第五十九話 スペース・インベーダー襲来
誠は芹とともに、上杉殲滅用の決戦兵器となるロボ……という設定のハリボテの前にいた。
「誠さん、上杉討伐用の魔王ロボが完成しました。でも、織田様から『魔王』を名乗るのを禁止されているんですよね? 名称は何にしますか?」
「そうだね。未確認飛行物体だからUAP……いやUFOの方が馴染みがあるな。ユーフォーでいんじゃないかな?」
「では、ユーフォー、またはユーフォーロボということにしておきますね!」
「まあ、ロボのままでもいいけどね」
ロボの名称が決まったところで、誠はその外観をじっくりと観察した。外観上の特徴だが、制作前にデザイン担当の菫と芹が言っていたようにロボには足がなかった。一応、お約束なので芹に質問してみた。
「芹、このロボ、足が無いみたいなんだけど……」
「誠さん、足なんて飾りです。偉い人にはそれがわからないんです!」
「ははは……そうだね。頭にも角が2本生えてて強そうだね!」
「ええ、これも原作に忠実にデザインしました。1つしかない目も椿ちゃんに言って、ちゃんと薄紅色に光るようにしたんですよ!」
「ところで、頭部の上半分は透明な半球になってて、中に脳みそみたいなものが詰まっているのは?」
「ええと、お姉ちゃんの趣味です。私は反対したんですけど、この方が悪役っぽいって、どうしても聞いてくれなくて……」
「これって、人造人間に出てくる血液交換が必要なヒール役だよね」
「はい、そのとおりです。目を1つにするか2つにするかで揉めましたが、『モノアイ』は死守しましたから!」
「そうなんだ、苦労したんだね……それで、椿が言っていたようにパーツは分離できるようになっているかい?」
「はい、頭部と、それから両腕を肘から分離できるようにしました。それぞれのパーツに人も搭乗できるようにしたんですよ」
「そうだね、これだけ巨大に作ったから、内部も余裕ありそうだしね」
「ええ、内部には最大10人まで搭乗できるようになってます」
「それだけ人を乗せてもかなり余裕がありそうだから、戦場で敵兵の刀とか金物を回収するのにも役立ちそうだね」
「もちろんです。今回は攻め落とす城の数も多くて長丁場になりそうだったので、荷物も多めに積めるようにしたんですよ」
誠は、芹の説明を聞きながら改めてロボの外観を眺めた。スチールのフレームと木製の外板からなる異形の決戦兵器のクオリティは、誠が驚愕するほど高かった。
「芹、これを作るの大変だったんじゃないの? 外装も異様にリアリティがあるし……」
「はい、設計と製造班が張り切ってしまって、採算度外視で作ってしまったみたいです」
「そうか……それなら、焔の神殿で利益が出てきたら、神殿に飾るオブジェとして買ってもらおうか」
「あ! 誠さん、そのアイデア、良いですね! ぜひ焔さんに買ってもらいましょう」
「そのときは本物だとバレないように、加工するのも忘れないようにね」
「もちろんです。お金になるんでしたら、しっかり仕事しますよ!」
「じゃあ、早速明日、上杉の木舟城攻めでロボの試運転をしてみようか」
===
吉江宗信率いる上杉の占領軍1500名は、木舟城(現在の富山県高岡市)の城内および城下町で寝泊まりしていた。
木舟城はそれほど大きな城ではなかったため、収容しきれない兵は城下町の城の近くで警備を行っていたのだった。
一方、誠から上杉討伐の日程を受け取った信長は柴田勝家の軍とともに木舟城から1kmの地点に陣を敷いていた。
「上様、何もせずに木舟城が手に入るというのは本当なのですか?」
「権六、俺を信じろ。それよりも、面白いものが見れるから楽しみにしていろ!」
「はぁ……」
柴田勝家には、信長の『兵を損なわずに木舟城が手に入る』という主張が盲言に思えてならなかった。
その時、木舟城の上空から厚い雲を割って、異様な飛行物体が降下してきた。それは足のない人型のようにも見えた。色は真っ黒で頭には2本の角を生やしており、目と思われるものが1つだけ怪しく光っている。
「権六、来たぞ! もっと近くで見たいからお前もついて来い!」
「は!」
柴田勝家は空に浮かぶ謎の飛行物体を見て、一瞬自分の目を疑った。だが、信長が自信たっぷりについて来いと言うので、大人しく従うことにした。
「上様、いったいあれは何なのですか? 私は生まれてこの方初めて目にしましたが……」
「あれは兵器の一種だ。そのうち、本人から説明があるだろうから少し待っていろ」
木舟城の上杉軍は、目前に織田の軍勢、そして頭上には正体不明の飛行物体が現れたため、緊張状態が限界に達していた。上杉軍の司令官である吉江宗信も状況がまったく掴めていなかった。
「織田の軍勢が陣を敷いているのは、まだ理解できる。だが、頭上はアレは何なのだ!? 我らの敵なのか?」
しかし、吉江宗信の疑問に答えることができる者はいなかった。
そのような状況のもと、飛行物体から電子音声でメッセージが発せられた。
「コンニチハ、我々はスペース・インベーダーです。遠イ銀河系の彼方から、地球を侵略しにやってキマシタ」
未確認飛行物体はそう言うと、両手のそれぞれ5本の指先から雷撃を放った。その雷撃により、木舟城の本郭の屋外に出ていた兵士数百人が一瞬で感電死した。
「警告スル、警告スル、ワレワレは手始めに上杉を滅ボシマス」
次の瞬間、未確認飛行物体から両腕と頭部が切り離され、それぞれが独立して攻撃を開始した。
北郭や南郭の広場からは、未確認飛行物体を目掛けて種子島による銃撃が行われたが、銃弾は命中する前に失速し、地上に落ちていった。未確認飛行物体の周囲には強力な力場が発生しており、上杉軍のいかなる攻撃も届かなかった。
「無駄な攻撃はヤメロ。オマエ達の兵器では我々に傷をつけることは決してデキナイ。諦めて死んでクダサイ」
飛行物体からは内容も言い回しも滅茶苦茶なアナウンスが流れている。
その間、本体から切り離れた両腕は、雷撃を放ちながら北郭と南郭の広場にいる兵士達を次々に葬っていった。
また、未確認飛行物体の頭部は、口元から青白い光線を照射しながら城下町を飛び回っており、警備中の上杉兵を次々に瞬間冷凍していった。
まったく攻撃が通用しない謎の飛行物体に対して上杉軍は恐慌状態に陥っていた。
「なんだ、あの化物は! 『スペースインベーダー』って、何なんだよ!」
「俺達がいったい何をしたって言うんだ!?」
兵士たちが城内や城下を右往左往する中、謎の飛行物体から再びメッセージが流れてきた。
「上杉景勝ハ、ワレワレの月面基地に先制攻撃を仕掛けてキタ。コレはその報復ダ。ワレワレは上杉を根絶やしにするまで攻撃をヤメナイ。楽に死にたければ自害シロ」
飛行物体からアナウンスの後、上空に映像が映し出された。それは、月面基地上で上杉兵がグレイ・タイプの宇宙人を大量虐殺して大笑いしているアニメーション映像であった。
「ワレワレは上杉景勝を決して許さない。そして、地球人ニモ連帯責任として絶滅してモラウ。まずは手始めに上杉を絶滅させる。ミナゴロシだ」
皆殺し宣言が出たところで、飛行物体は胴体下端のスカート部から地上に向かって青白い光線を照射し始めた。光線が通り過ぎた後はすべてが凍結し、生き残った者は皆無であった。
未確認飛行物体による攻撃で、木舟城はものの30分で落とされてしまった。
その未確認飛行物体の中では、次のような会話が行われていた。
「誠さん、木舟城の敷地の中に生命反応はありません。殲滅完了です。次はどうしますか?」
「城下町にも上杉の兵が残っているみたいだから、ユーフォーロボの性能テストをかねて、殲滅していこうか」
「じゃあ、背面からファンネルも飛ばしてみますか?」
「そうだね、僕の『時空間支配』スキルとファンネルを使った攻撃も試してみるよ」
誠はそう言うと、ロボの背面からファンネルを10基ほど飛ばした。そして、ロックオンした上杉兵に対して虱潰しに冷凍光線を浴びせていった。
その間、頭部と両腕はロボ本体と再び合体して、それらのパーツに搭乗していたアリス、葵、菫はロボ胴体部分の登場者シートに戻ってきていた。
「皆、パーツの試運転はどうだった?」
誠の問いに対しては、異能に最も長けたアリスが代表して答えた。
「うん、大きな問題はなかったけど、激しく動かすと強度が少し足りないかもしれないわね。椿と補強を入れてみるわ」
「そうか、強度が足りなかったか……誠、スマンかったな」
「ああ、椿、気にしないでいいよ。最終決戦までに調整できればいいから」
「わかった。なあ、誠、最終決戦には強敵が現れるかもしれないのか?」
「そうだね、上杉も滅亡したくないだろうから、凄腕の異能者を雇ってくる可能性は考えておいた方がいいかもしれないね」
「そうなると、ロボに機動力も必要になるかもしれないな。補強もその辺を想定して入れてみるよ」
「うん、その辺りは椿とアリスに任せる。あとは問題無いようなら、目的も達したことだし、今日はそろそろ帰ろうっか」
誠はそう言うと、ファンネルをすべて回収し再び、ロボを雲の上まで上昇させた。
「誠、いったん里まで帰るの?」
「そうだね、葵、今日は仕事が早く終わったから里に帰ろうか。一応、ユーフォーロボはキャンピング仕様になっているから野営もできるんだけど、里の方がくつろげるもんね」
そう言いながら、ユーフォーロボは里の方角へ進路を向けた。
一方、間近で見物していた信長は必死に笑いを堪えていた。
「あいつ、俺が『魔王』を禁止したからって、『スペース・インベーダー』はないだろ! いったい、どういう頭をしているんだよっ」
「上様、あの『すぺーすいんべーだー』って、お知り合いですか?」
「まあ、上杉討伐の友軍ってところだな。奴らが俺のかわりに上杉を滅ぼしてくれるんだとよ。いいか、このことは他言無用だぞ!」
「はい、わかりました。しかし、上様は変わったお知り合いがいらっしゃるんですね」
「まあな。くくっ……しかし、月面基地って何の冗談だよ……この時代に理解できる奴なんか、いねぇだろうが!」
誠達が去った後、信長と柴田勝家は一兵も減らすことなく、無傷の木舟城とその城下を手に入れたのだった。




