサイ」
いつものように独り言を呟いていると、葵が近寄ってくるのが見えた。
(葵も仕事を手伝ってくれるみたいだし、これを機に自給自足問題を一つずつ解決していくか)
「誠、今日は何をすればいい?」
「今日は粘土探しかな。土器っていうか、この里で器を作れるようにしたい」
すると、葵がぴったりと誠にくっついてくる。
「葵さん、どうしたのかな?」
「誠の異能で移動するのじゃないの?」
「……はい、そのとおりです」
断り切れず、誠は異能のホバリングで葵と共に山中に入っていった。
その一部始終を見ていた紬はニヤニヤしながら呟いた。
「お兄ちゃん、早速、葵ちゃんの尻に敷かれているじゃん」
誠がかねてから目を付けていた露頭の粘土層や谷底の堆積粘土を順番に回り、良さそうな土を麻袋に入れて隠れ里に戻ってきた。
「まずは、縄文式土器から作ってみようか」
粘土を縄状にして重ね、器の形に成形する。葵にも作り方を教えて数個作ってみる。誠と葵の役割分担は、誠が開発計画と異能、葵は記録や異能を必要としない実務、いわば誠の研究助手である。
「後は何日か自然乾燥させた後に熱して、冷却か……」
数日後、早速、サイコキネシスで慎重に加熱と冷却を行い、それっぽいものが出来た。
「これで我が家も縄文人並みにはなれたかな……次は弥生式土器に挑戦だ」
最終的には陶磁器レベルのものが作りたいので、試行錯誤はしばらく続きそうである。
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また、別の日。
「葵、今日は洞窟探検に行こう」
「洞窟で何を探すの?」
「今、欲しいのは水晶の大きな結晶かな」
誠と葵は、隠れ里からほど近い小さな入江にある洞窟へ探索に向かった。
洞窟の入り口には、幅3〜4mほどの人が歩けるスペースがある。その隣には幅10mほどの海水路が広がり、入江の海がそのまま奥まで入り込んでいた。水深もそれなりにあり、洞窟は海に沿って奥まで深く続いているように見えた。
「花崗岩の洞窟か……鉱物の結晶でもあると嬉しいんだけど」
その後、二人は松明を手に洞窟に入っていった。
「それじゃ、探検開始といきましょう!」
「洞窟ではどういう所を探せばいい?」
「運が良ければ、水晶の鉱脈があると思うんだ。岩の割れ目があったら注意して探してほしい」
「わかった」
探索を開始して間もなく、葵が何かを発見したようだ。
「誠、あれ、そうじゃない?」
「どれどれ……」
誠が見逃していた天井近くの壁面に亀裂が走っており、そこから水晶らしき結晶が見えていた。
「葵、お手柄だよ!」
周囲をよく見ると、壁面の上部から天井にかけて水晶の鉱床になっているようで、洞窟の奥まで続いていた。
「かなり大きな鉱床だね。これは色々便利グッズが作れるかもしれないよ」
「そう、誠の役に立てて良かった!」
その後も洞窟内を探検していくと、花崗岩の岩肌がふいに白い岩に変わる一帯があり、そこには鍾乳石が垂れ下がっていた。さらに奥では、重く黒光りする鉱石が石英脈に混じる一角も見つかった。
「これは何?」
葵が黒い塊を差し出すと、誠は受け取って軽く放り投げるように持ち直した。
「見た目より重いでしょ。それに、ほら」
ハンマーで叩くと、断面がサイコロのようにきれいに割れる。
「鉛だよ、多分。こんなに綺麗に立方体に割れる石は他にないからね」
誠が得意げに語る一方で、それを見つけたのは他ならぬ葵自身だった。
「いや〜、葵を連れて来て良かったよ。僕だけなら全部見逃していた自信があるね」
葵は「ふんすっ」と言わんばかりに得意げな表情を浮かべる。
今回のところは、目的の水晶だけを持って隠れ里に戻ることにした。
「これで顕微鏡を作る!」
誠の言う顕微鏡とは、構造が極めてシンプルな『レーウェンフックの顕微鏡』だ。
「誠、ケンビキョウって?」
葵に説明しようとしたが、今ひとつ伝わっていないようである。
「まあ、実物を見れば葵もきっと分かるよ。完成したら、ウンコの中に小さな生き物がたくさん棲んでいるのを見せてあげるから」
「……」
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顕微鏡の開発と同時に、誠と葵は麻布の自作にも挑戦し始めた。
「普通に作ったんじゃ、時間がかかる上にゴワゴワの低品質な布しかできないから、今回は上質な麻布を目指そう」
誠は上質な麻の繊維を作る微生物を探すつもりなのだ。
「それで、何をすればいいの?」
「まず、用意した竹筒に麻の茎と水を入れたものをたくさん用意する。それぞれにいろんな所から採ってきた土を少しずつ入れて、茎が腐るスピードや、それを解してできる繊維の丈夫さ・柔らかさを比べて記録する感じかな」
「たくさんって、どのくらい?」
「とりあえず千本くらい? まあ、ぶっちゃけ出来るまで続ける感じかな」
「……」
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さらに麻布の副産物として、誠は紙を自家生産したいと考えている。
方法はシンプルで、麻布生産の際に出る「くず繊維」(短すぎて糸にできない繊維、打解時に落ちる屑)を原料にするのだ。
これについては開発初期の段階から、低品質な紙の生産には成功していた。
「いや、もっと良いものができるはずだ。葵、製造条件を少しずつ変えて実験するぞ!」
「誠、もしかして、それも出来るまで延々と条件検討するの?」
「何言ってんの? 当たり前じゃん」
「……」
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一年後、誠と葵の努力の甲斐あって、高品質な土器、麻の繊維、紙、そして『レーウェンフックの顕微鏡』が完成した。
この時、誠は十五歳、葵は十四歳になっていた。




