第五十七話 第六天魔王との密談
誠は撫子から連絡をもらった後、テレポーテーションで撫子の神殿に来ていた。
「撫子、織田様はどこに?」
「どこに?じゃないわよ! 後で、ちゃんと説明してくれるんでしょうね!」
撫子はいきなり天下人が、たかが小領主の妻でしかない自分を訪ねてきたせいで、完全に取り乱していた。
「う、うん、それは、織田様との話し合いの結果次第かな。まあ、撫子にとって悪いようにはしないから安心しなよ。ははは……」
「わ、わかっているわよ。べ、別にアンタに腹を立てているわけじゃないんだからねっ」
誠は、その後、撫子の案内で信長が待つ客室に案内された。
「織田様、私が誠でございます。商人をしております」
「誠か……単刀直入に聞く。お前、転生者だろ」
誠は一瞬だけ、自分が転生者であることを誤魔化すべきか悩んだ。だが、わざわざ撫子を訪ねてきたところを見ると、すでに信長にはバレていることが容易に想像できた。もしそうなら、嘘をついた瞬間に自分の首が飛ぶので素直に答えることにした。
「……はい、転生者でございます」
信長はニヤリと口元を歪めると、いきなりカミングアウトを始めた。
「そうかそうか、実は俺も転生者なんだよ。撫子絡みの宗教ビジネスもお前が考えたんだろ?」
「左様にございます」
やはり、宗教ビジネスに目を付けられたのかと、誠は少し反省した。
「誠、俺と2人だけの時は畏まる必要はないぞ。信長と呼び捨ていい」
誠は呼び捨てで信長を呼んだ瞬間、首が飛ぶのではないかとヒヤヒヤしながら恐る恐る信長の名を呼んでみた。
「の、信長さん?」
「それでいい。ところは誠は前世で何をしていたんだ?」
「僕は前世では研究者でした。45歳の時に過労で倒れてまして、この世界に転生してきました」
「ほほう、じゃあ、俺よりも年上だな。俺は前世で39の時に事故に合ってな、こっちに転生してきた。前世ではゼネコンに努めていたんだ」
ゼネコン出身と聞いて、誠は一気に親近感が湧いて緊張が解けてきた。
「そうでしたか。いきなり織田信長に転生したんじゃ、ご苦労なさったのでは?」
「そのとおりだよ! しかも、他の戦国武将の周りにも転生者がいたりするものだから、歴史通りに事は進まないし」
「えっ、そうなんですか?」
「誠は知らないだろうけど、もう教科書に載っている歴史とはかけ離れているんだぞ」
「ま、まじですか……」
「まあ、誠の住んでいる辺りやこの辺の田舎は影響は少ないがな、関西や東海の辺りはグチャグチャだよ」
「ということは、本能寺対策は大丈夫なんですか?」
「ああ、そっちはもう手を打ったから、大丈夫だと思う。ところで、お前の所には神様のお告げはあったのか?」
「ええ、天照大御神と名乗る女性が枕元に立って、家康に天下を取らせるなって勝手なことを言ってきましたよ」
「ああ、俺の時もそんな感じだった。どうやらな、家康は隣国の神の使徒らしいんだよ」
「ははは……と言われまして、一商人の私には何もできませんけどね」
「それはわかってるさ。それで、今日、誠に会いに来た目的はな、俺もお前の宗教ビジネスに一枚噛ませてほしいんだよ」
「そうですか……」
誠は面倒なことになったなと、内心焦っていた。立場的に断るのも難しそうである。せめてもの抵抗で顰めっ面を作ってみせることくらいしかできなかった。
「いや、これは対等な商取引だから、誠の要求もしっかり飲んでやるぞ」
信長の回答から、実は話のわかる人物かもしれないと考えた誠は、思い切って焔救済のためのもう一つの案を信長に持ちかけてみることにした。
「そういうことなら、1つ計画している事業にご助力頂けると有難いです」
「わかった。話してみろ」
「実は私の友人の転生者を救うために上杉を滅ぼそうと計画しているんです」
「上杉をか! お前、見かけによらず滅茶苦茶な奴だな!」
「実はその友人が上杉から討伐対象に指定されてまして、彼を救うにはそれしかないのです」
「それで、それが宗教ビジネスとどう繋がるんだ?」
「まず、僕が魔王に扮して上杉を滅ぼします。その後、一芝居打って、友人が魔王を滅ぼすところ偽装して民衆に友人が正義の味方かつ神の使徒であると認識させます」
そこまで聞いて信長は誠のやろうとしていることを理解したようであった。
「読めたぞ。その後、友人を神格化して神殿を立てて、ここの撫子と同じような宗教ビジネスを立ち上げるつもりだな?」
「そのとおりですが、まだ続きがあります。魔王は最後に友人の必殺技で炎に包まれて、新潟県の海岸に墜落し巨大な奇岩として祀られるという筋書きです。観光名所にもなると思いますよ」
「それだけか?」
「その友人というのが東京大学農学部出身の農家でして、この時代で農業をするのが夢なんですよ」
「なるほど、知識チートで農業を発展させて地域に富をもたらす計画か……」
「そうなんです。それで、僕が上杉を滅ぼした後に信長さんが越後国を統治して、友人を小領主にしてもらいたいというのと、あと他に、この神殿の撫子のことも守護してほしいというのが、こちらからの取引条件です」
「なるほどな。お前が『魔王』として派手に暴れて上杉と新発田を滅ぼしてくれれば、俺は一兵も損なわずに越後を領土にできる。……で、その後にお前の友人が魔王を討ち取って、新潟の海辺に封印する芝居を打つ、と」
「そういうことです。信長さんにも損はないでしょう?」
「撫子も俺が守護するのか?」
「彼女は僕の親しい友人でして、僕の嫁とも仲がいいんですよ。とはいっても、しがない小領主の妻なので、この際、信長さんに彼女の後ろ盾になってもらえると僕も安心できるので……」
「それは承知した。それで、海辺に神殿っていうのに意味はあるのか?」
「実は近い将来、海運業にも進出する計画がありまして、友人の領地に港があると便利かなと思いまして。別に神殿は海辺でなくていいですよ。領地に港がほしいだけなんで」
「お前ってやつは抜け目がないな……わかった、その話、乗った! ゼネコンの俺の知識で、めちゃくちゃハッタリの効いたデカい神殿の設計図を引いてやるから、そこで宗教ビジネスを立ち上げろ。港も俺が作ってやる。莫大な観光収入と米の利益は、織田家とそっちで山分けだ」
「米の利益までは入りません。僕の方は神殿での商いと海運の許可だけ頂ければ満足ですよ。撫子のところでもそんな感じですから。その代わりに、僕の里の税を免除してもらえないですか? 実は今も敦賀を追い出されて山奥で暮らしているので払ってないんですよ、ははは……」
「はははじゃねぇよ! まあ、米の利益がいらないっていうなら、それでもいいか。どうせ、お前の里から税を取っても大した額にならんだろうしな。それにしても、お前は欲がないな」
「中身が45歳のオッサンですから、野心なんてありませんよ。自分と家族が平和に暮らせれば、それで満足ですから」
「野心が無いわりには上杉を滅ぼすとか、お前の頭はどうなってるんだよ?」
「実は友人の妹が僕の嫁でして、彼女も上杉から討伐対象になっているんです。天照大御神からは嫁を大事にしろって言われているもので……」
「まあ、友人のことは俺に任せろ。俺の方で生き神様扱いされるように演出してやるから」
「ありがとうございます。上杉殲滅の詳しい日程が決まりましたら、撫子に計画書を渡しておきます。信長さんは、それを見て出陣の計画を立ててください」
「了解だ」
「あ! 1つ忘れてました。計画では上杉の城はすべて落とす予定ですが、城の方は再利用できる程度に残した方がいいですか? それとも跡形もなく吹き飛ばした方が良かったですか?」
「吹き飛ばすって、お前、どんだけ暴れるつもりなんだよ!? こっちとしては再利用できる方がありがたいな。城を再建するにも金と時間と人夫が必要だからな」
「わかりました。では極力、建物は残すようにします」
「それは助かる。それと、こちらからは、もうひとつ注文がある」
「えっ……その注文とは?」
「そんなに大した事じゃないよ。芝居を打つ時に『魔王』っていうのをやめてほしいんだ。俺はこれでも『第六天魔王』を名乗っているからな。俺のイメージに影響があると困るから、お前は『魔王』以外の悪役を名乗ってくれ」
「『魔王』以外ですか......わかりました。では、これで取引成立ですね。あと、これは僕から信長さんへのお土産です」
「これは、拳銃ともう一つはなんだ?」
「まず、拳銃はホイールロック式だから火縄銃よりも便利ですよ。是非、護身用にお使いください。そしてもう1つは『乙姫』という当方の主力商品です」
「あの『乙姫』か! うちの女どもが騒いでおったな。数が出回っておらんレアものだから自慢できるな。これは良いものを貰った」
「気に入ってもらえて良かったですよ。『乙姫』は手作りだから数を作れないんですよね。乙姫はここの神殿と敦賀の娼館にしか卸してないんですよ。友人の神殿ができたら、そこにも卸す予定です」
「拳銃の弾丸の補充はどうすればいい?」
「ああ、それなら、敦賀の紅椿屋っていう娼館の女主人に預けておきますので、彼女から受け取ってください」
「敦賀なら近いから助かるな」
「それと、いくら便利といっても連射はできませんから気をつけて下さい。そのせいで僕の嫁は死にかけましたから。ははは……」
「それは分かっている。なあ、誠、もう一丁、予備で欲しいんだけど」
「いいですよ。それも紅椿屋に預けおきます」
「助かる。ちゃんと金は払うから、そこは心配しなくていいぞ」
「お気遣い、ありがとうございます」
その後、信長は誠と少し雑談をしてからテレポートで自分の拠点へと帰っていった。
信長が帰った後、誠は撫子のもとに行った。
「撫子、織田様との話が終わったよ」
「誠、織田様は帰ったの?」
「うん、だから安心していいよ。それから、今度、織田様と事業を一緒にすることになったんだけど、それが成功したら撫子の後ろ盾になってくれるってさ」
「は? アンタ、自分が何を言っているのか分かってるの!?」
「え? 織田様に撫子の後ろ盾になってもらうの、駄目だった?」
「いえ、駄目ではないけど、急すぎて理解が追いつかないわ……」
「もし、後ろ盾になってもらえれば、織田の天下が続く限り、撫子の人生は盤石ってことだよ」
「……まったく、アンタって人は、嫁思いにもほどがあるわ……」




