第五十三話 ミドルエイジの憂鬱
「黒岩ちゃん、宮田ちゃんと竹田ちゃんが帰って来ないんだけど、もう総攻撃に行っちゃう?」
「そうですね……彼らが出撃してから丸1日経ちましたから、2人の生還は絶望的だと思います」
「じゃあ、これ以上待ってても仕方ないから、いっちょ、焔の里を滅ぼしに行くとしますか!」
「そうですね。今まで金田さんと僕で勝てない敵はいませんでしたから、問題ないでしょう。できれば、少しくらいは情報が欲しかったですけどね」
「まあ、それは皆、負けちゃったんだから仕方ないよ。この依頼が終わったら、また異能者集めをしないといけないね」
「まずは、依頼を片付けることだけ考えましょう」
「そうだね。じゃあ、出撃するとしますか!」
こうして、金田と黒岩は誠達が待ち構えているとも知らずに、一般兵20名を引き連れて焔の里に向け、進軍を開始した。
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一方、誠らは、金田達が山に入った時点で攻めてきたことを察知していた。
「主水さん、今度は日中に攻めてきましたね。全部で22人です」
「ええ、誠さん。たぶん、これが最後の総攻撃かと思います。銭絵や竹田から吐かせた情報とも人数は一致します」
「そうですか」
「それから、誠さん。金田の異能ですが、すでに彼が持っている異能はこちらも使って構わないと思いますよ」
「ということは、銭絵が使っていた指弾みたいな技と、あと、重力操作も使って問題ないってことですね」
「誠、じゃあ、雑兵は異能で始末してもいいってことだな。異能を使った方が手っ取り早いからな」
「うん、椿の言うとおりだと思う。そこらへんは皆に任せるよ」
最近、出番が少ない葵が手を上げた。
「それで、誠、今回は誰が出撃する?」
「うん、今回は強敵の可能性があるから、灯里ちゃんと宗一郎さんと調子の悪い焔は留守番で、それ以外、全員出撃してもらおうと思う」
「じゃあ、前回、決めたように私と主水が異能者の相手をしていいんだな?」
「構わないよ、椿。ただし、危なくなったら僕らが支援するから。あまり無理はしないでほしい」
「わかったよ。たぶん、大丈夫だと思うぜ!」
そこで、アリスがモジモジしならがら誠に訊ねた。
「あの……、誠、試してみたい異能があるんだけど、私が先制攻撃をしてもいい?」
「ええ……。異能は金田に真似されるから新しいのは遠慮してもらいたいのだけど」
「そこは、大丈夫よ。金田にはわからないように誤魔化すから!」
「え〜、本当に大丈夫なの?」
「私を信じて!」
「じゃあ、分かったよ。先制攻撃はアリスに任すよ」
「やった! 誠、ありがとう!」
アリスが喜ぶ一方で、葵は今回も自分の出番が無さそうだと肩を落とした。
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金田達が山の中を進軍していると、急に辺りに霧が立ち込めてきた。
「黒岩ちゃん、急に霧が出てきたね」
「金田さん、これは単なる自然現象だと思いますよ。一応、敵の攻撃を警戒して一般兵を盾代わりに密集させましょう」
金田達は自分の周囲に一般兵を集めて肉の壁を作り、慎重に進軍していった。そして、霧は益々濃くなり、となりを歩いている兵の姿を視認するのも困難になっていった。
しばらくして、霧が晴れるころには、金田達の周りから一般兵の姿は綺麗に消えていた。
「金田さん、一般兵が1人も残ってません!」
「えっ、何が起きた?」
「それが……皆目見当もつきません」
「襲撃された気配もなかったよね……」
「ええ、異能を使われた気配もなかったです」
「……」
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一方で、金田達を少し離れたところから観察していた誠陣営では、次のような会話がなされていた。
「おい! アリス、この霧もお前が作ったんだろ? それでよ、その後、お前、いったい何をしたんだよ!?」
「椿、実はね、とても小さいブラックホールを敵の足元に撃ち込んで、敵を吸い込んでもらったの!」
「ぶらっくほーる? ……意味わかんねぇけど、敵を消したってことか! まじか……」
「でも、椿のために、金田と黒岩は残しておいたから、安心して」
「そうか、別に私に気を使わなくてよかったのにな……」
「それでね、椿、お願いがあるんだけど、金田と黒岩の頭の中身を研究したいの!」
「ええ……、それって、つまり、頭は無傷で残しておけってことか?」
「うん、できればでいいから!」
「わかったよ、なるべくアリスの希望に沿えるようにするよ……」
それを横で聞いていた誠はゲンナリした表情で呟いた。
「そうか……ついにブラックホールを作っちゃったか……事故で地球が無くならないことを祈るしかないな……」
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霧が晴れて少しした頃、金田と黒岩の前に、1人の若い女と中年の男が姿を現した。
「私は黒岩の相手するからよ。師匠の主水は金田を頼むわ!」
「分かりました、弟子の椿さん」
主水の了解が取れると、椿はおもむろに大声で金田達に話しかけた。
「おーい! 私の相手の黒岩はどいつだ!? 銭絵の話しでは筋肉ムキムキの兄ちゃんだって話だけどよ。お前のことか?」
「お前の言うとおり僕が黒岩だ。お前を半殺しにして焔の情報を吐かせてやるよ」
椿と黒岩のやりとりを見ていた金田は見物を決め込むことにしたようだ。
「じゃあ、久しぶりに黒岩ちゃんの戦闘を見させてもらうかな。そこのオジサンもそれでいいよね?」
「わかりました。私も自分の弟子の戦いに興味があるので決着が着くまでは大人しくしていますよ」
「じゃあ、黒岩ちゃん、始めちゃっていいよ!」
「わかりました、金田さん」
黒岩は椿に向き直ると、異能で自慢の筋肉を硬化させて構えた。
「おい! 女、お前は何者なんだ?」
「私は忍びだよ。そこら辺の雑魚と一緒にすると、痛い目を見るぜ、ムキムキ野郎!」
「お前、頭、大丈夫か? 忍びが異能者に勝てるとでも思っているのか?」
黒岩が台詞《せりふ」》を言い終わるまえに、椿は煙玉を黒岩の足元に投擲し、煙幕を展開した。
「てめぇ、忍びを舐めてんじゃねぇぞ」
どすの利いた声で呟いた次の瞬間、椿は縮地で黒岩とすれ違いざま、黒岩の顔面に目潰しをぶつけた。
「ぐっ……」
「おい、ムキムキ君、その目潰しにはトリカブトの毒が入ってるから、早めに顔を洗った方がいいぜ!」
椿が黒岩を小馬鹿にしたように嘲笑うと、黒岩は逆上した。
「この女、舐めた真似をしやがって!」
だが、黒岩は直ぐに反撃には映らず、懐から手ぬぐいを取り出すと、顔を丁寧に拭い始めた。几帳面な性格なのだ。その隙を狙って、椿は縮地で黒岩に斬撃を浴びせ続けた。
「ちっ、硬い野郎だな......。普通に斬ったんじゃ傷もつかないか」
顔を拭き終わった黒岩は改めて構えをとった。
「僕の鍛え抜かれた筋肉を舐めないでもらいたいな。硬化した僕の身体に刀では傷は付けられないし、毒も効かないから諦めて拷問を受けろ」
「なにが鍛え抜かれた筋肉だ。ムキムキすぎてキモいんだよ! この筋肉ダルマが!」
そういうと、椿は刀に闘気を纏わせて縮地で黒岩に横薙ぎの斬撃を食らわせた。其の斬撃は、黒岩の右腿に3cm程度の深さの傷を負わせたのだった。
「貴様〜、よくも僕の大切な筋肉に傷を付けたなああ――!」
激怒した黒岩は異能の高周波ブレードを抜刀した。
(ふ〜ん、あれが菫の言ってた異能の防壁を斬ったっていう異能の刀か。まあ、私には関係ないけどな)
椿は心の中でそう呟くと、構わず、黒岩に斬り掛かっていった。
「馬鹿な奴だ、高周波ブレードでお前の刀ごと斬り刻んでやるよ」
椿の上段から斬撃を黒岩は高周波ブレードで受けたが、なぜか椿の刀を切断することはできなかった。
「ムキムキ君にも一つ教えてやるよ。お前の刀じゃ、私に傷一つ付けられないぜ」
そう言うと、椿は黒岩の鳩尾目掛けて強烈な刺突を行った。黒岩はとっさに身体をずらして避けたが腹部には大きな切り傷ができていた。
「おい、ムキムキ野郎、お前は筋肉ばかり鍛えて、武術はサッパリだろ? 弱すぎるぞ」
「黙れ、僕は選ばれし異能者なんだ! お前らのような凡人とは違うんだよ!」
黒岩はそう言って、目の前でニヤニヤと彼のことを嘲笑っている椿を高周波ブレードで横薙ぎに両断した。だが、手応えが全くないことに違和感を感じていると、背後から椿の声が聞こえてきた。
「残像だ」
そう言って、黒岩の左上腕に刺突を食らわせた。
「うがあ゛ああ――!」
強烈な痛みに耐えかねて、黒岩は高周波ブレードを落として、力なくぶら下がる左腕を押さえた。
「武術家を舐めるからだぞ。最初に言っただろ、痛い目を見るって」
椿は刀に纏わせた闘気を黒岩の腕の内部で爆発させて骨を粉砕したのだった。
続けざまに椿は黒岩の四肢の骨を粉砕していった。
「おーい! アリス―! こいつは頭だけ残しておけばいいのか―?」
「椿――! せっかくのサンプルだから、他も残しておいて! 肺と心臓以外の内臓は破壊しても構わないわ―!」
どこからともなく少女の声が聞こえてきた。
「注文の多い奴だな……」
椿は地面に仰向けに転がっている黒岩の腹部に闘気を纏わせた正拳突きを打ち込み、消化器系の内蔵をミンチ状に粉砕した。
「うぐう゛うう――!!」
黒岩はあまりの激痛で地面を転がり回っていたが、やがて静かになった。
「アリス――! 心臓と肺は残しておいたから、しばらくは生きていると思うけど、これでいいか?」
「うん、ありがとう、椿! あとで回収しに行くわ!」
「よし! 主水、こっちは終わったぜ!」
「椿さん、お見事でした! 私の教えのとおり、異能を使わずに敵を倒せましたね。これで免許皆伝とします。短い間によくここまで成長しましたね。正直、驚きました」
「これも愛する旦那様のためだからな」
「ふふ、誠さんが、聞いたら泣いて喜びますよ」
「後は、そこのアンパンマンみたい顔の男だけだな。主水、師匠の貫禄ってやつをいっちょ、私に見せてくれよ」
「ええ、見ててください」
そこにいきなり金田が割って入ってきた。
「そこのお姉ちゃん、今、僕のこと『アンパンマン』って言ったよね? 君も転生者なの?」
「はぁ? んな訳ねぇだろ! 転生者は旦那様の方だよ!」
「旦那様? 傭兵でもしているのかい? なんなら僕が雇ってあげてもいいけど」
「傭兵? 私の旦那様は商人だぜ、お前と一緒にすんな! それに何が悲しくてお前なんかに雇われないといけねぇんだよ!? ぶっ殺すぞ!」
「…… 」
金田は椿の口の悪さに閉口していた。今まで自分の周りをイエスマンで固めていたので、暴言に免疫がなかったのだった。暴言は自分が吐くものであり、他人から浴びせられるものではないというのが、これまでの彼の常識だった。
ブチ切れ寸前の椿に、見かねた主水が間に入った。
「まあまあ、椿さん、彼の相手は私がしますから落ち着いて下さい」
「ちっ、わかったよ、ここは主水の顔を立ててやるよ!」
「じゃあ、金田さん、私達も殺し合いを始めますか」
「オジサン、いつでもかかってきていいよ。僕は万能だからね。なんでもできるんだ」
「わかりました。では、遠慮なく」
そう言うと、主水は次の瞬間、縮地ですれ違いざまに金田の首に斬撃を浴びせた。
「おや? これは残像ではありませんね……菫さんが言ってた認識阻害って異能ですか……」
「オジサン、詳しいね。僕が何処にいるかわからないでしょう?」
「ふふ、そうでもないですよ」
次の瞬間、主水は刀を横薙ぎに一閃して広域に斬撃を放った。
「痛っ!」
「ふっ、そこですか」
主水は手応えのあった場所目掛けて、縮地で横薙ぎの斬撃をすれ違いざまに金田に浴びせた。
「イタタ、黒岩ちゃんの筋肉硬化を使っていなかったら死んでたな。危ない危ない。今度は僕の方から攻撃させてもらうよ」
すると、金田がいるであろう方角から、圧縮空気の弾丸が複数飛んできた。主水は最初のうちは刀で受け流していたが、そのうち面倒になったのかそのまま身体で敵の攻撃を受け始めた。
「ここまで観察して分かったのですが、金田さんの異能は劣化コピーですね。筋肉硬化も、認識阻害も、圧縮空気弾もオリジナルと比べて能力の劣化が著しいです」
「……」
「菫さんが苦戦した認識阻害も、異能が使えない私にですら、あなたの位置が何となくわかってしまうくらいですからね」
「じゃあ、これはどうですか」
主水に対して重力の負荷が増加した。
「う〜ん、若干、身体が重くなった気がしますが、武人に対しては意味のある攻撃ではないですね……」
「それじゃ、この攻撃はどうだ!」
金田がそう叫ぶと、倒れている黒岩の背嚢から直径10cmの鉄球が十数個飛び出し主水の周りを周回し始めた。
「オジサンは僕のオールレンジ攻撃に耐えられるかな?」
次の瞬間、鉄球が不規則に猛スピードで主水に向かって来た。だが、主水は鉄球を器用に避けながら呆れていた。
「金田さん、この鉄球、遅すぎますよ。もっとスピードは出ないのですか?」
そう言うと、主水は飛んできた鉄球を刀で両断し始めた。
「高周波ブレードも使えないくせに、鉄球を斬ることができるだと? このオジサン、化物か?」
「化物とは酷い言われようですね。この攻撃も飽きましたし、他の攻撃手段はないのですか?」
金田は異能の高周波ブレードを抜刀し、主水の背後から斬り掛かった。だが、主水は、金田の高周波ブレードを闘気を纏わせた刀で根本から切断したのだった。
「異能すら斬れる高周波ブレードということですが、これも劣化が著しいですね。これなら、鍛え抜かれた名刀の方がよっぽど切れ味が良いですよ」
「くそ! オッサンの癖に生意気な」
「やれやれ、あなたも年を取れば、やがてオッサンになるんですよ。そんなことも分からないとは笑止ですね」
「煩い! 僕を馬鹿にするな! 僕は選ばれし神の代行者なんだぞ!」
「……私が想像していたよりも雑魚でしたね。あなたには失望したので、大人しくして下さい」
主水はそういうと、金田がいる場所に向かって縮地で連続の刺突を浴びせた。頭部以外の骨を粉砕された金田は、あまりの激痛のため認識阻害の異能も解けて姿を現した。
「念のために、視覚は奪っておきますね」
そう言いながら、主水は金田の両目を刀で一閃した。
「アリスさん! 金田の内蔵も破壊しますか――?」
「主水、そのままで十分よ、後は私が回収していくわ」
いつの間にかアリスは透明化を解いていた。彼女は黒岩の襟首を掴んで引きずりながら、主水に向かって歩いてきた。
「アリスさん、運ぶの手伝いますか?」
「主水、気持ちだけ頂いておくわ。異能を使うから大丈夫よ」
「はは、そうでしたね」
アリスに引きずられながら、金田が弱々しく訊ねてきた。
「ぼ、僕は、これからどうなるんですか?」
「里についたら、私と宗一郎の研究材料として解剖する予定よ」
「お願いがあるんですが、苦しまないように殺してくれませんか?」
「そんな勿体ないことできないわ! 生きたまま脳に電気刺激を与えて、異能が発現する仕組みを研究するんだから。殺してしまっては実験できないでしょ!」
「そ、そんな……お願いします。僕、痛いのは苦手なんです……」
「大丈夫よ。銭絵も竹田も解剖が終わるまで生きてたから、私達の腕を信じなさい。今度の実験もきっと上手く行くわ!」
最早、研究のことしか頭にないマッドサイエンティストに金田の言葉は届いていなかった。
一方で、金田はひたすら無意味で無駄な命乞いを続け、黒岩は内臓を壊されて最早、話をする気力すら失っていた。
椿と主水、そしてアリスが談笑しながら里に向かっている少し後ろを、誠達も透明化を解いて歩いていた。
「いや〜、主水さんの強さ、半端ないね……。撫子の護衛の時、主水さんが本気出していたら間違いなく僕はここにいなかったね」
「いや、今、生きているのも誠の実力のうち。誠は、自分をもっと誇るべき」
「葵は優しいね。ところで、葵も主水さんや豪三さんに武術を習っているのかい?」
「うん。嫁はアリスと撫子以外全員、椿並に戦えると思う」
「そうなんだ、嫁達を強くしてもらえて主水さん達には感謝しないといけないね」
誠達が里に戻ると、灯里が大慌てで誠に向かって駆け寄ってきた。相当焦っている様子だ。
「誠さん! 大変、お兄が里を出て行っちゃった!!」
「ええ――!!」




