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博士転生〈戦国時代にユートピアをつくる〉  作者: ビアンコ
魔王降臨編

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第五十六話 パイロキネシス

 樋口与六は、伝令から樺沢城での戦闘の報告を受けていた。


「樺沢城は焔によって跡形もなく破壊されました。しかし、樺沢城を落とした後、焔は異能を使えなくなったようです。その証拠に徒歩で山の中に消えたとのことです」


「そうか、さすがの焔も異能の力を使いきったようだな。ここらが総攻撃の頃合いか。奴が回復する前に叩く。至急、全軍で出撃して焔の里を包囲せよ!」


 樋口与六は1300名の上田衆で焔の里に向けて進軍を開始した。上杉の兵は、焔が異能を使えなくなったと事を知ったこともあり、異様に士気が高かった。つい先日、味方700名を焔に焼き殺されているので、その報復の機会をずっと待っていたのだ。


 里まで1kmの地点まで進軍した時点で、上田衆は包囲網を敷き始めた


「ここまで里に近づいて焔が迎撃に出てこないってことは、奴が異能を使えないというのは間違いないようだな」


「そうだ、異能をつかない焔など怖くないからな。仲間の敵《かたき》を討つ絶好の機会だ。楽に死なせはしないぞ」


 焔は上田衆に対して大量虐殺を行ったため、上杉軍における彼に対する怨恨は相当なものになっていた。




 一方、誠達は樋口与六率いる上田衆が焔の里に来るのを雲の上から待ち構えていた。


「じゃあ、灯里ちゃん、特訓の成果を皆に披露しようよ」


「誠さん、見てて。魔王の必殺技を」


 灯里が異能で炎の弓を顕現し、そこに炎の矢をつがえて引き絞った。灯里は意識を集中して熱エネルギーを矢に充填し始めた。そして射出の準備が整うと誠に顔を向けた。


「誠さん、じゃあ、射つよ」


「うん、お願い」


 灯里が炎の矢を放つと、矢は直径5m程の炎の柱となって地上に向かって雲を突き破り、焔の里に突き刺さった。その直後、巨大な爆発を起こして里の全てを吹き飛ばした。


 その光景は上杉軍にも見えていた。炎の柱が里のある方角に突き刺さった後、死を予感させるような熱波が彼らを襲い、続いて衝撃波、轟音、そして最後に爆風が吹き荒れた。


 幸いなことに、誠達は上杉軍と山林を守るために異能で防壁を築いていたため、兵たちにほとんど被害はなかった。上杉軍には焔の里消滅の証人になってもらわないと困るからだった。上杉軍が感じた爆発による恐怖は、あくまでも誠達によって安全を確保した上で演出されたものだったのだ。


「おい、誰か、何が起きたのか里の様子を見てこい!」


 偵察に出された兵が見たものは、直径200m程のクレーターだった。クレータの内部は真っ赤な溶岩となってグツグツと沸騰していた。


「これは、生存者ゼロだな……。焔の奴、やりすぎたせいで天罰が落ちたんじゃないのか……」


 偵察から報告を受けた上杉軍は、殲滅対象が消滅してしまったため坂戸城へひとまず戻ることとなった。焔の里で起きた爆発はその被害の大きさから人知を超えた災害として上杉軍に認識された。


「これでは、里の者は生きてはいまい。焔の消息が気になるが、里にいたのなら爆発に巻き込まれて死んだと考えるのが妥当だろうな」


 上田衆の指揮官である樋口与六もそう考えて兵を引いたのだった。




「とりあえず、上杉には焔の里の人達は全員死亡という認識を持ってもらえたと思う。一先ず作戦成功だね。ご苦労さん、灯里ちゃん」


「正直、里を自分の手で吹き飛ばしたのは複雑な気分だけど、仕方ないよね」


「うん、この場所に住む限り、永久に討伐軍を送り込まれるからね。こうするしかなかったんだよ」


「誠〜、焔らしき人が近くに来ているよ〜」


「よ〜し、これも目論見どおりだ。皆、焔を確保して!」


 異能を使えなくなった焔は嫁達にあっさりと捕らえられた。その時、焔は里のあった場所を眺めて呆然としていた。自分の守るべき場所すら失ってしまい、生ける屍のように立ち尽くしていたところを菫達に確保されたのだった。


 灯里は連れてこられた焔の姿を見て、絶句した。頬はこけ、身体も痩せ衰えて、落ち窪んだ眼窩からは虚ろな瞳が覗いていた。そこには、かつての頼もしい兄の姿はなかった。


「お兄! どうしてこんなになるまで1人で抱え込んでいたの!」


 灯里は長身の兄に寄りかかってしばらく泣いていた。



 灯里が落ち着いたところで、誠は皆に帰還を命じた。


「皆、そろそろ僕らの里に帰ろう。焔の手当もしたいし、次の作戦の準備にかからないといけないから」



===


 誠達が里に戻ると、諜報要員として残した芹が近寄って来て小声で報告をしてきた。


「誠さん、焔の里の人達はシロです。あの人達は善良で真面目に働いてくれています。このまま、ここの労働力として欲しいくらいでしたよ」


「それを聞いて安心したよ。芹、ご苦労だったね」


「ほんと、そうですよ! 私1人だけ、誠さんと離れ離れにしておいて……責任とって下さいね。今夜は私、誠さんと添い寝させてもらいますから!」


「添い寝……だけだよ」


 45歳で転生してきた誠の若い娘に対する興味は、性欲という意味ではかなり薄いものであった。性欲ゼロというわけでもないが、後々面倒なことになることを想像すると、あえて積極的にはなれなかったのだ。さらに自分の娘くらいの年齢の女子に対しては倫理的な壁が邪魔をしていた。誠はなりゆきで8人の娘を嫁にしていたが、嫁というよりも娘として庇護したいという感覚が近かったのかもしれない。




 芹から報告を受けた後、誠達は今後の方針について打ち合わせを行うこととなった。


「今後の計画だけど、まずは魔王の仕業に偽装して焔を上杉軍の目の前で殺す芝居をします。その後はそのまま、上杉を滅ぼします。これが計画の概要ですが、なにか意見や質問はあるかな?」


「はい! 誠さん。椿ちゃんから聞いたんですけど、その魔王は人が搭乗できる……いわゆるロボですよね?」


「うん、芹の言うとおりだよ。僕らの面が割れるわけにはいかないからね。その魔王のハリボテの中に入って芝居を打とうと思ってるんだ」


「わかりました。それで、その魔王には何人くらい人を入れる予定なんですか?」


「そこは相談なんだけど、今度は直接恨みのない上杉軍を数千から万単位で大量虐殺することになるんだよね。だから、嫁の皆には強要はしないつもりなんだ。最悪、僕1人でもいいと考えている」


 誠の申し出を聞いた芹は、その場でロボの搭乗者を募集しはじめた。


「では、この場で決を取りますね。ロボットに乗りたい人は手を上げて下さい!」


 芹が搭乗希望者を募ると、嫁全員が手を上げた。さらには主水と豪三も手を上げている。


「これは、かなり大きなロボになりそうですね……デザインと脚本は、私とお姉ちゃんに任せてもらえるんですよね?」


「うん、全員が希望したのは誤算だったけど、芹と菫に任せるよ。設計と制作は椿とアリスが担当するから、適宜相談してもらえるかな」


「わかりました。誠さん、私達に任せてください。凄いのを作って見せますよ!」


 ロボと聞いて、芹がやたらと張り切っていた。そこに椿から質問があった。


「なあ、こんなに魔王ロボに乗りたい奴がいるんならよ、いくつかのパーツに分離して、それぞれが攻撃できるようにした方が敵を殲滅しやすいんじゃないのか?」


「椿ちゃん、そこは任せて! ちゃんと、そういうロボを誠さんから教えてもらっているから!」


「そ、そうか、芹がそう言うんなら間違いないか」


「誠、魔王ロボは何色にする?」


「葵、いい質問だね。色は黒っぽい方がいいかな。そして目だけが明るく光る感じが良いんじゃないだろうか」


「誠〜、ぴったりのデザインのがあるよ〜。たぶん芹ちゃんが考えてるのと同じだと思うけど〜」


「それって、白い悪魔とか赤いなんちゃらが出てくる話のロボかな?」


「はい、それのラスボスが誠さんの要望のぴったりだと思います。足が無いのが異形っぽくて、この時代の人達にはインパクトがあると思いますよ!」


「そ、そうですか……あと、主水さんには攻め落とす上杉の城の順番を決めてもらっていいですか?」


「誠さん、わかりました。粗方出来ていますが、後で紙面にまとめてお渡しいたします」


「じゃあ、そういうことで各自、準備に取り掛かってください」




 一方、焔は健康状態を取り戻すために宗一郎の診療所で治療を受けていた。会議の後、誠は焔の容体を聞くため、灯里とともに診療所を訪ねていた。


「宗一郎さん、焔の様子はどうですか?」


「まあ、単なる寝不足と、栄養失調だな。栄養のあるものを食って十分な睡眠をとれば、1週間くらいで身体は元に戻るだろうな。だがな……」


「そこまで言ったら、最後まで教えてくださいよ!」


「心が病んじまってるな、こりゃ。本人に生きようという意思がなければ、医者の俺も力になれないからな」


「お兄は、ああ見えて繊細だから……」


「ああ、お前の兄貴は優しすぎるんだよ。せめて誠くらい図太けりゃ良かったのによ」


 焔の寝かされているベッドの傍らには、紬が張り付いていた。紬は想い人の焔が心配でならないようだった。


「お兄ちゃん、焔さんを助けてあげて! お願い!」


 最愛の妹に頼まれては、誠には断ることはできなかったが良い解決策も直ぐには思いつかなかった。


「そうだな……何か生きがいになるような目標でもあればな……」


 誠が頭を悩ましていると、越中国にいる撫子からテレパシーで通信が入った。


『誠! アンタ、いったい何やらかしたのよ!』


『撫子、まあまあ、落ち着いてよ』


『落ち着いている場合じゃないわよ! 織田の殿様がアンタに会わせろって、私の神殿にいらしているのよ!』


『ま、まじですか……』


『まったくだわ! いったい、私はどうすればいいのかしら!?』


『わ、わかったよ、直ぐに行くから。迷惑かけてゴメン、撫子』


 慌てた様子の誠に、周りの者達は怪訝な顔を向けた。


「誠さん、何があったの?」


「灯里ちゃん、撫子の神殿に信長……いや、織田の殿様が訪ねてきて、僕の会わせろって言ってるらしい」


「へ?」


「誠、お前、今度は何やらかしたんだよ!?」


「宗一郎さん、そんな人聞きの悪いこと言わないでくださいよ……何もしてませんって」


「で、どうするんだよ?」


「どうもこうも一番敵に回したくないお方ですから、手土産持参で会いに行ってきますよ。他の皆にはそう言っておいてください」


 誠は織田信長の呼び出しで、急遽、越中国の撫子の神殿に出向くことになった。

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