第五十八話 外堀は埋まった
信長との密談から里に戻った誠は、焔救済のためのイベント参加者を集めて会議を開いた。
「まずは皆さんに信長との会談の結果を共有したいと思います」
その後、誠は信長との取引について説明を行った。
その説明を聞いて、第一声を上げたのは知恵者の主水である。
「誠さん、やりましたね! これですべての問題が片付きます。ただし、織田様との今後の付き合いは慎重にして下さいね。何を要求されるか分かりませんから」
「ええ、主水さんの仰るとおりです。ですが、会談した時点で僕が転生者だとバレてましたので、信長さんと接触は避けられない運命だっと思います」
「それは仕方ないですが、織田様以外の戦国武将も誠さんに目を付けている可能性は高いですね」
「僕もそれは心配しています。信長さんは、まだ話が分かる人でしたから良かったですが、他は分かりませんからね……」
そこに椿が割って入ってきた。
「なあ、誠。そんな先のことで悩んでるより、今は灯里の兄貴を助けるの大事なんじゃないのか?」
「うん、椿の言うとおりだよ。じゃあ、信長との取引でシナリオに少し修正を加える必要があるから、そっちの話をしようか」
次に芹から脚本の修正点について質問があった。
「誠さん、織田様の話じゃ、『魔王』は名乗れなくなったんですよね? 誠さんは何か代案を持ってますか?」
「うん、もちろんあるよ。たぶん、シナリオやロボ制作への影響もそんなにないと思う。後で芹と相談させてもらえるかな?」
「もちろんです、誠さん」
「それと、さっきの主水さんの話も関係するんだけど、他の戦国武将も僕に目を付けている可能性が高いことがわかったから、今回のイベント中も里の防備を固めておきたい」
「誠、それって具体的にどういうこと?」
「葵、イベント中も僕と通信できる嫁の1人と最強武者の豪三さんを里に残しておきたいっていうこと」
「そういうことなら、しゃーないな、誠。お前の留守中は、俺が里を守ってやるよ!」
「豪三さん、ありがとうございます。あと、嫁の中からは、瑞波に残ってもらおうと思う」
「誠、私もそれが良いと思う。今回の殲滅対象の上杉は、私達の忍びの里を滅ぼした元凶でもある。だから、私達『くノ一』には上杉を滅ぼすための大義名分がある」
「たしかに私には上杉討伐の名目はありません。でも、葵、私も皆の役に立ちたいんです」
「瑞波の気持ちは私達も理解している。だが、あなたにはお家再興の使命もある。だから今、危ない橋は渡るべきではない。それに里の防衛も重要な仕事」
「……わかりました。では今回は、里の防衛を豪三さんと頑張ることにします」
瑞羽は渋々、上杉討伐から降りることにしたようだ。誠は、どうして自分の嫁達は血の気が多い者ばかりなのかと内心ため息をついた。
「じゃあ、里の防衛は瑞波と豪三さんに頼んだよ。あと、もし里が襲撃される気配があれば、瑞波から僕に通信を送ってほしい。この里の防衛が最優先事項だから、上杉討伐を途中で切り上げて戻ってくるよ」
「承知しました、誠様」
里の防衛担当も決まったところで、次に上杉討伐後の事業について議題は移った。
「え―、上杉討伐後に、僕らが搭乗するロボは焔に負けて越後国の海辺に墜落することになってます。墜落後はロボは焔に封印されて巨岩に姿を変えるシナリオです。その巨岩を用意する必要ができたんだけど、どうしたらいいと思う?」
「誠さん、その巨岩って、撫子のところみたいに宗教ビジネスにする予定ですか?」
「芹、そのとおり。信長さんが巨岩の近くに焔の神殿を建設してくれる予定になってる」
「では、私達の方で商売の計画も立てておきますね」
「じゃあ、宗教ビジネスの方はお願いね。他には信長さんが焔の領地に港を作ってくれる約束だから、海運業も始められるよ。海運の方のビジネスの計画は、瑞波が中心となって、アリスとエドワードで作ってもらえるかな?」
「誠さん、任せて下さい! 分からない所はアリスちゃんやエドワードさんと相談して決めますから、安心して下さいね」
瑞波は遂にお家再興のチャンスが巡ってきて、目を輝かせている。アリスとエドワードも元々は船で商売していたこともあって、嬉しそうにしている。
「それで、商材は今までの物の他に、焔の新領地での農作物が加わります。農作物の海運でガッポリ儲けたいと思うので、それも含めて計画を立ててほしい」
「まかせて、誠。海運ビジネスは私とお父さんの得意とするところよ」
「ところで、神殿で祀る巨岩はどうしようか?」
「誠、それなら心配するな! 場所さえ決めてくれれば、私の方で用意しておくぜ。運ぶ時だけ皆に手伝ってもらうけどな」
「椿、助かるよ。じゃあ、後で場所の打ち合わせしよう。後、問題は焔本人か……」
焔の状態については、嫁を代表して葵が答えてくれた。
「誠、焔だが、体調の方は回復した。だけど、心が病んでしまっている。今は海賊の棟の空き部屋で暮らしているが、心の病のせいで生活力は皆無だ。紬が住込みで世話を焼いている状態」
「そうか……心の病は直ぐには治らないからな……。なんとか芝居だけはやってもらって、後は徐々に癒してもらうしかないかな……」
「誠さん、新しい領地で里の仲間と農業ができるなら希望はあると思う。お兄も時間さえかければ元に戻るかもしれない……」
……と焔のことを良く知っている妹の灯里の言である。
「それに、紬ちゃんはお兄の世話を一生するって言ってくれてる。これだけの事を紬ちゃんに言わせておいて、何もしないほど薄情な人じゃないから、たぶん大丈夫だと思うよ」
会議の後、誠は焔の部屋を訪ねた。
「焔〜、これからの事について相談に来たよ〜」
「お兄ちゃん! 焔さんは病人なんだよ、少しは気を使ってもらえる!?」
誠が軽薄なノリで声をかけてきたのを、焔の世話をしていた紬は快く思わなかったらしい。
「ゴメン、ゴメン、さっきまで織田の殿様と密談してきたんで、その報告と今後のことについて焔も知っておいた方がいいと思ってさ」
窓の外を眺めていた焔が、誠の方に向き直った。
「誠さん、迷惑かけてすみません。私は精神的に病んでしまったようで、生活自体も紬さんのお力をお借りしないと成り立たない有様でして……」
焔は言葉はしっかりしているが、目に力がない。おそらく鬱病を患っているのだろう。
「事情は聞いているから気に病まないで。ただ、信長との会談でこの先のシナリオが大きく変わったから知っておいてほしいだけなんだ」
「わかりました。ぜひ、聞かせてください」
誠は、信長との密談の内容をかいつまんで焔に説明した。
「それで、上杉討伐イベントの方は焔は参加しなくても大丈夫だから、安心して里で静養してもらって構わないよ」
「え? シナリオでは私が魔王を退治するんですよね?」
「うん、でも焔の体調も思わしくないから、僕が変装とホログラムで焔役をすることにしたんだ」
「すみません。ご迷惑をおかけします」
「気にしなくていいよ。それで、もし焔の体調が大丈夫そうなら最終決戦の時だけ、ジオン……じゃなかった、ロボに搭乗して上杉討伐の結末を見届けてほしいと思ってるんだ」
「わかりました。善処します」
「それで、焔に余裕があれば、楓さんの仇討ちとして上杉にトドメの一撃を加えてくれても構わない」
「お兄ちゃん! 焔さんに無理を言わないで!」
「いや、紬、焔は一番大切な人を上杉に酷い目に合わされて殺されているんだよ。僕だったら100万倍にしてお返しをしないと気がすまないよ。焔にはその権利があると思う」
「誠さん、わかりました。最終決戦までに私の異能が回復するかわかりませんが、私にも楓や犠牲になった里の者達の仇討ちをさせてください」
誠には、それまで虚ろだった焔の眼差しに少しだけ意思の力が宿ったように見えた。
「まあ、無理はせず、見学してくれるだけでも構わないので」
「はい、このままでは気持ちの踏ん切りがつきませんの体調の方がなんとかしてみせます」
「ははは……紬、焔に無理させないように、ちゃんと監督するんだよ」
「わかってるわよ!」
「それで、上杉討伐後は焔には織田の小領主になってもらう予定なんだけど、焔が回復するまでの間が問題なんだ。そこで、紬に焔の妻として領主代行をやってもらうつもりなんだけど、いいかな?」
「お兄ちゃん、私に任せて! 焔さんのためなら何でもする!」
「紬、頼もしいね。さすが僕の妹だ」
「それで、お兄ちゃん、私は何をすればいいの?」
「細かい実務は、焔の里の者達がやってくれると思うけど、紬にやってほしいのは主に2つだ」
「勿体ぶらずに、さっさと言って!」
「うん、まず1つ目は焔から農業を教えてもらって、紬が先頭に立って領地の農業を発展させてほしい」
「紬さん、農業は私の夢でもあるんです。領地の農業改革は2人で共にやっていきましょう」
「焔さん、あなたが元通りになるまでは、私があなたの代わりに矢面に立ちます。あなたは農業の知識だけ私に教えてくれるだけで十分です。もし、いっしょに農業をしたいなら早く身体を治してください。話はそれからです! で、お兄ちゃん、次は?」
「2つめは、焔の領地にも撫子の所みたいな神殿を作るんだけど、焔の体調が悪くて人前に立てない時は、紬が巫女として焔の代行をしてほしいんだ」
「わったわ、私、全部やる!」
「紬さん、確約はできませんが、なるべく紬さんに迷惑をかけないようにしますから……」
「焔さん! 私、本気ですから! 焔さんが元通りになるまで妻として全力で焔さんを支えますから、私を頼って下さい!」
「焔、紬もこう言ってることだし、ここは紬に甘えてみては?」
「お兄ちゃん、それに私も葵ちゃん達と一緒に主水さんや豪三さんに武術を習っているの。だから、敵が攻めてきても焔さんを守ってみせるわ!」
「えっ、紬まで武術を習ってるの!?」
「うん、武術だけなら葵ちゃんと同じくらい強くなったよ」
「まじか……可愛い紬まで戦闘狂になるなんて……」
「豪三さんが言うには異能なしなら、お兄ちゃんより強いって」
「ぐぬぬぬ……」
可愛い妹がいつの間にか武術家にされてしまったことに納得いかない誠であったが、焔に嫁いだ後のことを考えると、かえって良かったと思い直すことにした。




