第三十四話 異能者を殺す者
「じゃあ、小僧、殺し合いを始めようか」
2m近い長身の鷲尾は余裕の表情で誠を見下ろしていた。敵、傭兵部隊の隊長である鷲尾は数々の戦場で常勝無敗を誇る歴戦の武者であった。全身を甲冑で固めており、地顔が怖いせいで傍から見ると、まるで鬼神のように威圧感があった。
「小僧、お前さんの妙な技は影山さんとの対戦で十分に見せてもらったし、それ以前に忍びの報告でも聞いていたからな。たぶん、俺には通用しないと思うぞ。今、降参するなら楽に殺してやるがどうする?」
「鷲尾さん、さっきから言ってますが、僕には待っている嫁達がいますので負けるわけにはいかないんですよ」
「そうか、わかった。じゃあ、ハンデをくれてやるよ。最初の一撃はお前に撃たせてやる。こっちは避けないで正面から受けてやるから、思いっきり強烈なのをぶつけてこい!」
そういうと鷲尾が全身から闘気を発しはじめた。それは、まるでオーラが肉眼で見えるような錯覚を起こすほどの威圧を放っていた。
「わかりました。では遠慮なく」
誠は時間をかけて周囲の空気を圧縮していき、今までの最大級の高密度の力場を超高速回転させていった。そしてそれを溜めに溜めてエネルギーを圧縮していった。
限界まで圧縮した状態に達した時、そのエネルギーの塊を相手の心臓を目掛けて超高速で放った。
高密度のエネルギー弾は相手の心臓目掛けて飛んでいき、鷲尾の左胸で爆散した。
誠のエネルギー弾は鷲尾の闘気を貫通し、甲冑の胸部を爆散させ、左の胸筋を大きく抉ったが、骨にまでは達していなかった。
「小僧、大したもんだ。俺の闘気を貫通するとはな! でもそれだけだ。こんな程度じゃ、俺には勝てないぜ」
誠は渾身の一撃が致命傷に至らなかったことに少なからず動揺していた。
「まじか……このオッサン、バケモノだわ」
思わず、心の声が漏れる。
「感心してないで、しっかり構えろよ。今度はこっちから攻撃するぜ」
鷲尾は大太刀を抜刀すると、縮地で誠に突撃し、そのまま横薙ぎに大太刀で斬撃を浴びせてきた。
誠は力場で防御しながら、鷲尾の太刀をサイコキネシスで止めようとしたが力場ごと吹き飛ばされて背後の大岩に激突した。
幸い力場で防御したのでダメージはそれほどでもないが、鷲尾の一撃による衝撃と恐怖は誠にも十分伝わった。
誠は高密度の力場を自分の周囲に複数展開するとそれを圧縮して鷲尾にオールレンジ攻撃をしかけた。
「これは、影山さんとの対戦で見せた技だよな。この程度なら避ける必要は全くないぞ。痛くも痒くもないな」
「なら、一点突破ならどうですか?」
誠は最初に一撃を与えた高密度のエネルギー弾を自分の周囲に複数作り始めた。それを直列に連射すれば心臓に届くと誠は考えたのだった。
「小僧、お前の考えてることはお見通しだよ。だがな、技が完成するまで待ってやる義理はこっちにはないんだぜ」
そういうと鷲尾は縮地で突撃してきて、上段から斬撃を浴びせてきた。
まともに受けたら危なそうな雰囲気がひしひしと伝わってきたので、誠は安全を見てテレポートで回避した。
「小僧、いい勘してるな。今の避けなかったら、お前、真っ二つになっていたぜ」
「笑えない冗談はよしてくださいよ」
「お前は、今まで雑魚としか戦って来なかったんじゃないのか? 俺は戦国武将の合戦にも傭兵として参加しているけどな、お前みたいな異能使いは別に珍しくないんだよ」
「戦場に異能使いって、そんなにいるんですか?」
「ああ、でもな皆、異能持ちってだけで、まるでガキが玩具を手にしたみたいにイキってるだけのくだらない奴らだったぜ。実際に戦ってみると弱すぎて話にならないんだよな。そんな異能使いよりも、戦場にいる歴戦の猛者の方がよっぽど怖かったぜ」
鷲尾は戦場の思い出に浸るように遠い目をしながら語りはじめた。
「それは、僕も影山さんと戦ってみて十分実感しましたよ」
「合戦ってのはよ、ルール無用の混戦だからな、異能でイキっていても囲んでボコれば、倒すのは簡単だったぜ。それにな、大抵の異能使いは『自分は天下を取る!』みたいに口先だけは立派だが、鍛錬を怠っているから体力がないんだよ。だから、合戦が長引くと直ぐに力尽きちまうんだよな。あいつらの戦闘はホント素人同然だったな」
「僕は商人ですし、別に戦士を目指しているわけじゃないんですけどね」
「じゃあ、今、なんで戦っているんだよ?」
「嫁達のためですが」
「はあ、嫁達?」
「僕には愛する6人の嫁がおりますので」
「まあ、そんなことはどうでもいいが、まだ、やる気なら相手をしてやるぜ。ただ、つまらんと思ったら即、殺すから覚悟して攻撃してこい」
「じゃあ、僕も早く嫁の元に帰りたいので本気でいきます」
誠は再び高密度のエネルギー弾を自分の周りに作り始めると同時に、鷲尾の座標をロックオンした。
鷲尾は誠にエネルギー弾を撃たせまいと縮地で突撃してくるが、鷲尾の座標をロックオンしている誠は、鷲尾から一定の距離を取るように半自動的に瞬間移動を繰り返しながら、エネルギーを溜めていった。
十分なエネルギーが溜まったところで瞬間移動先から自動追尾でエネルギー弾を鷲尾の心臓目掛けて連続で射出した。
鷲尾は縮地で逃れようとするが自動追尾されるので、諦めて迎撃を開始した。大太刀を振りかぶるとエネルギー弾を次々に斬撃で破壊していったのだ。
「オジサン、ホントなんでもありですね」
「お前に言われたくはないな」
今度は鷲尾がひっきりなしに大太刀で誠を攻め続けた。
「どこまで、小僧の体力がもつか楽しみだな」
その頃、菫と芹は敵本陣から200mの見通しの良い位置に銃座を設置して、地面に腹ばいの姿勢で長距離狙撃のタイミングを伺っていた。
「芹ちゃん、誠がピンチだよ! なに、あのオッサン。誠の異能が通用しないなんて反則でしょ!」
「お姉ちゃん、落ち着いて。きっとチャンスがあるはずだから、誠さんのために相手の隙をつくれるようなタイミングを待とうよ」
「わかってるって、芹ちゃん。一瞬でもいいから相手の気を逸らせるタイミングを狙うよ! 私は照準をつねにオッサンの頭に合わせてるから、タイミングは芹ちゃんに任せたよ」
「うん、本来の観測手の仕事とは違うけど、タイミングは私に任せて!」
誠は、鷲尾のタフさに内心、閉口していた。
「こりゃ、生半可な攻撃じゃダメージが通らないな。奥の手を出すしかないか」
誠は鷲尾から逃げながら、エネルギー弾を自分の周囲に多数、作り始めた。
「小僧、逃げてばかりじゃ、ジリ貧だぞ」
誠は鷲尾を無視して、エネルギー弾を作り続けた。500個のエネルギー弾が完成したとき、それをロックオンしている鷲尾の座標を中心にした半径3mの範囲に均等に転移させた。
そして、その時、菫の放った長距離狙撃銃の弾丸が鷲尾の兜を直撃した。脳を激しく揺らされた鷲尾はほんの一瞬意識が飛び、誠のエネルギー弾を避けるタイミングがわずかに遅れた。
そのせいで縮地での移動のタイミングがわずかに遅れ、誠がテレポートで放ったエネルギー弾の幾つかは鷲尾の体内で爆発した。
これには流石の鷲尾にもダメージが通ったのか、彼は静かに片膝を着いた。
「小僧、俺の負けだ。トドメをさせ」
「鷲尾さん。負けを認めたのなら、僕の軍門に下りませんか?」
「お前、何言ってんだ?」
「だって、鷲尾さん、まだ戦えるでしょ? それに僕を殺そうと思えばいつでも殺せたんじゃないですか? それなのに僕に戦い方や他の異能者の話を教えてくれたりしてましたよね」
「……」
「鷲尾さんも影山さんみたく、傭兵家業に限界を感じていたんじゃないですか?」
「まあ、否定はしないがな」
「僕のところに来れば、嫌な奴に頭を下げたり、気を使う必要もありませんし、生活も保証しますよ」
「鷲尾殿、私と一緒に誠さんの下で働きましょうよ。これを機に殺伐とした人生とは決別しましょう」
影山からも鷲尾の背中を押す声が聞こえる。
「鷲尾さん。僕の里は、街から追い出された人や里を滅ぼされた人の集まりです。そこでは、理不尽な思いをせずに皆が生き生きと暮らせる理想郷を作ることを目指しているんですよ。鷲尾さんも僕たちに力を貸していただけませんか?」
「あーもう、わかった、わかった。俺はアンタに負けたんだ。大人しく軍門に降って、アンタのために働くよ」
「じゃあ、契約成立ということで。最後に一つだけ教えてほしいのですが」
「ああ? 何が聞きたいんだ?」
「なぜ、まだ戦えるのに降参したんですか?」
「……それはな、後5年もすれば、お前は俺よりも強くなるからだよ。俺よりも優れた戦士になる若い奴をこの手で潰しちまうのは忍びなくてな。お前になら負けを認めてもいいと思ったのさ」
鷲尾はバツが悪そうにボソボソと答えた。
「聞かせてくれてありがとうございます。鷲尾さんが優しい人だってわかりました」
「……」
「お二人は自力で歩けますよね。僕は一足先に嫁の元に帰りますので、ゆっくりでいいので後から来てください。医者も連れてきているので治療させますから、怪我のことも心配しないでください。では」
そういうと、誠はテレポートで鷲尾達の前から姿を消した。
「鷲尾さん、私達、結局のところ、誠さんの部下になることになってしまいましたね」
「影山さんは、最初からそのつもりだったのかい?」
「彼と対戦してから決めるつもりでした。鷲尾さんもそうだったのでは? 戦闘の最中なのに、親切に戦いの秘訣を講義してましたしね」
「誠ってやつを見ていると、ついつい世話を焼きたくなっちまうんだよな。まあ、これもすべてあいつの責任だ。雇ってもらうからには最後まで面倒をみてもらうつもりだよ」
「まあ、彼らもまだ若いが故に、至らないところもありますから、私達年長者がしっかり支えてやりましょうよ」
「そうだな」
そう言うと二人は誠のもとにゆっくりと歩き始めた。




