第三十九話 魔法少女爆誕
山岳戦の翌日、誠は朝から菫と芹を潮崎邸に諜報任務で向かわせていた。それは撫子の命を狙っている潮崎家の黒幕を明らかにするためであった。
そして、その日の深夜、誠達一行は撫子を潮崎家に輿入れさせるために潮崎領内の市街地に侵入したのだった。
市街地に入って間もなく、葵から警告が発せられた。
「誠、敵兵の気配が多数ある。たぶん、忍び。ここは私と瑞波で対応する。手こずる場合は私達に任せて先に行ってほしい」
「葵、頼む。もし、勝てそうもなかったら直ぐに撤退して僕と合流してほしい」
「わかった。でも、たぶん大丈夫」
「誠さん、任せてください」
誠は異能を使えるメンバーに、間もなく会敵するので防壁を張るように命じて、先に進んだ。
少し歩いた所で、複数の煙玉が通りの左右の路地から誠達に向けて投擲された。だが、いち早く気づいた椿がサイコキネシスを使って路地に投げ返した。
「へっ、私も役に立っただろう?」
「椿、助かったよ。でも、無理はしないでほしいんだけど……」
「分かってるって、誠」
煙玉が投げ戻された路地からは、煙幕に追いたてられるかのように敵と思われる者達が、わらわらと20人程出てきた。
それを見た葵と瑞波が迎撃するために誠達の前に一歩出た。だが、その隣にはアリスも並んで進み出ていた。そして、彼女の手には魔法少女のステッキが握られていた。ステッキは里にいる時に椿に作ってもらったものだった。
誠達が前に出たアリスの姿を見て呆気に取られている中、アリスは葵達に語りかけた。
「ねえ、葵。先制攻撃は私に任せて。椿に酷いことをした敵に一矢報いたいわ」
「わかった。アリスと椿は開発仕事でいつも一緒だった。その気持ちは良くわかる」
「うん、私にとって椿はお姉ちゃんみたいな存在だったの」
アリスにしては珍しく感情を滲ませながらそう言うと、魔法少女のステッキを高く掲げ、技名を叫ぶと同時にステッキを振り下ろした。
「マジカル〜グラビティ・バレット!」
すると、ステッキの先端から力場のようなものが敵めがけて連射され、前面にいた敵に命中していった。だが、それだけでは終わらなかった。
「マジカル〜インプロージョン!!」
アリスが叫んでステッキを振り上げると、力場の命中した敵が爆縮を始めた。身体が内側にベコッベコッと音を立てながら潰れていく様に周囲は言葉を失った。最終的に直径1cm程の球体になるまで爆縮は続いた。
爆縮によって小さな球体に成り果てた10人の敵がゴトッ、ゴトッと重い音を立てて地面に落ちて転がっていった。
あまりの異様な光景に敵も誠達もしばらくの間、絶句していた。
「はい、先制攻撃は終わり。葵、瑞波、掃討をお願いするわ。私、武術はサッパリだから」
「……わかった」
我に返った葵が瑞波を促して、未だ呆然としている敵目掛けてホバリングしながら突進していった。
「マジカルバレット!」
アリスに触発されて葵も技名を叫んでいた。すると瑞波も負けじと叫ぶ。
「マジカル〜エア〜スラッシュ!」
二人が放ったサイコキネシスによる指弾と斬撃によって、敵は次々に倒されていく中、葵が呟いた。
「しまった。私も魔法少女のステッキを持ってこればよかった……」
敵はほとんどが倒されたが、数名が葵達に背を向けて走り始めた。葵は追撃すべきか誠に確認しようとした時、後方にいたアリスから轟音とともに雷撃が放たれた。
「マジカル〜チェイン・ライトニング!」
音速の数十万倍のスピードで放たれた雷撃は、すでに遠くを全力疾走していた敵に対して瞬時に命中し、その生命を奪った。
誠の側に戻ってきたアリスは自慢げに話しかけてきた。
「誠、どうだった? 私も役に立ったでしょ。遠距離攻撃しか出来ないけど、その分、安全だから誠にも心配かけないで済んだでしょ?」
「うん、異能も天才のアリスが使うと一味も二味も違うんだね。僕も勉強になったよ」
「全部、誠に教えてもらった科学の応用よ。きっと皆にもできるわ」
そこに横で聞いていた椿が割って入ってきた。
「いや、できねぇよ! アリス、里に帰ってからでいいからよ、私にも分かるように教えてくれよ」
「いいわ、私と椿の仲でしょ。それくらいお安い御用よ」
一方、雷撃が直撃して黒焦げになり、遠くでプスプスと煙を上げている敵の遺体を見ながら豪三と主水は深刻な顔をしていた。
「主水さん、アンタ、今のアリスの嬢ちゃんの攻撃を避けられるかい?」
「たぶん、無理でしょうね。速すぎます。豪三さんは直撃した場合に耐えられそうですか? 私は無理ですけど」
「どうだろう……雷って闘気で防げるものなのか? さすがに無傷ってわけにはいかんだろうな……さっきの奴ら、黒焦げになってたぞ」
誠達一行はそのまま歩を進め、潮崎邸まで500mの距離まで迫ったとき、完全武装の傭兵40人が通りを塞いでいた。
その光景を見たアリスは誠の側に寄ってきて提案した。
「誠、先制攻撃は私がしてもいい? 試してみたい範囲攻撃があるの」
「うん、遠距離攻撃なら僕が守ってあげられるからいいよ」
「たぶん、敵の攻撃は届かないから大丈夫よ」
そう言うと、アリスは技名を叫んだ。
「マジカル〜フライ!」
アリスは周りが唖然とする中、空に向けて垂直に上昇していった。
「おい、誠! アリスが空を飛んでいるぞ!」
椿が誠の肩をしきりに揺すって叫んでいた。
「……そうだね。重力制御の技が使えるんだから、当然、空も飛べるよな……。これ、僕らも鍛錬したら飛べるようになると思うよ」
「まじか! 私も飛んでみたいぜ!」
「それよりも、アリスの範囲攻撃を見てみようよ。戦術として範囲攻撃ができるようになると戦略の幅が広がるんだよな……」
一方、敵本陣では、誠達一行が目視できる距離まで進んできたことに驚きを隠せずにいた。
「おい、前線の忍び連中は何をやっているんだ。相手は、たかが9人だろ!」
「伝令が来てないところを見ると、おそらく全滅したのではないかと……」
「撫子についている護衛ってのは、本業は商人って話しだろ? そんな奴らに全滅させられたっていうのかよ!?」
「おそらくは……でも、こちらは40人の完全武装の猛者揃いです。ここで奴らを仕留めましょう」
その時、前方に配置された兵士から耳を疑うような声が上がった。
「おい! 人が空を飛んでいるぞ!」
確かに、上空に少女が浮かんでいるのが見える。そして、その手には杖を持っているように見えた。
だが、騒然としている傭兵達を尻目に、その少女から発せられた澄んだ声が辺りに響き渡った。
「マジカル〜アブソリュート・ゼロ!!」
次の瞬間、少女が持つ杖から青白い光線が放たれた。光線は通りに陣取っていた傭兵部隊を直撃した。
光線が通り過ぎた所は、傭兵たちが彫像のように凍りついていた。アブソリュート・ゼロ、つまり敵兵は絶対零度、−273.15 °Cの状態にされてしまったのだった。
絶対零度に晒された傭兵は、体内の水分が凍結、細胞も氷の結晶で破壊されて死亡していた。
「いったい、何が起きているんだ!?」
本陣前方の兵士たちが目の前で凍りついている姿を見て、指揮官は自分の目を疑った。いや、まったく、状況を理解できなかったと言うべきか。
だが、少女の攻撃はそれだけで終わらなかった。
「マジカル〜グラビティ〜ボール!」
少女が叫んだ次の瞬間、絶対零度で凍りついた兵士を目掛けて、大きめの力場が数発、射出されたのだった。
「マジカル〜インプロージョン!!」
少女の叫び声が響くと、力場の影響範囲内の兵士達は爆縮を始めた。凍結により彫像のような姿になっていた兵士達は爆縮反応により力場の内側に吸い込まれてバキバキと潰されていった。
地獄のような光景を目の当たりにした指揮官は、堪らず叫んでいた。
「我々は、いったい何と戦っているんだ!!」
爆縮が終わった時、兵士のうち約80%が失われていた。
「アブソリュート・ゼロは余分だったかしら……たぶん、グラビティ・ボールだけで殲滅できたわね。でも絶対零度の実験ができてよかったわ。じゃあ、最後の掃討は雷撃で締めるとするわ」
アリスはステッキを頭上に高く掲げて、雷撃のための電気エネルギーを溜め始めた。
「マジカル〜チェイン・ライトニング!!」
ステッキから雷撃が敵陣目掛けて放たれた。上空からなのでアリスから敵陣の配置は丸見えであった。アリスは敵の残党目掛けて雷撃をなぞるように浴びせていった。
アリスが地上に戻ってきた時には、敵はほとんど残っていなかった。
「葵、瑞波、残っている敵の掃討をお願いするわ」
「わかった。行こう、瑞波」
葵達が敵の掃討に向かった後、アリスは誠に自分の攻撃の感想を聞きにいった。
「誠、私の範囲攻撃はどうだった? 誠の役に立てそう?」
「うん、僕もアリスを見習ってマスターしたいと思ったよ!」
「よかった! ほんとうは重力制御の応用でブラックホールを作ってみたかったんだけど、一歩間違うと通り沿いに住んでいる人達を巻き込みかねないと思って止めたの」
「……アリス、ブラックホールを市街地でぶっ放すのは止めようね。通りどころか、潮崎領が消滅しかねないから……」
そこに横で聞いていた豪三が、おもむろに誠に問いかけてきた。
「誠、アリスの嬢ちゃんって、お前より強いんじゃねぇのか?」
「豪三さん、僕もそう思います」
「俺も嬢ちゃんのさっきの攻撃を見て、勝てるイメージが全く湧かなかったわ……」
「僕も昨日までは、戦場で強いのは豪三さんや主水さんみたいに武を極めた人だと思ってたんですが、アリスみたいな天才が異能を使うと戦いの次元が全く違いますね……僕も嫁達を守れるように精進したいと思います」
「誠に認められて嬉しい! 今度は魔法少女の衣装で技を披露したいわ」
まさか戦国の世に魔法少女が爆誕するとは思っていなかった誠は、自分の見通しの甘さを痛感していた。
「世の中、何が起こるか分からないな……」




