第五十話 異能の傭兵
アリスが人体研究のために捕らえた敵兵のうち、1人は傭兵部隊の副隊長であった。
幸か不幸か、その副隊長は庭木に縛り付けられ、仲間が生きたままアリスと宗一郎によって解剖されている姿を見せられていた。その状況で、主水が尋問したので、副隊長は恐怖に駆られ、洗いざらい知っていることをぶち撒けたのだった。
「いや〜、誠さん、アリスさんのお陰で尋問が楽でしたよ。敵の口が軽すぎて困ったくらいです」
「主水さん、ご苦労様です。つまり、敵の黒幕は上杉景勝で確定ということですね」
「ええ、これで焔さんが楓さんを救出に行った村で聞いてきた情報と整合性が取れました。実行部隊も樋口与六率いる上田衆で間違いないそうです」
「焔が会った傭兵のハッタリだったら良かったんだけど……」
「残念ながら、現実を受け入れるしかありませんね」
「ということは、上杉を滅ぼさないと問題は解決しないってことですね。面倒なことになりましたね……」
この事実はメンバー全員に共有された。そして誠は、そのことを耳にした時の焔の恩怨がこもった目に、一抹の不安を感じていた。
その後、誠は灯里の様子を見に行った。あれから灯里は順調に回復していき、今では普通に生活できる程であった。
「誠さん、私ね、誠さんとチューしてから異能の種類が増えたんだよ」
「へ? そうなの?」
「うん、まず誠さんと通信できるように、お兄ともできるようになった」
「そうなんだ。羨ましい。僕も紬と通信できたら良かったのになぁ」
「誠さん、妹さんが可愛いんだね」
「うん、小さな頃から溺愛してます!」
「ふふっ、そうなんだ。お兄みたいだね。それと、異能の話に戻るけど、誠さんみたく、地面から浮いたり、物を触らないで動かせるようになったよ」
「へ〜、それは凄いね……アリスに一度相談してみるといいよ。アリスは異能の使い方が上手いから色々教えてもらえると思うよ」
「そうなんだ、相談してみる。誠さんは変化なかったの?」
「実は僕も、火を出せるようになった……だけど、上手くコントロールできないんだよね。火だけに怖くてね」
「じゃあ、私が教えたげる♡」
「はは……是非、頼むよ」
他の神様の加護を受けた女性を嫁にすると異能を共有できるということを、誠は灯里との会話で確信したのだった。
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その頃、上杉軍の樋口与六は伝令からの報告を受けていた。
「なに! 傭兵部隊が焔の里から1人も帰ってこないだと!?」
「はい、焔の異能が命中しなくなったのを機に、傭兵全員で総攻撃をかけた模様です」
「ということは、焔は弱体化しておらず、未だ健在ということではないか!」
「恐らく、そういうことかと……」
「奴は化物か……」
「……」
「化物には化物をぶつけるしかないな。異能者の金田達を呼び寄せろ! 奴らに焔を討たせる。滅ぼせないにしても弱らせるくらいはできるだろ」
「御意に!」
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その異能者である金田達は、越中国境近くの小さな村落を攻め滅ぼそうとしているところであった。
「金田さん、今回は何故、こんな小さいな村をわざわざ滅ぼすことになったんですか?」
金田(28歳)は、5人から成る異能者集団のボスであった。アンパンマンのような丸顔の筋肉ムキムキの青年である。転生してから、わずか3年で仲間を集めて傭兵部隊を組織した男だった。
「黒岩ちゃん、なんでも、織田と通じてスパイ活動をしているらしいんだよね」
黒岩(25歳)は四角い顔のムキムキマッチョマンで、筋肉こそ正義だと考えている男だった。転生3年目だが、前世では金田と一緒に詐欺まがいのベンチャー・ビジネスをしていた仲であった。いわば、金田の右腕である。
「はあ、じゃあ、スパイだけ殺せば良いんじゃないですか?」
今度は部下の竹田(24歳)から質問が上がった。竹田は転生2年目で、真面目で高学歴だったが、前世では詐欺まがいの商材を売り歩いていた営業マンであった。
「竹田ちゃん、それがね、誰が黒幕で村民のどこまでが敵か分からないんだってさ」
「金田さん、こんなショボい仕事、エリートの僕たちが行く必要があったんですか?」
「宮田ちゃん、相手に異能者がいるみたいなんだよね。俺等の前にも一般兵が検挙に入ったんだけど、皆殺しにされちゃったらしいよ」
宮田(20歳)も転生2年目の元零細商社の営業マンだった。商材は詐欺同然のものばかりだったが、得意の押し売り戦法で成績だけは良かった。そのせいで、高卒だったが自分をエリートだと思い込んでいた。
「ふ〜ん、それで皆殺し宣言が出たわけですね」
最後に銭絵(26歳)がまとめた。銭絵はチームの紅一点で、転生3年目だった。彼女は、前世では中卒で金田の会社のテレアポ要員として働いていた。そして、人に誇れる実績は皆無だったが、自分は叩き上げだと勘違いしている女だった。
そんな彼ら彼女らが転生で異能を授かったものだから、プライドは天元突破していた。自分たちのことを心底、スーパーエリート、あるいは神格者だと思い込んでいた。
そんな彼らが一般の傭兵20名を率いて、目的の村までやってきた。
「よし、一般兵は、突撃して敵の異能者をあぶり出して下さい! はい! 突撃!」
金田の号令で、一般兵が突撃を開始した。対する村落は100名規模で村民全員が刀か槍や弓で武装していた。当然、一般兵から不満の声が上がった。
「向こうは100名近くいるのに、俺達だけ行かせてアンタ達は戦わないのかよ!?」
「いえ、危なくなったら俺達が神から授かった異能で助けてあげますから。文句言わないで、さっさと突撃して下さい。命令に従わないと報酬を払いませんよ!」
一般兵達はしぶしぶ納得して、突撃を開始した。だが、多勢に無勢で混戦の中で劣勢を強いられていた。
「そろそろ、頃合いだ。俺等も出撃するぞ」
金田達5人は前線と距離を保ちながらも前進していった。
「銭絵ちゃん、長距離攻撃をお願い!」
「わかりました!」
銭絵は指先から圧縮空気の固まりを連射していった。それらは次々に村民の身体に命中していった。だが、威力はそこまで高くないので、貫通まではしていない。それもで、敵兵の数を削ぐには十分な働きであった。
「宮田ちゃんも、鉄の玉を撃ってもらえる?」
「金田さん、任せてください!」
宮田は腰にぶら下げた革袋に無造作に手を突っ込んで、中のものを取り出した。それは直径5mmほどの鉄の玉であった。宮田をそれを親指で弾くと、時速1500kmの速度で射出されたのだった。
宮田の撃った鉄玉は火縄銃と同程度の威力があり、鎖帷子や簡単な防具を身に着けている敵であっても致命的な被害を負わせていった。
この頃には、村民の戦意もかなり削がれていた。それを見た金田は、黒岩と竹田に突撃を命じた。
「じゃあ、そろそろ、黒岩ちゃんと、竹田ちゃんで村の中を殲滅していってもらえるかな?」
「はい! 金田さん、わかりました!」
黒岩は背嚢から直径10cmほどの鉄球を異能で取り出して、空中に漂わせた。それらは、黒岩が念じると時速300kmのスピートで混戦になっている前線に向けて射出された。鉄球は、村民と味方の一般兵を区別せずに激突し、混戦している兵士たちを肉塊に変えていった。鉄球は敵を粗方殲滅すると、再び黒岩の元に戻ってきて、彼の頭上を規則正しく周回した。
続いて、竹田が抜刀して、生き残った村民を味方の兵ごと切り裂いていった。武田の刀は、彼の異能により高周波ブレードと化していた。その強力な切れ味は相手を刀ごと、豆腐を切るよりも簡単に両断していった。
この時点で金田の連れてきた一般兵は全滅していた。金田達にとって一般兵は捨て駒にすぎず、報酬を与える前に現場で消耗品のように磨り潰すのが、彼らの流儀となっていた。
「金田さん! 村の入口にいた敵の主力は殲滅したので、村の中を掃討してきます!」
そういうと黒岩と竹田は、一件一件家屋に侵入しては中の者を虐殺していった。そうやって、進軍を続け、村の名士あるいは地侍の屋敷に到着した。
その館は堀と土塁で囲われており、10名程が入口を守っていた。
しかし、黒岩が鉄球を容赦なくぶつけていき、次の瞬間には無力化されていた。黒岩と武田が門をくぐると、気配を消していた忍びが刀で斬り掛かってきた。だが、黒岩は防御せず、相手の好きにさせていた。黒岩は異能で体表面を鋼のように硬化させていたのだった。
黒岩を微塵も傷つけることができない忍びが呆然とした瞬間、竹田の高周波ブレードが彼を両断した。
ほとんどの戦力を失い、静まり返った屋敷の中から1人の男が出てきた。男が睨むと、黒岩の周りを周回していた鉄球が地面に落ち、竹田、宮田、銭絵が強い力で地面に押し付けられた。
「重力使いですか。でも、鍛え抜かれた僕の身体には通用しませんよ」
黒岩は高周波ブレードを抜刀すると、体表を硬化したまま、ズンズンと敵の男に向かって歩いていった。
男は信じられないものを見たような表情で唖然としていた。そこを黒岩の高周波ブレードが一刀両断することで、重力場による攻撃は効力を失ったのだった。
屋敷の奥では、名士とその家族が、毒を煽って事切れていた。
「これで、討伐完了だ。今回の仕事も楽勝だったな。皆、ご苦労さんでした!」
金田のねぎらいの言葉でスパイ討伐作戦は幕を下ろしたのだった。
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その頃、焔は灯里の部屋を訪れていた。
「お兄、どうしたの? 顔色が悪いけど、楓さんのこと?」
「ああ……」
「お兄は悪いないよ! 楓さんも怒ってないと思うよ」
「だが、もう少し早く助けに行けば……」
「仕方ないよ! お兄は里長としての役目もあるんだから」
「だがな……あんな姿になってしまった楓を思い出すと、どうして助けてやれなかったんだってな……」
「それは、上杉がこの里を滅ぼすって決めたからだって! お兄はできることを十分やったよ!……誠さんも私達のために上杉を滅ぼすって言ってくれてるんだし、一緒に楓さんの敵討ちをしようよ!」
「誠さんまで巻き込んでしまって良かったのかな……」
「お兄……」
灯里は、虚ろな目で自分を攻め続ける焔に不穏なものを感じながらも、これ以上はかける言葉も見つからなかった。




