第五十二話 アナザー・ジーニアス
銭絵の尋問の結果は、主水からメンバー全員に共有された。
「誠さん、アリスさんのお陰で敵主要メンバーの情報が割れました」
「ご苦労さまです、主水さん。話を聞く限りでは、一番厄介なのがリーダーの金田ですね」
「はい、異能者は残り4人ですが、金田の異能はコピー能力なので何ができるのか不明点が多いんですよ」
「どういうことだよ? 私にも分かるように説明してくれよ!」
「脳筋の椿ちゃんにも分かるように説明するとね〜、金田に異能を見せるとコピーされて強くなっちゃうってことだよ〜」
「菫、てめぇ、馬鹿にしやがって! でもよ、じゃあ、異能を使わずにぶち殺せば良いんじゃないのか?」
「それは武術の達人じゃないと無理なんじゃないですか?」
「瑞波、私は主水や豪三にも鍛えてもらっているからよ、多分殺れると思うぜ」
「じゃあ、金田が攻めて来た時は椿に相手をお願いする」
「お嬢、金田1人だけなら良いけどよ。他に強い異能者がいたら、いくらなんでも私1人じゃ厳しくないか?」
「椿さん、その時は師匠として私も加勢しますから、ご安心下さい」
「主水、それは助かるぜ! 豪三も連れて来ればよかったな」
「豪三さんは、あれでも新婚さんですからね。連れて来なくて正解ですよ」
「それを言ったら、主水さんも新婚じゃないですか! こんな所にいて奥さんに怒られませんか?」
「誠さん、私がここにいるのは家内の命令でもあるんですよ。家内の主である瑞波さんをしっかり守るように言い渡されているんです」
「そうだったんですね」
「主水さん、私のためにすみません」
主水と豪三は、瑞波の部下である早苗(35歳)、千鳥(21歳)とそれぞれ夫婦になっていた。
話が逸れてきたので、誠はまとめにかかった。
「話は戻るけど、金田が現れたときは、椿と主水さんに対応をお願いするということでいいね? もし、ヤバそうだったら僕の方でもフォローするから無理はしないように!」
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一方、敵である金田陣営では、銭絵が偵察から戻ってこないため、次の一手をどうするか決めかねていた。
「銭絵ちゃんが昨夜から戻ってこないけど、捕まっちゃったのかな?」
リーダーの金田の疑問に対して、腹心の黒岩が冷静な分析結果を伝えた。
「金田さん、銭絵の異能はそんなに強くないですから……。もし、焔と遭遇したんだったら死んだと考えた方が自然だと思います」
「黒岩ちゃんもそう思うか〜。じゃあ、もう総攻撃しちゃう?」
だが、黒岩は金田と違って用心深い性格であり、リーダーのいい加減な方針に待ったをかけた。
「いや、金田さん、待って下さい。僕たちは焔の情報をほとんど持ってないんですよ。総攻撃は、少しでも情報を集めてからじゃないと危険です!」
「じゃあ、今度は宮田ちゃんと竹田ちゃんの2人で偵察に行ってきてよ。一般兵も20名くらい連れていって構わないから。これなら2人のうちは何方かは帰ってこれるでしょ?」
この金田の代案に対して、最初に声を上げたの宮田だった。宮田は金田を崇拝していて、神のように崇めている人物だった。当然、回答は全面的に賛成である。
「ええ、金田さん。俺達は銭絵みたく弱くないので2人とも帰って来れますよ。別に焔に勝つ必要はないんですから、楽勝ですって!」
宮田とともに指名があった竹田は高学歴であることもあり、宮田よりも思慮深い人物であった。内心、金田の提案には疑問を感じてもいた。だが、仲の良い宮田1人を死地に行かせるのも気が引けたので、自分も一緒について行くことにした。
「金田さん、それに一般兵を20名もらえるんですよね。彼らを壁役にすれば僕と宮田の2人なら、然程苦労せずに帰ってこれると思いますよ。敵の異能者は焔1人って話ですから」
この時点では、思慮深い竹田も敵の異能者は焔1人であると断定しており、誠の隠蔽工作が功を奏していた。
「竹田ちゃんの言うとおりだよね。焔の妹ちゃんは、種子島に撃たれて重症だって話だから。じゃあ、そういことで、今度こそ情報を持ち帰ってよ!」
「はい、任せてください!!」
その夜遅くに、宮田と竹田は、金田の命令に従い、20名の一般兵を連れて焔の里に向けて出撃した。
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夜明けの少し前の時間帯、誠陣営では菫と瑞波が索敵と見張りをしていた。
「瑞波ちゃん、敵が攻めてきたよ〜。私、先行して様子見てくるから、瑞波ちゃんは誠達に知らせてきて〜」
「菫、様子見って、1人で大丈夫ですか?」
「多分、大丈夫だよ〜。敵の雰囲気からして私でも勝てそうだから」
「ええ……」
「じゃあ、行ってくるね〜」
瑞波は一抹の不安を感じながらも、誠に襲撃を知らせに走ったのだった。
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一方、宮田と竹田は、一般兵20名を盾にして前を歩かせていた。夜明け前の薄暮時で、敵の気配は全く無い。
「竹田さん、この距離で迎撃してこないところをみると、焔も相当消耗しているんじゃないですか?」
「そうだな、宮田。銭絵がいくら弱いといっても、腐っても異能者だからな。焔に少しくらいはダメージを与えることができたのかもしれないな」
「竹田さんと俺の二人がかりなら、焔に勝てるかもしれませんね!」
「いや、今回は情報を持ち帰るのが目的だから、勝つこと前提にしない方がいいと思うよ」
慎重な竹田からは、若い宮田は野心満々で功を焦っているようにも見えた。竹田は少しばかり、そんな宮田に不安を感じながら進軍していると、いきなり前を歩いていた一般兵10名がバタバタと倒れ始めた。
そして間を置かずに、残りの一般兵達も倒れ、気がつくと武田の隣を歩いていた宮田も地面に転がっていた。
竹田は何が起こったのか理解できず、倒れた宮田の顔を覗くと額に小さな穴が開いており、そこから血と脳漿が流れていた。
「敵襲かっ」
竹田が敵の攻撃に気づいたときには、生きているのは自分以外に誰もいなくなっていた。
「撤退するしかないな……」
竹田が撤退を決めて踵を返すと、目の前に1人の少女が立っていた。
「あれ〜、命中したはずなのに、君は何で生きてるのかな〜?」
「お前は異能者なのか!?」
「う〜ん、ただのくノ一だよ〜」
菫はそう言うと、竹田に向けて指弾を連射した。だが、竹田にダメージはない。
「ふ〜ん、そういうことか〜。私に見えているのはお兄さんの幻なんだね〜?」
「そうだ、俺の異能の一つ、認識阻害だよ」
「じゃあ、目で見なきゃいいわけだ」
菫はそう言うと、目を静かに瞑って索敵モードに入った。同時に光学迷彩を纏って姿を透明化したのだった。
「なに! 消えたのか?」
竹田は敵は1人であることに気づき、捕虜として連れ帰ることにした。
「お前に俺の認識阻害は見破れまい。大人しく投降するなら怪我をしないで済むぞ」
竹田は異能の高周波ブレードを抜刀した。
夜明け前の薄暮時も終わって朝日が差してくると、竹田は風景の中に不自然な固まりがあることに気づいた。
「お前の透明化は光学迷彩だな。よく見ると何処にいるか分かるぞ」
そう言うと、竹田は菫の背後に回り込んだ。竹田は認識阻害を発動しているので、菫からはまったく気付かれていなかった。竹田は、そのまま菫の背中を高周波ブレードで斬りつけた。
「痛!」
高周波ブレードは菫の纏った異能の防壁を斬り裂いて、背中の皮一枚を斬ったのだった。菫はその勘の良さから、高周波ブレードが異能の防壁に当たった瞬間に気づいので、命拾いをしていた。
「う〜ん、忍びの気配察知にもかからないか〜。これは誠やアリスちゃんみたいに異能で座標を特定するしかないな〜」
そう言うと、菫は透明化したままホバリングで不規則に移動し始めた。
「お前の光学迷彩は俺には見えているぞ。一度気づけば、簡単に発見できるから、諦めて投降しろ!」
竹田は、菫が自分の近くを通り過ぎるタイミングで高周波ブレードを浴びせていった。菫には竹田本体の位置が認識できていないため、一見不規則に移動していても竹田の直近を通るタイミングを狙われると対策のしようがなかった。
「あ〜ん、身体が傷だらけだよ〜。誠に治してもらわないと〜」
緊張感のない声でボヤきながら、菫は聴覚や視覚そして嗅覚に頼らず、異能で竹田の座標を特定しようとしていた。そんな中、菫は山岳戦で初めて異能を使って長距離狙撃した時のことを思い出していた。
「そういえば、あの時は目視に頼らなくても命中させられたのもあったな〜。あの感覚を思い出せばいいのか」
敵の位置を異能で認識しようと集中しながら、菫はおぼろげに分かるようになった竹田本体の位置から距離をとるようにして周回し始めた。
「くノ一は僕を殺すを諦めたか……近寄って来なくなったな。じゃあ、このまま帰って、情報を持ち帰った方がいいかもな……」
そう呟いていると、竹田の左足が何かに撃ち抜かれた。
「痛っ!!」
竹田は激痛に耐えながら、思わず口走っていた。
「何故だ!俺の姿は見えてないはずなのに!」
竹田がふと前を見ると、そこには万遍の笑みを浮かべた菫が立っていた。
「もう、お兄さんが何処にいるのか丸見えだよ〜。私も異能で敵の座標が分かるようになったからね〜」
「嘘だぁ!」
竹田が思わず叫ぶと、今度は右の腿を撃ち抜かれた。
「ね、嘘じゃないでしょ」
続いて、右腕と左腕も撃ち抜かれていった。
地面に転がった竹田はもはや何も抵抗することができなくなっていた。
「ねえ、アリスちゃん、このお兄さん、いる〜?」
いつの間にか菫の隣には金髪碧眼の美少女が立っているのが、竹田の目にも映っていた。
「そうね。異能者の脳が普通の人と解剖学的にどう違うのか気になるわね。一応、検体としてもらっておこうかしら」
「生きたままの方がいいの〜?」
「脳に電気刺激を与える実験もしてみたいから、生きたままの方が適しているわ。だけど、手足はいらないから暴れないように骨を粉々に砕いておこうかしら」
「わかったわ〜。それ、私の方でやっておくね〜」
2人の会話を聞いていた竹田は、この後の自分の運命に恐怖していた。
「あ、悪魔……」
「アリスちゃん、悪魔って何?」
「日本でいうと、鬼みたいなものかしら?」
「鬼!? こんな可愛い女の子をつかまえて酷くない?」
そう言いながら、菫は竹田の四肢の骨を異能で粉砕していった。
「あ゛あ゛――!!」
武田の悲鳴が夜明けの森に響いた。
「アリスちゃん、煩いから喉も潰していい〜?」
「菫、それはやめて。会話できた方が実験が捗ると思うから」
もはや2人は竹田を人として見ていなかった。そのことに気づいた竹田は、ただただ絶望することしかできなかった。
「ところで菫も異能で敵の座標が分かるようになったのね」
「あ、見てたんだ。うん、私もアリスちゃんや誠みたく〜人や物の位置を異能で認識できるようになったよ〜」
「菫はやっぱり天才ね。誠の言うとおりだったわ」
「絵師としては自信はあるけど、異能も〜?」
「そうよ、私は人よりも計算が速いだけだけど、菫は理屈抜きの直感で答えに辿りつくタイプだと思うわ。誠は私を天才って言うけど、私は菫の方が天才の名に相応しいと思うわよ」
「え〜、アリスちゃん、褒めても何も出ないよ〜」
アリスが竹田の襟首を掴み、里に向かって歩き始めると、誠達がホバリングでこちらに向かってくるのが見えた。
「あれ〜、もう終わっちゃった?」
「うん、誠〜、金田っぽい奴はいなかったから、私1人で始末しちゃったよ〜」
「ってか、菫、その傷、どうしたの!?」
「ちょっと敵が手強くてね、斬られちゃったの〜。誠〜、チューで治して〜!」
「うん、ここでは恥ずかしいので、里に帰ってからで勘弁してください」
「しょうがないな〜、今回はそれで許してあげるよ〜」




