第三十三話 異能と歴戦の勇士
誠が敵の暗殺部隊と傭兵部隊を掃討したため、残すは敵首魁の鷲尾豪三(33歳)、影山主水(40歳)、そして伝令係の忍び含む3名のみとなった。
先の戦闘で、誠には通常の物理攻撃や毒が効かないと判明したため、暗殺部隊隊長の影山は依頼主の東雲家にそのことを知らせるために伝令を放とうとしていた。
伝令が後方に駆け出す瞬間を狙って誠は指弾を撃ったが、影山の忍刀で再び弾かれてしまった。
「へ〜、指弾を弾ける奴がいるんだ。さっきと合わせて2回目だから、もう偶然じゃないよね」
誠は自分の攻撃手段に抵抗できる敵に遭遇したのは、今回が初めての経験であった。そして、今まで無双を誇ってきた自分の異能が通用しない相手がいることに内心動揺していた。
「おめでとうございます。残す敵は暗殺部隊の隊長である私と、隣にいる傭兵部隊隊長の鷲尾殿のみとなりました。まずは、私、影山主水がお相手いたします」
「これは、ご丁寧にどうも。僕は誠といいます。本業は商人です。嫁が重症で早く終わらせたいので、早速、始めさせていただきます」
そう言い放つと同時に、誠は強めの指弾を影山に撃った。
影山は難なく忍刀で誠の指弾を受け流した。
「なるほど、これがあなたの異能なのですね。気の塊のようなものを飛ばしているみたいですが……」
「僕の異能を見ても驚かないんですね」
「ええ、異能を見るのは初めてではありませんので。戦場に行けば、異能使いにはそれなりに会えますよ。強い方にはまだ遭ったことはありませんけどね」
影山はそう言うと、縮地で一瞬で誠の懐に入り、刺突を行ってきた。誠は、危うく防御用の力場を貫かれそうになって焦った。
「これはこれは。その異能は防御にも使えるのですね。闘気を纏うような感じでしょうか? でも、それほど強力じゃありませんね。後ろに控えている鷲尾殿の闘気に比べると足元にも及びませんよ。私程度でも頑張れば貫けそうです」
誠の防御も影山にとっては脅威ではないらしい。誠はいつもより念入りに異能で防御を固めた。
影山はニコニコしながら刺突ではなく、今度は斬撃を放ってきた。
「なら、これはどうかな」
誠はサイコキネシスで影山の動きを止めようとしたが、わずかに動きを鈍くする程度しか効果はなかった。
「ほう! 今度は私の動きに干渉しようとしたみたいですが、残念でしたね。戦闘中は私も闘気を纏っていますので、あなたの異能もあまり効かないようですよ」
「世の中には、影山さんみたいに強い人もいるんですね。正直、驚きました。でも僕も嫁が待っているので、ここで負けるわけにはいかないんですよ」
誠は影山の座標を『時空間支配』でロックオンすると、延々と指弾を影山目掛けて連射していった。
指弾は四方八方から影山を狙って追尾しているが、影山は驚くべき剣速でそのほとんどを払い除けた。ごくたまに命中したのもあるが、急所を避けられている上にほとんどダメージが通っていなかった。
「試しにいくつか受けてみましたが、軽い攻撃ですね。これなら急所以外は避ける必要がなさそうです。私の闘気で威力もほとんど相殺されるようですよ」
影山は相変わらずニコニコしながら分析した結果を誠に教えていた。
「影山さん、あなた、ホントに人間なんですか?」
「失礼なことを仰りますね。ただ、少しだけ一般の方より強いだけですよ」
次に、誠は力場を自分の周りにいつもより高密度に圧縮した状態で幾つも作り出し高速回転させた。続けて『時空間支配』で影山の位置を再度ロックオンすると、力場を影山の周囲に飛ばしてオールレンジ攻撃を始めた。
力場は時間とともに圧縮されていき、さらに高密度になっていった。さすがに影山も超高速で回転する高密度な力場を闘気だけで防ぐことができず、体に生傷を増やしていった。
「芸が細かいですね。でも、搦手は私も得意なんですよ」
そういうと煙玉を誠の足元に投擲して煙幕を張った。
「私の刀にはあなたのお仲間を苦しめたトリカブトの毒が塗ってありますので、切られないように気をつけてくださいね」
影山はわざわざ、刀に毒を塗っていることを教えて相手の焦りを誘ってきた。心理戦においても相手の方が誠よりも何枚も上手のようであり、早く椿のもとに戻りたい誠は次第に焦りが増していった。
「それは、ご丁寧にどうも!」
影山が縮地を使って誠の意識外の位置から刺突を放ってきた。
「防御を固めているようですが、いつまでその集中力が続きますかね」
誠は煙幕の中、『時空間支配』によって影山の座標をスキャンし、さらに力場を強めることで影山の刺突速度を幾分鈍らせた。それだけやっても、影山の刺突攻撃をギリギリ躱すのに精一杯であった。
「このままじゃ、ジリ貧だな……」
そう呟くと誠は一旦煙幕外にテレポートし、『時空間支配』で再度、影山の座標をロックオンした。そのまま、影山の背後にテレポートし、刀で心臓を突こうとしたが、あっさりと躱されてしまう。
「ふふ、あなた程度の剣術の腕では私に傷をつけることはできませんよ。もっと精進しないと」
「ご忠告、どうも」
「どうも、急に消えたり、現れたりする妙な技を使いますが、攻撃が当たらなければ怖くありませんからね」
「では、こういうのはどうですか?」
誠は再びテレポートして、今度は背後ギリギリの位置に出現して影山に触れようとしたが、テレポート先に影山の姿はすでになかった。
「あなたは出現する時に、気配がわずかにするので分かるんですよ。後は縮地で逃げれば十分間に合うというわけです。概ね、さっき鷲尾殿の部下にしたような攻撃をしようとしたのでしょうが、一度見てますからね。同じ技は私には通用しませんよ」
「僕たちはまだ、運が良かったんですね。もし、影山さんのような猛者が単身突撃してきていたら、僕らの仲間は大多数が葬り去られていたと思います」
「私はこれでも指揮官ですので、普段は現場に出て直接、手を汚したりはしないんですよ。もう、いい歳ですしね」
「ははは、それは有難いです」
「それと、あなたが死ねば、お仲間も漏れなく始末する予定ですから、せいぜい頑張ってください」
「わかりました。じゃあ、僕もそろそろ本気を出すことにします」
誠は再び、自分の周りに高速回転する高密度な力場を複数作ると、再び時空間支配で影山の座標をロックオンした。
次の瞬間、力場を影山の体内に直接テレポートさせた。
影山は体内の異変に気づいて、縮地で移動を試みるが間に合わず、脇腹が小さく爆発した。
影山は傷口を手で抑えながら降参の合図をした。
「誠さん、私の負けです。あなたの軍門に降るので雇ってもらえませんか?」
「はあ? 影山さん、本気で言ってます? 今まで僕たちは殺し合っていたんですよ!」
「もちろん、本気です。先程もいいましたが、いい年してフリーの殺し屋稼業をするも結構疲れるんですよ。それに自分よりも弱い癖に愚かな顧客に使われるのは結構消耗するものなんですよ」
影山は、いきなり人生に疲れた中年のフリーランスみたいなことを言い始めた。誠も前世では45歳の草臥れたロートル研究者だったので、影山の言うことも理解できなくはなかった。
「ですので、ここ数年ずっと探していたんですよ。私が仕えるにふさわしい主をね」
「今回の依頼主への不義理はどうするんですか?」
「さきほど、東雲家へは伝令を放ってあなた方の情報を伝えるようにしましたので、十分義理は果たせてますよ。それにこんなに厄介な敵とは知らされていなかったので、追加料金を請求したいくらいですよ」
影山はさらに世知辛いことを言い始めた。
「僕らは普段、隠れ里に引き篭もって滅多に外にでませんが、そういう暮らしでも問題ありませんか?」
「私も忍びですので、仕事以外では人前に姿を現すことはほとんどありません。ですので、まったく問題ありませんよ」
「隠れ里では、生活を支えるために何らかの労働に従事してもらう必要がありますが、それでも構いませんか? もちろん、今回のような護衛任務や諜報任務をお願いすることもあるとは思いますが……」
「はい、それで構いませんよ。自給自足のスローライフには昔から憧れてましたからね。人殺しを生業にすると心が荒んでしまうものなので」
影山は、今度はブラック企業の人生が擦り切れた社員みたいなことを言い出し始めた。本当に殺し屋稼業に嫌気が差しているのだと誠は察した。
「そうですか。ところで脇腹の怪我は大丈夫なんですか?」
「はい、これくらい大したことはありません。急所はちゃんと外しましたから」
「わかりました。うちも人材は常に募集していますので、影山さんみたいな優秀な方であれば大歓迎です。とりあえず、そこで休んでいてください」
「ありがとうございます。私を雇ったことを決して後悔させませんよ。それと後ろに控えている鷲尾殿は、たぶん、あなたより強いから心して相手をしてくださいね」
そこに鷲尾が重い腰を上げて現れた。
「影山さん、アンタ、敵の軍門に降るとは相変わらず何考えているか分からん人だな……。俺がその小僧に勝ったら、アンタを殺すことになるけど、本当にいいのか?」
「もちろんです。私は誠さんの部下になることに決めましたので後悔はありませんよ」




