第四十二話 神の裁き
撫子暗殺計画の黒幕達の動きは、東雲領における菫と芹の諜報活動によって赤裸々にされつつあった。
菫達からテレパシーによって通信を受けた誠達一行は、撫子の敵を討伐するために越前にある東雲領に向けて出発した。
誠達は東雲領内の森の中に拠点を構え、諜報に出ていた菫達と合流を果たした。
「誠さん、ちょうど良いタイミングで到着しましたね。明日の夜、撫子暗殺のための会合が開かれますよ」
「会合っていっても、解決策が無いまま堂々巡りしているだけだけどね〜」
芹の報告を菫が補足した。
「明日の会合に参加しない討伐対象はどのくらいいる?」
「そうですね……まずは傀儡候補になっている当主の弟、東雲頼久はここ最近、会合に顔を出していないので明日も来ない可能性が高いです」
「なんかね〜、結論の出ない会議に飽きちゃったみたい」
「そうなんだ。明日の夜は何処にいるか分かるの?」
「自宅ですね」
「他は?」
「あとは、黒幕の首謀者で家老の早瀬内蔵助の身内も会合には来ませんね」
「早瀬の身内も討伐した方がいいのかい?」
「うん、討伐すべき。派閥の甘い汁を一番吸っている人達だからね〜。私が調べた限りでは撫子ちゃんの暗殺に積極的だったよ〜」
「彼らの明日の居場所も特定できてる?」
「うん、任せて、後でテレパシーで皆に共有するね〜」
菫達から敵対派閥の同行を粗方聞き出した誠は、今回の討伐に同行してきた仲間に決定事項を伝えた。
「じゃあ、明日の夜、討伐対象に対する天罰の執行を行います。討伐対象は菫達から共有されたメンツで決定です。後は芹の作った台本通りに進めましょう!」
「はい!!」
翌日夕方頃から、誠達一行は新しく使った魔法少女の衣装を着用し、素性がバレないように化粧を施していた。
衣装デザインを手掛けた菫が自慢げに感想を聞いて回っていた。
「皆、今回の衣装はどうかな? 魔法少女の衣装に巫女服のデザインを融合させてみたんだ〜。大人の女って感じがするでしょ?」
「菫、確かに今回のデザインは高貴なイメージで凄くいいと思う。それぞれのイメージカラーが差し色で入っているのもいいよね」
「あ、誠もそう思う?」
「うん、ところで何で僕だけゴツゴツした鎧姿で皆と雰囲気が違うのかな? なんか禍々しくて敵キャラみたい見えるんだけど……」
「誠の衣装はね、民から恐れられる荒々しい魔王をイメージしてデザインしたんだよ。その方が私達、嫁の衣装が映えるでしょ?」
「ははは……そうだったんだ」
誠達の衣装は、椿が言うところの後光システムというバックパックを背負って完成された。内蔵している行灯が、夜間は背中から放射状に伸びた後光パーツを仄かに照らすシステムだそうだ。
加えて、女性陣は新デザインのステッキをそれぞれが持っていた。ステッキのデザインはそれぞれの希望を反映させたとのことで、全員違うデザインという凝りようだった。
「誠、どうよ! 私の作った小道具も粋しているだろ?」
「これ全員デザインが違うし、作るのに苦労したんじゃないの?」
「まあ、私達の晴れ舞台だしな。このステッキは仕込み刀にもなっているんだぜ」
「ははは……それは心強いね」
椿は終始、鼻息が荒く自慢げであった。
「ところで、椿、体調の方は大丈夫なのかい?」
「宗一郎が言うには、大暴れはまだ禁止だって。でも、芹の台本では私は誠の隣に立っているだけだから問題ないってさ」
「そうなんだ。それなら安心だね」
その夜、日が落ちてから、東雲家の敵対派閥による撫子暗殺のための会合が行われていた。場所は持ち回りで、派閥の要職についている者の邸宅の一室が使われていた。
「撫子の暗殺だが、忍びを雇うのが最も現実的だと思うが、他に案は無いのかね?」
「いや、その前に潮崎家の者を味方に引き込むのが先だと思うが」
「我々の派閥の手先になってくれそうな人物に心当たりはあるのか?」
「卯木との連絡が途絶えた今、新たに探す必要がありますね」
と、その時、轟音が鳴り響いて邸宅が震え、外が一瞬明るくなった。
「雷が落ちたのか?」
その後、雷は連続して近くに落ちたようで数分間、轟音と閃光が続いた後にピタリと止んだ。
周りに住んでいる領民達も何事が起きたのかと外に出てきた。
すると、上空で閃光が走って周囲を一瞬照らした後、大音響で男の声が天上から聞こえてきた。
「我らは豊穣の神々である!!」
人々が声のした上空を見上げると、そこには1柱の男神と6柱の女神が浮かんでいた。
「我らは今日、東雲領に天罰を下しにやってきた!!」
男神がそう宣告すると、背後に複数の稲妻が走った。
「東雲家の娘、撫子は我ら豊穣神の生まれ変わりである!」
それを聞いた民衆が騒ぎ始めた。
「え! あの撫子様が神様の生まれ変わりだって?」
「あの我儘娘が……信じられないなぁ」
再び、稲妻による閃光と轟音が民衆を黙らせた。
「その撫子を、あろうことか殺そうと画策している者達が、この領内にはいるのだ!」
今度は、女神たちが手にしている短い杖から稲妻が空に向けて放たれた。その轟音と閃光で観衆は心底怯えだした。
「我らは、その者たちに天罰を下しにやってきた!」
男神がそう言って、指先をとある方向に向けた。そうすると指し示した方角にある邸宅の屋根が木っ端微塵に吹き飛んだ。壁も半分くらいの高さしか残っておらず、通りからは邸宅の中が丸見えとなっていた。
「おい、天罰が落ちたぞ! 家が一瞬で吹き飛んだ!!」
「生き神様である撫子様を殺そうとしている奴らの家じゃないのか?」
人々が動揺して騒ぎ始めた。それを男神の怒声が黙らせた。
「こんなものは天罰のうちに入らん!」
男神がそういうと、金髪碧眼の美しい女神が前に出て叫んだ!
「マジカル〜アブソリュート・ゼロ――!!」
すると、女神が持つ短い杖の先端から眩い光線が屋根の吹き飛んだ邸宅目掛けて射出された。
そして、光線によって邸宅の内部に残っていた男たちが、一瞬で彫像のように凍りつく様を、周辺の住人は目にしたのだった。
「おい、建物の中の悪人達が一瞬で凍りついたように固まっているぞ!」
「天罰だ……天罰が落ちたんだぁ!!」
自分たちに心底恐怖している民衆を見て満足した男神が女神達に命じた。
「よし、女神たちよ、行くのだ! 愛しい撫子を殺そうした者共を根絶やしにしろ!」
そう言うと、男神に寄り添っている1柱の女神を残して、他の女神達はそれぞれ別々の方向に飛んでいった。そして女神が飛んでいった先では轟音とともに雷撃が次々に落とされていった。
轟音と閃光で領内の邸宅が破壊される様を見た人々は地面にひれ伏して口々に叫んでいた。
「神様、どうか私達をお助けください!!」
現当主の弟である東雲頼久も、自宅の庭先から領内の轟音と閃光を戦々恐々として眺めていた。
「い、いったい、何が起きておるのだ……」
そこに1柱の女神が飛来してきた。
「東雲撫子の命を狙っている者だね。天罰を与えに来たよ〜」
「待て、私はそんなことは知らないんだ!」
「こんな美しい女神に嘘を吐くとは、罰当たりな奴だね〜。生きている資格はないかな〜」
「た、頼む! 何でも言うことを聞くから、見逃してくれ!」
「オジサン、煩いよ〜。 マジカル〜グラビティ・バレット!」
女神を杖を振るうと、透明な弾丸が頼久の胸に打ち込まれた。
「マジカル〜インプロージョン!!」
女神が叫ぶと、頼久の身体は爆縮を始めた。ベコッベコッと不規則に内側に潰れていき、終いには直径1cm球体まで圧縮され、ゴトッと重い音を立てて地面に落ちた。
「さてと、お仕事完了〜。誠の元に帰ろうっと」
そう言うと女神は男神の元に飛んでいった。
撫子の輿入れ道中で護衛隊長を務めた黒江数馬のもとにも女神が飛んできた。
「お前が黒江数馬か。天罰を下しにきた」
「貴様、何者だ!」
そういうと黒江は刀を抜刀した。
「こんな可愛い女神様に対して失礼。礼儀がなっていない」
「め、女神だと? 私の何の用だ!?」
「お前は、撫子を殺そうとした罪で天罰の対象となった」
すると、黒江は女神を刀で斬り掛かってきた。
「そんな攻撃は女神に無意味。私は豊穣の男神の愛で守られている」
黒江の刃は女神周りに張り巡らされた力場によって跳ね返された。
「眠くなってきたから、そろそろ死んでもらう。 マジカル〜ライトニング!」
女神の持つ杖から雷撃が放たれて、黒江の身体は瞬時に炭化して崩れ去った。
「呆気ない。もっと歯ごたえがほしいところ」
そう言うと、女神は男神のいる方角に飛び去っていった。
誠に指示された場所で見物していた宗一郎、主水、豪三の3人組は、誠達の天罰ショーを見て唖然としていた。
「まったく神を騙って、罰当たり奴らだな」
酒を飲みながら観戦していた宗一郎が呆れていた。
「まあまあ、宗一郎さん、身分を隠すには良い作戦だと思いますよ。あの姿を見て、人間だと見抜ける者は皆無ですからね」
その横では豪三が羨ましそうに呟いていた。
「しっかし、誠達はノリノリで楽しんでいるように見えるよな。まあ、実際に神を名のって敵を討伐しているんだから、楽しくないはずがないもんな」
しばらくすると、天罰を下し終わった女神達が男神の元に戻ってきた。そして、男神からは大音響で民衆に対して警告が発せられた。
「今後、豊穣神の生まれ変わりである東雲撫子の命を狙う者が現れた時には、東雲領全域を灰燼にするから覚えておけ! その時は領民も皆殺しだ!!」
そう言うと男神と女神達はそのまま上昇していき、雲の中に消えていった。
残された民衆達は、ただただ神を恐れ、しばらくの間、ひれ伏していた。
この天罰ショーの一部始終は、現当主であり、撫子の父親でもある東雲宗頼(52歳)も目にしていた。
「私の娘が、豊穣神の生まれ変わりだと……潮崎に嫁に出して正解だったのだろうか?」
隣で騒動を見ていた妻がその疑問に答えた。
「あら、でも豊穣神様は撫子の輿入れについては咎めていませんでしたよ」
「そうだな、ということは、潮崎に嫁いだ撫子が豊穣の恵みをこの地にももたらしてくれるということなのだろうな」
「ええ、きっとそうに違いありませんわ。それに今夜の騒動で、あなたの敵対派閥は一掃されたから領地運営もやりやすくなるんじゃなくて?」
「結果的に撫子はこの地に利をもたらしたわけか。いずれにせよ、あの子には感謝しないといけないな……」




