第三十一話 前線の乙女たち
=== 前線にて ===
誠が椿を加勢するため前線を抜けた後、菫と芹は長距離狙撃銃で接近する敵を牽制していた。
「お姉ちゃん、奴ら、木を盾にしながら接近してくるから全然当たらないよ!」
敵は谷間の急斜面沿いの樹木が多い場所を小走りに移動しては樹木に隠れるので、照準を合わせるタイミングがなかなか合わなかった。
「仕方ないよ、芹ちゃん。こう不規則に動かれると、照準が合う前に木に隠れられちゃうからね」
彼女らの背後では、アリスと宗一郎が撃ち終わった銃への弾と火薬の装填に忙しく働いていた。
「誠も牽制するしかないって言ってたから、戻ってくるまで敵の進行を遅らせれば上出来なんじゃないの?」
「私もアリスの意見に賛成。誠が戻ってくるまでの時間稼ぎに専念するべき」
「もう〜、わかりましたよ。御嬢の言うとおりにしますから、静かにしていてください」
そうこうするうちに、敵の傭兵部隊は長距離狙撃に向かない距離まで迫ってきた。菫達も眼前に迫ってきた敵兵に対して応戦方法を変えざるを得なかった。
「もう、長距離狙撃は無理だから、短銃で牽制するよ〜」
「わかりました。突破してきた敵は私が斬ります」
武術を一通り修めている瑞波が白兵戦に名乗り出た。
「了解、いよいよ瑞波ちゃんのお手並み拝見だね〜」
「はい、任せてください!」
瑞波はやっと皆の力になれると張り切っているようだった。
「瑞波、私も援護するから、背中は任せて」
実戦経験が少ないであろう瑞波を心配して、葵がサポートを申し出た。
「お願いします。葵ちゃん」
そして、とうとう敵兵が菫達の陣地に突撃を開始した。
「来たよ〜!」
菫の合図で射撃を開始し、突進してきた敵兵の一人を倒した。轟音とともに防具をも容易く貫通して、致命傷を与える短銃を目の当たりにした敵兵達は直ぐに背後の木に身を隠した。
敵は防具で全身を固めた重武装だったが、銃弾が命中さえすれば倒すのは容易であった。菫、芹、宗一郎が拳銃で応戦し、アリスが装填係、葵と瑞波が白兵戦を担当し、陣地に入ってくる敵に備えていた。
「宗一郎、次は私にも撃たせてほしいわ」
「って、アリス、お前、銃を撃てるのか?」
「大丈夫、たぶん宗一郎より上手いから」
「ったく、言ってくれるな〜。じゃあ、次、撃たせてやるから、少し待っとけ!」
敵が突撃を開始してからも拳銃が脅威だと分かると、戦況は一時的に膠着状態に陥った。だが、しばらくして弾を装填している間はであれば発砲できないことを知ると、そのタイミングを狙って突撃してくるようになり、菫達は次第に劣勢に立たされていった。
そして、いよいよ混戦の様相が強くなって来た時、菫と芹も刀を手に取った。
「私達も白兵戦で迎え撃つから、アリスと宗一郎は銃で自分の身を守ってね〜」
そう言い残すと、菫と芹は抜刀して敵兵に向かっていった。
「宗一郎さん、お二人は私が護衛します」
「瑞波、助かる。俺達は刀の相手は苦手でな」
銃による応戦がなくなってからは徐々に傭兵部隊の人数が増え、菫達は益々劣勢に立たされていった。
「お姉ちゃん、多勢に無勢で、これ絶対不利だよね!」
「文句言わないで、一人ずつ削っていくよ〜」
「誠が戻ってくるまで持ちこたえれば、私達の勝ちなんだから問題ない」
くノ一3人組は煙幕や目潰しなどを使いながら敵の防具の隙間を狙って応戦していた。ちなみに葵達の忍刀にはトリカブトの毒が塗られているため、少しでも傷をつければ相手の命を削ることができた。
だが、10倍近い人数差は如何ともしがたく、徐々に傷を負いながら消耗していった。
そんな3人だけの防衛戦を突破し、弱者である宗一郎とアリスを狙ってくる傭兵も増えて、瑞波一人では二人を守りきれなくなっていった。
すでに瑞波も全身、刀傷だらけで満身創痍であった。そんな瑞波の隙をついて、一番弱そうなアリスに傭兵が向かっていった。
「アリスちゃん、ごめん、一人そっちに行った!」
アリスはタイミング悪く、銃に装填している最中であった。
「アリス、逃げろ!」
アリスと同じく、銃を撃てない状態だった宗一郎は敵に組み付いたが、あえなく叩き伏せられた。
「へ〜、外国の嬢ちゃんか、可愛いじゃねぇか! こいつは本陣への手土産に攫っていくとするか」
敵兵はアリスの鳩尾に拳を叩き込んで動けなくした後に、小脇に抱えて、本陣に戻ろうと走り始めた。
その時、その敵兵の前に突如、誠がテレポートで姿を現した。
アリスを抱えていた敵兵は、目の前に突然現れた誠を見て驚きのあまり呆然としている。
「アリス、遅れてごめん」
アリスは花が咲いたような笑顔になって叫んだ。
「誠!」
誠は、状況を理解できず固まっている敵兵の眉間をサイコキネシスの指弾で撃ち抜いた。誠は敵が崩れ落ちる前にアリスの真横にテレポートし、彼女を取り戻した。
アリスは誠に抱きついてきたが、彼女の体は小刻みに震えていた。
「ごめん、アリス。怖かっただろ」
「ううん、きっと誠が来てくれると信じていたわ」
誠は、アリスが落ち着いたのを確認してから周囲を見回して戦況を把握した。
「ごめん、アリス、他の嫁達も助けてくるね」
「うん、気をつけて」
アリスがそう言うと同時に、誠は彼女の眼前から姿を消した。
誠が前線に到着してからは戦況は一気に変わった。
まず、誠は、倒れている宗一郎にトドメを刺そうと集まった敵を一人で食い止めていた瑞波のもとに瞬間移動した。
「誠様!」
誠の存在に気づいた瑞波の表情がぱっと明るくなった。
「瑞波、遅くなった!」
誠はそのまま、指弾で敵兵の頭を撃ち抜くと、敵兵の間に動揺が広がっていった。
「こいつ、怪しい技を使うぞ!」
「それに、突然現れなかったか? あやかしの類かよ?」
「おい、一旦引くぞ! いたずらに兵の数を減らすわけにはいかないからな」
敵兵は誠を警戒して後退していった。
「瑞波、たった一人でよく耐えきったな! もう大丈夫、安心していいぞ」
「誠様――!」
刀傷でボロボロになっていた瑞波は誠に抱きついた。
「よく、がんばったな」
誠は瑞波の頭をやさしく撫でると、瑞波はとても嬉しそうに表情を崩した。
「瑞波、悪いけど、葵達を助けに行ってくるよ」
「はい、誠様、お気をつけて!」
誠は再びテレポートで瑞波の腕の中から姿を消した。
誠は、続いて前線で苦戦しているくノ一達の元にテレポートした。
「誠!」
いち早く誠の存在に気づいた葵が声を上げた。
「なんだ、こいつ、突然現れたぞ」
敵も前触れもなく戦場に姿を現した誠に警戒し、攻撃の手を一旦止めた。誠は、間髪入れずに無言で敵兵の心臓を指弾で撃ち抜いた。
「気をつけろ! こいつ、妙な技を使うぞ!」
誠は動揺する敵兵に対して容赦なく指弾で撃ち抜いていった。敵兵は指先を向けるだけで鎧の上から心臓を貫通し、仲間を次々に殺していく誠に恐怖した。
「ば、化物。一旦引いて本陣の指示を仰ぐぞ!」
そういうと敵兵達は一斉に後退をはじめた。
くノ一達は周りに敵兵がいなくなったのを確認してから誠のもとに駆け寄り、誠はそんな3人をやさしく抱きしめた。
「誠さん、遅いです! もう〜!」
「誠〜、もう、ダメかと思ってたよ〜」
「誠、もっと早く来てほしかった」
思い思いに不満をぶつけながら、くノ一達は誠に甘えてきた。
「ごめんな、よく持ちこたえてくれた。お陰で撫子様も無事だし、敵の暗殺部隊も殲滅できたよ」
後方の戦況を聞いて安心したくノ一達だったが、葵は誠の表情に影があることにいち早く気づいた。
「誠、椿は無事なの?」
「……椿は重症だ。葵、僕はこれから残った敵を殲滅しに行くから、皆をつれて椿達のもとに行ってくれないか?」
葵は誠の目を見つめてから頷いた。
「わかった。誠も気をつけて」
誠は葵の頭をやさしく撫でるとテレポートで姿を消した。
「皆、誠の言ったとおり。これから椿のもとに行くから私についてきて」
葵の指示を聞いても、菫と芹はその場を動こうとしなかった。
「御嬢、私達はここに残るよ〜」
「ここから誠さんを長距離狙撃で援護します。まだ、敵の首魁の正体がわからないですから、万が一に備えて誠さんを援護します」
二人の真剣な表情を見て、葵も頷いた。
「わかった。誠のことは菫達に任せる」
満身創痍の葵達一行が、椿と撫子のもとにたどり着いたとき、撫子は椿を抱きかかえて泣きじゃくっていた。
「ご、ごめんなさい、私のせいで椿がこんなことに……」
「撫子、椿を診せてくれ。治療できるかもしれないから」
宗一郎は椿を一目見て、トリカブト毒の症状だと気づいた。そして、もう手遅れであることも。
「椿、てめぇ、無茶しやがって。ちょっと傷の状態を診せろ」
そういうと、椿が全身に受けた矢傷や刀傷を診ていった。
「椿、よく聞け。お前が受けた毒はトリカブトだ。残念ながら解毒する方法はない」
「宗一郎、そんなことは分かってるよ。これでも忍びだぜ」
椿は力なく答える。
「だがな、毒の進行を遅らせることはできる。幸いにもお前が受けた傷は浅いものばかりだ。これから薬湯を飲ませて延命処置をするから、誠が戻ってくるまで頑張れ。最後に一目会いたいだろ」
「ああ、頼むよ」
「アリス、椿の受けた矢傷や刀傷で毒が濃く残っている部分の肉を削り取るから、お前も手伝え!」
「わかったわ、宗一郎。椿、必ず誠に会わせてあげるから頑張って」
「ああ、アリス、世話をかけるな」
こうして皆が見守る中、椿の延命治療が始まった。




