↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
博士転生〈戦国時代にユートピアをつくる〉  作者: ビアンコ
魔王降臨編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/59

第四十七話 滅びの足音

 焔兄妹が里に帰ってから数日経った頃、越中国の撫子《なでしこ》から誠に通信が届いた。


『誠、この間、アンタの里に招待した焔って異能者だけど、上杉が討伐することになったって噂が届いているわ。忠康様が言うには、もう軍は動ているらしいわよ』


『撫子、知らせてくれてありがとう! 寝耳に水だったよ。実は妹の紬《つむぎ》が焔に嫁入りする予定だったんだ』


『椿から聞いていますわ。しかも、アンタが焔の妹さんを嫁に貰うことになったって話も知っていますわよ。アンタ、自分の嫁になる女がいるなら、しっかり守ってやりなさい!』


『ありがとう、撫子。直ぐに準備して向かうとするよ』




===


 その頃、焔の里では、上杉の傭兵による襲撃が散発的に続いていた。里の者も何名か攫われており、焔の婚約者である楓《かえで》もそのうちの1人であった。


 里で守備隊の隊長をしている幸恵《さちえ》(28歳)が焔に詰め寄っていた。幸恵は元、葵の側仕えだった忍びだ。


「焔、傭兵の襲撃はどうする? 奴ら、上杉から雇われたっていう話だぞ。下手に反撃したら、今度は上杉の軍勢が動くんじゃないのか?」


 焔達は、上杉が既に里を粛清する命を下していることを知らなかった。そのため、傭兵が攻めてきても上杉の報復を警戒するあまり、せいぜい敵の武器を燃やして無力化する程度の反撃しかできていなかった。


 そんな焔が苦しそうに答えた。


「なんとか、攫われたものだけでも奪還したいのだが……」


 そんな煮えきらない焔に、灯里《あかり》が噛みついた。


「お兄! そんな悠長なことを言っている場合じゃないって! 楓さんが攫われてるんだよ! すぐに取り返しに行かないと駄目だって!」


「だが、俺が留守にすると、里の守りが手薄になってしまうしな……」


「お兄が留守の間は、私が里を守るから! 私だって異能が使えるんだよ。だから、お兄は楓さんを取り返しに行きなよ!」


 焔も流石にこれ以上は攫われた者たちを放っておけないことは分かっていたため、苦渋の決断をすることにした。


「……わかった。楓と攫われた者を奪還したら、里を捨てて脱出する。行き先は誠さんに相談しようと思う。俺が留守の間は灯里に里の守備を任せる」


「お兄、里を捨てるなら敵を殺しても構わないよね?」


「ああ、敵に遠慮をしなくていいから、自分たちの命の方を優先してくれ」


 そう言い残すと、焔は攫われた者達が囚われている敵の拠点を探すために、上空に飛び立った。



 その様子を背後の森から見ていた敵の斥候は、焔が里を離れたことを本隊に知らせに走った。



===


 一方、焔は敵が拠点にしそうな麓の村々を上空から虱潰しに偵察していた。そのうちの一つに傭兵達が屯《たむろ》しているのが見えたので、直接乗り込むことにした。


 傭兵たちの前に降り立った焔は早速、要求を突きつけた。


「攫った者達を返してもらおう。素直に従えば、命は助けてやる」


 焔の要求を聞いた傭兵達は下卑た笑いを浮かべていた。代表して、隊長格の傭兵が焔に答えた。


「わかった、わかった、返してやるよ。 お前ら! 攫ってきた奴らを返してやれ!」


 傭兵達は、ニヤニヤしながら数体の麻袋を担いできて、中身を焔の前でぶちまけた。


 麻袋の中身は一見すると、肉の固まりのように見えた。そのうちの一つだけがわずかに蠢いていた。よく見ると、それは四肢を切り落とされた女の肉塊だった。しかも顔は原型を留めないほどに腫れ上がっていて、もはや誰なのか判別できない有様であった。


「あ……うう……」


 その肉塊の顔が焔の方を向いて、弱々しく何かを語りかけてきた。だが、女の前歯はすべて折られていたため、焔には何を言おうとしているのか聞き取ることはできなかった。


 その様子をニヤニヤ見ていた傭兵隊長が、焔に状況を説明し始めた。


「俺が通訳してやるよ。そいつはな、確か楓っていう名前の女だ。たぶん、殺してくれって言ってると思うぞ」


「な、何でこんなに酷いをことを……」


「そりゃ、オメェ、上杉様からお前達の討伐命令が出ているからだよ。なんでも景勝様から直々に『確実に里を滅ぼせ』って、お達しが出ているんだってよ。それでよ、どうせだから、殺す前にたっぷりと楽しませてもらったってわけよ」


「こ、殺すにしても、ここまで酷い目に合わせる必要はないだろう!」


「おっと、勘違いしちゃいけねぇよ。俺達がしたのは、この女を慰みものにしただけだ。その後、こんな姿にしちまったのは、この村の者達だぜ。なんでも、お前達は年貢も収めてなかったらしいじゃねぇか。それが気に入らなかったんだってよ」


「生きているのは楓だけか?」


「おう、そうだな。この女は、村の男達の慰みものにされてたから、最後まで生かされたんだと思うぞ。まったく可哀想によ」


 男がそう言うと、周りの傭兵や村民も嫌らしい笑い声を上げた。


 焔から殺気が立ち昇るを感じた傭兵の隊長は慌てて焔に警告した。


「おっと! 今、ここで俺達に手を出せば、今度は上杉の軍勢が動くぜ。そうなりゃ、お前達は越中国からも脱出できずに、完全に詰むぜ」


「黙れ」


 焔は低い声で静かに言うと、自分の周りに無数の火球を作り始めた。火球の数が100を超えた時、一斉に傭兵と村民目掛けて飛んでいった。慌てた、傭兵や村民が逃げ惑っても、火球は標的を追尾して命中していった。


 火球が命中した者たちは、近くに流れている小川に飛び込んでも身体に着火した炎は決して消えることはなかった。そして炎はゆっくりと身体を死ぬまで焼いていった。


「ゆっくりと苦しんで死ぬがいい」


 焔はそう言うと、既に亡くなった自分の里の者達を異能で焼き尽くした。そして、瀕死の楓を優しく抱いて、里のある方向に飛び去っていった。




 一方、焔が灯里達の元を飛び去った後、斥候の知らせを受けた傭兵部隊の本隊は、焔の里に対して総攻撃を開始していた。敵の傭兵部隊の数は200以上であり、焔の里は完全に包囲されていた。


 それに対して、焔の里には30人程の人が暮らしていたが、戦力になるのは、そのうちの半数ほどであった。他は非戦闘員の女子供であった。


「灯里! こう里の四方から攻撃されたんじゃ守り切れない。屋敷に非戦闘員を匿って、防衛に徹しよう!」


「わかったよ、幸恵」


 灯里は完全に防衛に徹していて、飛来してくる矢が命中する前に異能で焼き尽くすので精一杯だった。敵の矢が止む頃には、灯里も異能の使いすぎで消耗しきっていた。


「幸恵、矢が止んだから、次は歩兵が突入してくるんじゃない?」


「わかってる。私達忍びが何とか食い止めるから、灯里は少し休みな!」


「ありがとう。そうさせてもらう」


 幸恵達忍びは、白兵戦開始時は毒を塗った棒手裏剣や、毒霧などで善戦してはいたが、所詮は多勢に無勢で徐々に劣勢を強いられてきた。


 見かねた灯里が疲労困憊にもかかわらず、戦線に復帰せざるを得ないような状況だった。


 その時、幸恵と数人の忍びは敵に囲まれ、既に満身創痍であった。


「幸恵!」


 そこに駆けつけた灯里が、指先から火球を連射して敵の傭兵を焼却していった。


「灯里、助かった」


「お兄が戻ってくるまで、頑張って持ちこたえよう!」


 灯里はそう言うと、屋敷に近づこうとしている傭兵達に向かって、矢継ぎ早に火球を浴びせていった。


 灯里の復帰により、状況は少し改善されたように思えたが、一発の銃声が戦況を最悪のものに変えてしまった。


 それは傭兵が持ち込んだ種子島の銃声で、銃弾は灯里の右大腿骨を粉砕した。堪らず、倒れた灯里に火矢が浴びせられ、灯里の身体は次の瞬間には燃え上がっていた。


「うう……」


 灯里は右足を撃たれたため、身動きすることができなかった。


「灯里!」


 幸恵が駆け寄ろうとするが、敵の傭兵に邪魔されて近づくことすらままならない。


「よし! 敵の異能使いを仕留めたぞ! とどめを刺せ!」


 灯里の身体には次々に火矢が打ち込まれていった。



===


 一方、焔が楓を抱えて里に向かって飛行していると、里の方角に火の手が上がっているのが見えた。


「くそ! やはり留守を狙われたか!」


 焔は焦るが、楓を抱えているため、飛行速度を上げることはできなかった。


 そして、焔が里に到着した時には、里の家屋や田畑の大部分が焼かれ、屋敷の前では灯里が倒れて火矢に焼かれている所であった。


 焔は火球を100程作ると、見える範囲にいる敵に撃ち込んでいった。焔の火球により、瞬時に燃焼して炭化する仲間を見た傭兵の指揮官は部下に命令を発した。


「焔が戻って来たぞ! 退却だ。目的は十分に達した! 退却するぞ!」


 敵がいなくなったのを確認した焔は、灯里のもとに駆け寄り火矢の炎を消すために、周囲の土を灯里にかけた。


 灯里は焔が戻ってきたことに気づくと、弱々しく言葉を発した。


「……お兄、下手を打っちゃった」


「灯里、もう大丈夫だ。お兄ちゃんが助けてやるから安心しろ!」




 焔は、楓と灯里を屋敷の中に運び込み、応急処理を施そうした。しかし、この時点で、楓の方は既に息を引き取っていた。いくら止血していたとはいえ、四肢を切断されたのだ。そのときの出血が致命的だったのだろう。


 せめて、灯里だけでも思い、火傷を井戸水で洗浄したあと、矢を抜いて傷口を洗い、宗一郎からもらった抗生物質を塗布した。不幸中の幸いで矢は内蔵には達していなかった。しかし、右足に受けた種子島の銃創が酷く、出血が止まらなかった。やむを得ず、銃創の上側を縛って止血し、間隔を空けてで緩める方法をとるしか焔にはできなかった。


「お兄、私はいいから、楓さんを見て上げて……」


「灯里、ありがとう。楓はもう……」


「そんな……酷すぎるよ……」


 灯里は楓のために泣いていたが、焔が見た所、楓の状態も決して良くはなかった。右足からの出血量も問題だが、それ以上に全身に負った火傷が体表面積の15%以上に達していたからだ。火傷の深さは焔には判別できなかったが、焼かれていた時間が長かったためか、決して軽傷には見えなかったのだ。


 灯里は身動きできない状態で火矢を打ち込まれたため、火は衣類だけなく、頭髪にも及んでおり、顔も半分近くが醜く焼け爛れていた。


「お兄、私、こんなに醜くなったんじゃ、もう誠さんのお嫁さんになれないね……」


「灯里、誠さんの里には、宗一郎さんっていう腕の良いお医者さんがいるから、きっと大丈夫だよ」


「お兄、気休めはいいよ……」


 そう言うと、灯里は再び静かに泣き始めた。




===


 その頃、上杉陣営の樋口与六は伝令から焔の里襲撃の報告を受けていた。


「ほう、焔の妹を無力化できたか! これで異能者は焔だけになったな。生き残った傭兵はどのくらいいるか?」


「100と少しでございます」


「では、引き続き、不定期に襲撃して奴らの精神を削れ。田畑も焼失したので食料も、ろくに残ってないだろう。消耗しきったところで、上田衆を動かして攻め滅ぼす」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。