第四十八話 救援部隊
誠達が焔の里に到着したのはその日の夕方であった。上空からみた焔の里は殆どの家屋や田畑が焼かれ、無惨な有様であった。
「間に合わなかったか……」
「誠、落ち込むのはまだ早い。早く灯里達の無事を確かめよう」
落胆する誠は葵に励まされながらも、焔の屋敷に向かった。
今回、連れてきたメンバーは、嫁全員と怪我人がいることを想定して医師の宗一郎、そして、知恵者の主水である。豪三も戦と聞いて来たがったが、今回は里の防衛として留守番を頼んだのだった。
誠は焔に会うと、即座に状況を聞き出して、連れてきたメンバーに指示を出した。
「焔、食料や医薬品は持参してきたから、大抵のことには対応できると思う。楓さんは残念だったけど、まずは重症の灯里ちゃんに会わせてもらえるかい。もしかすると助けられるかもしれないから」
「誠さん、その……灯里は誠さんに会いたがらないと思います。あの……火傷が酷くて顔を見られたくないようなんです」
「それも治せるかもしれない。何はともあれ、灯里ちゃんに会わせてもらいたい」
「わかりました。灯里をよろしくお願いします」
そう言うと焔は、深々と頭を下げた。
焔の案内で灯里の元を訪れた誠は、開口一番に灯里に結婚を申し込んだ。
「灯里ちゃん、嫁達の許可が出たから約束通り嫁に貰いにきたよ」
「でも、誠さん、私、火傷で顔もこんなに醜くなっちゃったんだよ」
「灯里ちゃん、それは些細なことだよ。僕は気にしないから嫁になってくれないかな?」
「こんな私でも愛してくれるの?」
「うん、灯里ちゃんだから愛するんだよ。もっと自信を持ちなよ」
「じゃあ、チューしてくれる?」
「うん」
誠はそう言うと、灯里を優しく抱き起こして口づけをした。粘膜接触が起きた瞬間に2人の意識が繋がったので、灯里も天照大神に誠の嫁として認識されたようだった。
そのまま、誠は『時空間支配』を発動して、灯里の身体の損傷状態を脳内で3D映像として把握し、損傷部分の時間を巻き戻していった。
横で見ていた焔が、灯里の傷が修復されていくのを見て唖然としていた。
「あ、灯里、お前、傷が治っていくぞ……」
身体中の火傷の跡や、燃え落ちた頭髪も元に戻り、最後に右足に受けた種子島の銃弾が床にゴトリと落ちて、灯里が受けた全ての傷が修復されたのだった。
誠は唇は離し、灯里に具合を訊ねてみた。
「灯里ちゃん、痛い所はもうない?」
「うん、私、どうしたの? さっきまでの痛みが嘘みたいに消えたよ」
誠は懐から水晶で綺麗に装飾された小さな手鏡を取り出して、灯里に手渡した。
「この手鏡は夫婦になった記念の贈り物だよ。自分の顔を鏡で確かめてごらん」
「……うそ、火傷も髪も元通りになってる。誠さん、いったい何をしたの?」
「僕は嫁の怪我なら治せるんだ。灯里ちゃんの場合、他の神様の加護を受けているから、ちょっと心配だったんだけど、無事に治せてよかったよ」
灯里は諦めていた火傷跡が元通りになったのと、嫁にしてもらえた嬉しさで誠に抱きついてきた。
「誠さん、私をお嫁さんにしてくれて、ありがとう! 火傷を治してくれてありがとう!」
「うん、でも、死んでしまったら僕でも蘇生できないから、命だけは大切にしてね。それから、灯里ちゃん……」
「何? 誠さん」
「あの、お胸が当たってます……」
「誠さんになら、おっぱいを好きなだけ触らせてあげるから気にしなくていいよ!」
「……」
そこに葵がやってきて、救援の状況を報告してきた。
「誠、炊き出しの準備は無事に終わった。椿は仮設の風呂が完成したって言ってた。宗一郎も怪我人の診療が終わったって」
「葵、ご苦労さん。いつも助かるよ」
「ところで、灯里ばかり誠とくっついてズルイ」
「灯里ちゃん、僕は皆の所に行くけど、病み上がりだからしっかり静養すること。いいね!」
「わかったよ、誠さん。私はもう大丈夫だから皆の所に行ってあげて」
その日、夕食を囲みながら、状況分析と今後の方針を決めることとなった。まずは、焔やその部下から状況を聞いたが主水が要点をまとめてくれた。
「焔さん達の話によれば、傭兵の残党は100程度と思われます。そして一番の問題が、焔さん達の討伐を命じたのが上杉景勝、本人だということです。つまり、越後国全体を敵に回したということですね」
「主水、それって、越後国から脱出しないと詰みってことかよ」
「そのとおりです、宗一郎さん。直接、指揮を取っているのは、樋口与六で、この武将も手強いです。精鋭揃いの上田衆を率いてますからね」
「主水、じゃあ、私達が焔達を連れて越後国を脱出すればいいんじゃないか?」
「椿さん、陸路では無理でしょうね。すでに包囲されていると思いますよ」
「異能を使っても無理ですか?」
「芹さん、難しいところですね。異能を使うと誠さん達の素性がバレる恐れがあります。そうなると、無事脱出できたとしても、他の武将に目を付けられて、今のような自由は無くなるでしょうね」
そこに焔が申し訳なさそうに頭を下げた。
「誠さん、本当にすみません。私のせいで巻き込んでしまって」
誠はここまでの議論を踏まえて、自分の考えを伝えた。
「おそらく、この里の人達を少しずつ空中輸送で安全な場所まで運べば、何とかなると思う。例えば、越前の東雲家には貸しがあるから、頼みこめば匿ってくれると思うよ。でも、それって根本的な解決にはならないんだよね。焔は裏の世界では有名人だから、越後国から脱出しても全国指名手配されるようなものだろうし」
「誠は、どうするのが良いと思うの? 私は正妻として、誠がどんな決断をしても従うつもり」
「葵、ありがとう。僕はこの際、上杉を滅ぼすのが最適解だと考えているんだ」
「えっ......」
一同は誠の考えを聞いて絶句した。
「問題は、滅ぼした跡に誰が越後国を統治するかなんだけど。織田の殿様あたりが統治してくれると、この辺りの力関係も一新されると思うから、焔達も過ごしやすいかもしれないね」
周りは誠のぶっ飛んだ考えに誰もついて来れてないようだった。
「……」
「だけど、織田をコントロールするのは現実的じゃないから、焔達には僕の里に一時的に避難してもらって、上杉が滅んだ跡にどうなるか様子を見てから判断するのが現実的かな」
「上杉を滅ぼすのが前提なんですね」
「主水さん、その通りです。だって、滅ぼさないと延々と刺客を差し向けられるでしょ?」
「その可能性は否定できませんね」
「でしょ、そうなると、今度は焔を匿った罪で、僕の里も討伐対象になりかねないでしょ」
「確かにそうです」
「そうなると、上杉に滅んでもらうしかないじゃないですか。僕としても嫁達を守る義務がありますから、そのためなら手段を選んでられませんよ」
「まったく、誠さんは魔王みたいなお人ですね。ただし、それを誠さん達がやったとバレないようにする必要がありますけど、策はあるんですか?」
「主水さん、それは大丈夫だと思います。異能で光学迷彩……え〜と、わかりやすく説明すると、透明化した状態で城を落としていけば、僕らのせいだとバレないと思います」
「誠、わかった。差し当たって嫁達は何をすればいい?」
「葵、僕から嫁達への注文は一つだけ。正体がバレないようにしてほしい。つまり、ここに滞在する間は変装して地味な格好をすることと、戦闘時は光学迷彩で透明化しで姿が見えないようにすること。これだけは守ってほしい」
「わかった。今回は魔法少女に変身しないことにする」
葵や嫁達は少し残念そうにしていた。誠は彼女たちが魔法少女の衣装やステッキを持参してきたことを知っていたので、変身しないように釘を差したのだった。
誠は反対意見も出なかったのでホッとしていると、主水が話の流れを元に戻した。
「私も誠さんの方針に賛成します。では、具体的な計画を立てましょう」
「わかりました、主水さん。まず、最優先の避難計画です。嫁のうち二人一組で毎日、焔の里の人を2人ずつ運んでもらいたいけど、それは大丈夫?」
「それは問題ない。正妻である私の方で調整する」
「じゃあ、次に上杉軍に対する方針だけど、避難が終わるまでは、目立った攻撃はしないようにしたいと思う。僕と菫と芹の交代制で索敵をするので、襲撃を発見次第、焔に迎撃してもらう。ちなみに焔は遠距離攻撃はできるの?」
「はい、誠さん、できます。命中率は良くないですが、牽制にはなると思います」
「もし、避難完了前に大規模な侵攻があったら、透明化した僕たちが範囲攻撃で撃退します。おそらく、敵軍の3~4割に被害を与えれば帰ってくれると思う」
「誠さん、避難が完了したらどうするんですか?」
「そこからは、主水さんのお知恵をお借りしたいのですが、敵の城を一つずつ落としていきます。優先順位や攻め落とす順番は主水さんと相談して決めたいのですが、構いませんか?」
「わかりました。避難完了前に、私の方で原案を作っておきます」
「では、皆さん、そういうことでお願いします!」
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誠の方で今後の方針が決まった頃、樋口与六が率いる上田衆の軍勢が焔の里を兵糧攻めするための包囲網を敷き終わっていた。
「あとは傭兵達を使った襲撃で焔を削っていき、消耗しきったころで殲滅戦に移れば粛清も完了するな」
樋口与六が動員した軍勢の数は上田衆を総動員した2000名に、上杉景勝から借り受けた鉄砲隊や長槍隊の精鋭1000名の合計3000名であった。
傭兵からの報告によれば、警戒すべきは焔1人であった。だが、その異能の凄まじさから、樋口は最悪の場合でも数で押し切れるくらい軍勢を集めたのだった。




