第四十一話 反攻作戦
撫子の護衛任務を終えた誠達一行は、里に向かって歩を進めていた。
「主水さん、豪三さん、撫子暗殺の黒幕の情報をお伺いしても構わないですか?」
「いいですよ。黒幕は家老の早瀬内蔵助(58歳)ですね」
「他にも心当たりはありますか?」
「他は敵対派閥に担ぎ上げられている現当主の弟、東雲頼久(45歳)も今回の企ての根源になってますから排除すべきですね」
「そうですか。ですが、派閥って、要員が各所の要職に就いているので、例えトップを排除したとしても派閥運営にほとんど影響がないと思うんですよね。主水さんはどう思います?」
「誠さん、その若さで詳しいですね。仰るとおりですよ。今回も黒幕の家老を暗殺しても効果は期待できないでしょうね。多少人事に影響はあるかもしれませんが……」
「そうなると、撫子の暗殺を止めさせるには、単に派閥トップを暗殺するだけでは無駄になるかもしれないってことですよね。豪三さんは何かいい考えはありませんか?」
「俺に難しいことを聞かれても困るな……そうだな、そういう奴らは自分たちの利権のためなら何でもするからな……。心底ビビらせないと効果ないんじゃないのか?」
「なるほど、豪三さんは面白いことを考えますね」
誠は豪三の意見を聞いてニヤリとした。
「誠さん、悪い顔をしていますよ」
「ははは……」
その日の昼休憩中に、誠から今後の方針について発表があった。
「皆、今後の方針を決めたので聞いてほしい。僕は、東雲領で撫子暗殺を企てている人達を討伐したいと考えている。皆にも協力してもらえると嬉しいんだけどどうかな?」
そこに半病人扱いの椿から声が上がった。
「誠! 嫁が協力するのは当たり前だろ! 私も当然連れてってもらえるんだよな?」
「それは宗一郎さんの判断次第かな。実際、椿の容態はどうなんですか?」
「このまま大人しくしていれば大丈夫だと思うけどな。念のため、出発前に診させてくれ」
つぎに嫁を代表して葵からも声が上がった。
「誠、私達、他の嫁達も全員連れてってもらえるのか?」
嫁達も全員討伐に参加するつもりのようで、真剣な表情で誠を見つめていた。
「うん、それは大丈夫。それで君達にお願いがあるんだけど、アリスみたいに空を飛べるようになってくれると助かるんだけど」
「わかった。アリスから習うようにする」
「他には、雷撃も覚えておいてもらえるかな」
「わかった」
「それからね、今回の討伐は魔法少女の興行みたいな形で行おうと思っているんだ」
「へ〜面白そうだね〜」
魔法少女と聞いて、その漫画を描いている菫が興味を示した。
「その興行はちょっと凝りたいから、新しい魔法少女の衣装も作りたいんだ。そのデザインについては菫と芹に描いてほしいんだけど大丈夫?」
「誠〜、どんなイメージの衣装がいいの〜?」
「そうだね……特にこだわりはないから、皆の好きなデザインにしていいよ。それから、僕の衣装も作りたいから菫と芹には相談させてほしい」
「わかりました、誠さん。詳しい内容は里に帰ってから聞かせてください」
そこに主水からも質問が上がった。
「誠さん、その興行には私と豪三さんも見物に同行しても構いませんか?」
「はい、是非お願いします。公演中の荷物の番をしていただける助かります!」
「では、公演当日を楽しみにしてますね」
豪三も主水の隣にニヤニヤして頷いていた。
急ぎ、里に戻った一行は、越前公演の準備に向けて忙しかった。まず、公演の要である衣装作りについて、菫、芹、椿、澪、誠の5人で入念に打ち合わせが行われた。誠はこのメンバーにだけは、公演の真の目的を伝えていた。
「今の誠の話を聞く限りだと、衣装のデザインはかなり重要だね〜。民衆を味方につけるだけのインパクトが必要ってことだよね〜?」
「うん、まあ、それっぽいのができればいいよ」
「誠! せっかく作るんだから、菫達にしっかりデザインを作ってもらいなさい。これは姉さんからの命令だからね」
実際に衣装の縫製を担当する姉の澪からの注文であった。
「はい、わかりました……」
姉に逆らえない誠は素直に頭を垂れた。
「それから、誠さん、脚本の方は私に任せてください! セリフもバッチリ作っておきますよ!」
「芹、セリフはカッコいい感じでお願いするね」
「了解です。誠さん」
「誠! 小道具は私に任せろよな! 今からワクワクしてきたぜ。最高の物をつくってやる!」
「椿、ありがとう。それでその小道具なんだけど、夜の公演では魔法少女や僕の背後に灯りが灯る感じになると嬉しいんだけど……。目的は観客が僕らを見やすいようにする配慮かな」
「う〜ん、軽く後光が指す感じならできると思うけど、まあ、そこら辺は何とかしてやるよ」
「それで、別件なんだけど、菫と芹には衣装作りが落ち着いたら、一足先に東雲家に潜入して撫子暗殺の黒幕達の動きを調べてほしいんだ」
「うん、わかった〜。何度も暗殺に失敗してるから、これから関係者で集まって喧々諤々するんだろうね〜」
「うん、話が早くて助かるよ。彼らが会合中に討ち入りできれば、手間も省けるからね。そのタイミングを調べてきてほしいんだ」
「私達は、その黒幕集団の動きを把握すればいいんですよね。任せてください!」
「二人とも頼んだよ。もし、想定外のことが起きそうならテレパシーで知らせてほしい」
「了解〜」
その後、主水と豪三の当面の生活環境について打ち合わせて、二人には当面の間、海賊たち用に作った住居の空き部屋に住んでもらうことになった。
「すみません。お二人の住居は早急に建てますので、少しお待ち下さい。新居の作りについて、何か注文はありますか?」
「私達は贅沢は言いませんので。ねぇ、豪三さん」
「誠、俺達は住めれば文句はないぞ。極端な話、山の中で使っていたテントでも構わんのだが」
「いえいえ、ちゃんと作るので任せてください。それから、ここの生活に慣れるまでは、瑞波の部下に身の回りの世話を頼もうと思うので、何かあれば彼女達に言ってください」
誠は、その足で今度は船大工の甚兵衛のところに相談に向かった。
「甚兵衛、頼みがあるんだけど」
「誠様、おかえりなさい。なんの御用でしょう?」
「今度、越中国と商いすることが正式に決まったんだ。それで、海路でも荷を運べるようにしたいんだよ」
船を使った商いの話を聞いて、甚兵衛の目が輝いた。そんな甚兵衛の顔を見ながら誠は続けた。
「でも、今開発中の新型船はしばらく時間がかかりそうだからね。かわりに旧来の和船を先に作って、早々に商いを始めたいんだ」
「わかりました。それでしたら儂らは得意ですので、直ぐにでも取り掛かります」
「帆走できるタイプで、500石クラスの大きさで作ってもらえるかい? 造船については椿やアリスとも相談して進めてくれると助かるんだけど」
「それも大丈夫です。安心して任せてください」
「それを聞いて安心したよ。これで瑞波を船長にした船の商いも無事始められそうだね」
「ええ、誠様には感謝しかありません。これで儂らも先代のご当主に顔向けできそうです」
その後、里では、魔法少女の衣装や小道具作り、造船の打ち合わせと建造、主水と豪三の住宅の建設など、慌ただしく時が過ぎていった。
同時に誠の嫁達は、アリスから空中浮遊や雷撃などの異能の技を習っては実践していた。
ある晩、誠は葵に、嫁達が異能の技をどのくらい使えるようになったのか聞いてみた。
「葵、皆は空を飛べるようになったのかい?」
「うん、アリスの説明がわかりやすくて、大体同じようには飛べるようになった」
「雷撃とか、他の技は?」
「雷撃は得意不得意はあるみたいだけど、実戦レベルでは皆使えると思う。他の技は爆縮を菫が使えるようになったくらいで、まだ時間がかかると思う」
「そうか、それなら越前の興行では問題なさそうだね」
「うん、菫と芹は明日にでも東雲家の諜報に向かうと言っていた」
「後は菫達から連絡待ちだね」
一方、東雲家の敵対派閥では毎日のように会合が開かれていた。
「どうして、小娘一人の暗殺に手こずっているのだ! 輿入れ道中の護衛も我が派閥で占めたし、他にも傭兵や忍びまで雇ったのだろう」
「それが、上手いこと山中に逃げられた上、撫子に護衛として同行した商人が異能使いだったようです。当派閥で雇った者たちは伝令を除いて全滅したとのことで……」
「潮崎領でも当方に通じている卯木が撫子暗殺のために領内で陣を張って待ち伏せていたというではないか。それも突破されて、撫子は無事輿入れしたというのか!? 卯木は何をしているのだ!」
「それが、撫子の輿入れ以降、連絡が途絶えております。恐らくは、寝返ったか、暗殺されたかのどちらかと思いますが……」
「ところで、私はいつになったら、東雲家の当主に成り代わることができるのだ?」
現当主の弟、東雲頼久(45歳)が空気を読まずに脳天気な質問を投げかけた。
「頼久様、ご安心ください。私が責任を持って、頼久様をご当主にして差し上げます。その時は、どうか当派閥に格別のご配慮をお願いいたしますね」
本件の黒幕である家老の早瀬内蔵助(58歳)が老獪な笑みを浮かべながら静かに答えた。
「それを聞いて安心した。早く、撫子暗殺を足がかりにして、潮崎の利権を根こぎ手に入れたいところだな。そうすれば、兄上に変わって私が東雲家の当主になれるのだろう?」
「仰せの通りにございます。すべて、この早瀬にお任せください。今しばらくは良い方法が見つかるまで、このような会合で知恵を絞る必要があることをどうかお許しください」




