第三十八話 山岳戦再び
誠達一行は越中国でも市街地には入らず、潮崎家の領内までは山間部を移動していた。これには主水から、次のような助言があったからであった。
「誠さん、市街地に入れば忍びの情報網で我々は即座に敵に察知されますし、日中は敵と一般民衆の区別が困難です。ですので、市街戦はできるだけ避けて下さい」
「主水さん、ということはギリギリまで山中を移動した方がいいって話ですよね」
「そうです。目前に潮崎家の領地が迫るまでは山間部を移動した方が安全です」
誠は斥候として索敵能力に優れた菫と芹を交代で出していた。だが、越中国に入るまでは、主水や豪三が言うように敵は菫達の索敵網にはかからず、道中は至って平和であった。
いよいよ潮崎家の領地にある山間部に差し掛かったころ、斥候にでていた菫からテレパシーで誠に通信が届いた。
『誠〜、敵の見張りがいたよ〜。人数は二人で、たぶん忍びかな〜、殺っちゃっていい?』
『異能を使えば、二人とも殺せそうかい?』
『うん、たぶん大丈夫。鉄砲と違って音が出ないからね』
『じゃあ、お願い』
菫に敵の見張りの始末を命じて、他のメンバーにも情報を共有した。
「皆さん、菫が敵の見張りを発見しました。見張りの始末は菫に命じたので、僕たちは敵本隊を奇襲して殲滅する準備をしたいと思います」
主水と豪三も黙って頷いたので異論はないようだった。誠の作戦は次のとおりだった。
「まず、芹は先行している菫と合流して、敵本隊の位置を特定してください。敵の位置が分かったら、僕と葵と瑞波の3人で敵陣を包囲します」
主水から作戦の詳細について質問が上がった。
「誠さん、初撃は菫さんと芹さんの長距離狙撃ですか?」
「はい、そのとおりです。菫と芹の長距離狙撃で可能な限り敵を減らしてもらいます。その後は包囲している僕達の射程に逃げてきたら異能を使って掃討します」
「誠さん、私と豪三さんは守りということで間違いないですか?」
「はい、主水さんと豪三さんは戦闘に参加しない人達を守って下さい」
「わかりました」
「では、作戦の概要はこんな感じだけど、想定外のことが起こったら僕にテレパシーで報告してください」
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菫は誠の指示に従い、敵の見張りに対して異能を使った狙撃体制に入っていた。
「異能を使った狙撃って、銃の狙撃とちょっと違うよね〜。目視というよりも頭の中で敵の位置が正確に分かってしまうのは何故なのかな〜?」
異能についての疑問を、小声で独り言のように呟いていた菫であったが、それは誠が使っている時空間支配のスキルを無意識に発動していたからであった。
菫は頭の中で位置を把握していた敵の見張り二人をめがけて、異能の長距離狙撃を連射した。連射された異能の弾丸は、綺麗に敵の頭を撃ち抜いた。
「弾道が敵めがけて樹木を避けながら飛んでいくのは、どういう仕組みなんだろうね〜」
菫がブツブツと独り言を呟いているところに、芹が合流してきた。
「お姉ちゃん、お疲れ。誠さんが、次は敵の本陣の場所を特定してほしいって。途中、見張りを発見したら狙撃してもいいってさ」
「了解。敵の本陣なら、もう大体分かってるよ〜。北東500mくらいかな」
「さすが、お姉ちゃん」
「100mくらいまで接近して目視で確認してから、誠に連絡するのでいい〜?」
その後、菫達は敵本陣に接近し、目視で分かった情報を誠に通信で知らせた。
『誠〜、敵は野武士約30人、位置は私の頭の中のイメージをそのまま送るね〜』
『菫、ありがとう。こっちの配置が完了したら連絡するから、狙撃を開始して』
『了解〜』
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一方、敵本陣では、誠達一行の情報はまったく掴めていなかった。
「おい、本当に東雲家のお姫さんはこんな山の中を通ってくるのか?」
「どうなんだろうな……そもそも生きているかどうかも分からんしな」
「今回の依頼主って、潮崎家の奴らだろ? なんで自分達の当主に嫁いでくる姫さんを殺してほしいんだよ?」
「そうした方が都合のいい人達がいるって噂だぜ」
その時、バスッ、バスッという音とともに仲間の野武士が倒れるのが視界の隅に見えた。
近くにいた者が倒れた仲間に駆け寄り、声をかけた。
「ん? 何だ? お前、大丈夫か?」
よく見ると額に小さな穴が開いて血が流れていた。しかも呼吸も止まっている。
「お、おい! 死んでいるぞ! 敵襲だぁ!!」
そうしている間にも次々と仲間が倒れていった。不幸なことに本陣を敷いた場所は開けた丘になっていて身を隠す樹木もなかった。それはもはや戦闘ではなく、菫と芹の長距離狙撃による一方的な虐殺であった。
「このままでは全滅するぞ! 散開して各自、森に身を隠せ!」
敵兵はバラバラに周囲の森に向かって走り、樹木の影に隠れた。
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敵本陣の右翼には葵が一人で包囲網を敷いていた。とはいっても、敵兵が森に走り着く前に菫と芹が長距離狙撃で大半を撃滅していたため、葵が相手をするのはわずか3人であった。
「私の方に来たのはたった3人……」
不満を愚痴りながらも、葵は隠密スキルで気配を消しながら射程範囲の20mまで接近すると一人ずつ丁寧に指弾で頭部を撃ち抜いていった。敵からすると、知らないうちに命を奪われるような状態だった。
葵は最後の一人を討ち取ってボヤいた。
「呆気なかった。これでは力試しにもならない」
一方、敵左翼を担当していた瑞波はというと、異能によるホバリングによって木々の間を音もなく敵に接近し、10mの距離から斬撃を放って、敵の首を飛ばしていった。
「ば、ばけもの……」
こちらは敵が目視できる分、恐怖だった。10mの距離から瑞波が斬撃を放つと、次の瞬間には仲間の首が落ちるのだ。敵は終いには恐慌状態に陥り、逃げ出す始末であった。
それを追う瑞波のホバリングは森の木々を器用に避けながら速度を増していった。
「私から逃げ切れるとは思わないでください!」
瑞波はホバリングしながら斬撃を飛ばし、森に逃げてきた敵兵を全滅させた。
敵本陣の後方に包囲網を張っていた誠は、『時空間支配』を発動して敵兵の座標をロックオンしていた。後は自分の方に逃げてきた敵を指弾の連射によって迎撃するだけだった。指弾は敵兵にロックオンされており、命中するまで追尾するので誠の攻撃から逃れる術はなかった。
誠は『時空間支配』により敵兵が殲滅されたことを確認すると、嫁達にテレパシーによる通信を行った。
『皆、ご苦労さんでした。山の中に陣を張っていた敵兵は全滅させたから、戻ってください』
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誠達は合流すると、今後の予定について打ち合わせを行った。早速、主水から提案があった。
「誠さん、敵を殲滅できたということですので、明日にでも潮崎家の市街地に入りましょう。ただし、日中ですと、敵が暗殺部隊を雇っている場合は我々が不利になりますので、夜間、一般の民衆がいない時間に潮崎家に入るようにした方がいいと思います」
「主水さん、僕もそうした方がいいと思います。理想としては、今晩中に移動した方が良いのでしょうが、戦闘が連続すると疲労で悪影響が出るかもしれません。ですので、明日の夜に決行でも構いませんか?」
「そうですね。私が暗殺部隊の隊長をしていた頃であれば、今晩にも移動していたと思います。ですが、今回は敵の情報があまりにも少なすぎます。ですので、誠さんの案に賛成ですよ。明日の夕刻くらいに斥候を出しながら深夜に移動するのが安全だと思います」
「豪三さんもそれでいいですか?」
「俺は細かい作戦には口は出さないよ。まあ、いざとなったら、俺が突破口を作ってやるから大船に乗ったつもりで安心していいぜ!」
「それは心強いです。では、今日は各自しっかりと身体を休めてください」
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夕食時、他の嫁達の活躍を聞いた椿は、戦闘に参加したいと駄々を捏ねはじめた。
「誠〜、私も明日からの戦闘に参加させてくれよ〜」
「椿は完全に治るまで大人しくしてほしいんだけど……」
そこに椿の主治医である宗一郎が割って入った。
「椿、お前は毒が完全に抜けるまで激しい運動は禁止だ。心拍数が上がるような行動はもってのほかだ。その代わり、明日からは自分の足で歩いて移動することは許してやる」
「ぐぬぬぬ……」
「椿、おまえが戦闘に参加することはやっぱり許可できない。ただし、宗一郎さんをお前が守ってやれ。その時だけは戦闘を許してやる。これで納得してくれないか?」
「わかったよ。誠の言うとおりにするよ」
アリスから手が上がった。
「誠、私も異能を実戦で試してみたいのだけど」
「じゃあ、アリスも宗一郎さんを守ってやってくれないか? それと、もし長距離攻撃ができるなら、試してもかまわないよ」
「わかったわ。今回はそれで実験してみるわ。私は武術の心得がまったくないし、接近戦は怖くてできないものね」
「それから、撫子の護衛だけど、僕と主水さんと豪三さんの3人で守りを固めます。今回の依頼は、撫子を潮崎家の当主に送り届ければ一先ず達成ですので。もし、敵に猛者が現れた場合、僕たち3人のうちの誰かが対応するようにします」
「誠、嫁達も異能が使えるようになった。強敵にも対抗できると思うので、もう少し頼りにしてほしい」
「わかったよ、葵。でも、くれぐれも無茶はしないでくれよ。危ないと思ったら通信で直ぐに知らせてくれ」
「そこは安心してほしい。もし、主水や豪三クラスの猛者が現れたときは直ぐに誠に知らせる」
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そのころ、潮崎領のとある料亭の一室では、撫子抹殺についての打ち合わせが行われていた。
「山間部に出していた傭兵部隊からの定期連絡が途絶えている。これは、撫子の護衛に雇った商人一味の仕業と考えて間違いないか?」
「ええ、仰るとおりです。おそらく、今夜か明日の夜辺りに潮崎家に撫子を送り届けるつもりでしょうね」
「お前たちは、それを阻止できるのか?」
「忍び20人と傭兵40人を雇って領内に配置していますから、ご安心ください。山中に配置した傭兵とは違って猛者揃いですので、撫子もろとも確実に殲滅できる手筈となっております」
「そうか、それを聞いて安心した。撫子には確実に死んでもらわないと困るのでな」
「でも、輿入れの後に暗殺した方が簡単なのでは?」
「それも一理あるが、面倒事は早めに片付けておきたいからな」
「御意に」




