第二十六話 女神降臨
撫子の女子会の翌日、明け方付近、誠の夢枕に一人の女性が現れた。
「誠、起きなさい」
「……あなたは誰ですか?」
「私はあなた達が神と呼んでいる存在です」
「なんだ、夢か……疲れているので二度寝したいんですが」
「夢ではありません」
「断っているのにセールスしてくる光通信系の営業みたいですね……何回アウトを出したら帰ってもらえますか?」
次の瞬間、誠の体に電撃が走った。
「これで信じてもらえましたか?」
「……悪霊の類の可能性も否定できないですが、痛いのは嫌なのでサッサと用件を話して帰ってください」
「信じていないようですね……あなたは神とはどういう存在だと思いますか?」
「僕に分かるわけないでしょ」
「神とは、あなた達が考えるような高尚な存在ではありません。あなた達の信仰や願いなどが集合してできた思念体にすぎません」
「つまり、神話の類はすべて人が考えた妄想や設定で、後付けでしかないと?」
「厳密には違いますが、神は人の都合で生み出されたものでしかありません」
「はぁ……」
「ですが、長い年月、多くの人々の思念が蓄積されたものですので、超常の力を持つ存在であることは先程の電撃で理解してもらえましたね」
「はぁ」
「あなたがサイコキネシスと呼んでいる異能も私が貸し与えた力なのです」
「えっ、そうなんですか? てっきり前世の記憶が流れ込んできたときに脳に負荷がかかりすぎた影響だと思ってましたよ」
「あなたは異能のことを正しく理解していません」
「はぁ……」
「あなたは傷の治りが人より早いと感じたことがありませんか?」
「そう言われてみると、治りが早いですが、体が若いからなんじゃないのですか?」
「あなたが異能を無意識に使っているからですよ」
「僕の異能は物理現象に干渉できるだけじゃないんですか?」
「あなたの異能は『時空間支配』です。ただし、かなり制限しているので時間遡行などは殆どできません。代わりに怪我をした場合には、問題となる部位の時間を巻き戻して修復することができます」
「じゃあ、死んだ場合も時間を巻き戻して蘇生できるんですか?」
「それは無理です」
「『時空間支配』と言いつつ、随分制限があるんですね」
「それは私が弱体化しているためです」
「……」
「理由を聞かないんですね」
「いや、怖くて聞けないでしょ! この流れだと僕に何かをやらせるつもりですよね? 光通信系の営業よりタチが悪いじゃないですか!」
「察しのとおりです。あなたがいた時代から100年を待たずに日本民族は内側から侵略されて滅びます」
「聞いてないのに、勝手に喋りださないで下さいよ」
「日本民族が滅べば、古来から存在してきた神々も信仰力を失いますので、弱体化して最後には消滅を免れません」
「そんなの僕個人にどうにかできるわけないでしょ。あの、クーリングオフしたいんですけど出来ますか?」
「あなた一人に頼るわけではありません。私、天照大神以外にも、他の神々がこの時代に使徒を送り込んでいます。神の使徒はあなた一人だけではありません」
「バックアッププランはあるわけですね。ところで、あなた、天照大神だったんですか? 信じられませんけど」
「信じる信じないは、あなた次第です。今日、あなたに伝えたいことは嫁達を全力で守ってほしいということです。あなたに要求することは今はそれだけです」
「それはあなたに言われなくてもそうするつもりですよ」
「そして、もし余力があれば時代の流れを壊してください。徳川家康が天下をとった場合、高い確率で日本民族が滅びます。そのことを頭の片隅に置いておいてください」
誠は両耳を塞いて大声で叫んだ。
「あーあー! 聞こえなーい!」
「……」
自称神は誠に電撃を食らわせた。
「痛っ……せっかくなので質問いいですか?」
「はい」
「どうして僕が選ばれたんですか?」
「ランダムです」
「つまり、適当に選んだと……」
「ええ、あなた以外の複数人にも異能を貸し与えています。」
「じゃあ、転生直後ではなくて、なぜ今になって告知しに来たんですか?」
「転生させてから数年間はスクリーニング期間に当てています。愚かな者達はこの期間に大体自滅して死ぬか詰みますので、そこから選抜された者だけに私からメッセージを伝えることにしています」
「はぁ……」
「もう一度言いますが、今日、あなたに伝えたかったのは、嫁達を全力で守ってほしいということです」
「嫁達はあなたに言われなくても全力で守りますが、それは時代の流れ云々とは関係ないでしょ?」
「今は理解できなくてもいいです」
「……」
「そして、私が貸し与えた力は正しく使えるように鍛錬を怠らないでください。傷の修復はあなたと嫁限定なのも忘れないように」
「わかりました。あなたのことを信用することは難しいですが、異能の鍛錬は続けて、嫁達のことも全力で守ります」
「それを聞けて安心しました」
次の瞬間、誠は目が覚めた。
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護衛2日目の午前中、誠は自称『天照大神』が言っていたことを考えながら歩いていた。
「神は人々の信仰心や願いとかの意識の集合体って言ってたよな……それって、つまり、神の言っていることは日本人の総意ってことだよな……」
選挙とは違うのか?
「でも、自分は世間で言われているような高尚な存在ではないとも言っていたな……それって一般人とそんな変わらないってことか? そんなわけないか」
どのみち、理解の及ばない存在ってことだろう……考えても答えは出そうもないので他のことに誠は思いを巡らした。
「そういえば、自称神が言うには修復能力は嫁限定らしいな。そうなると、護衛任務についてきたアリスとも夫婦になってた方がいいのかな?」
そもそも修復能力がどのくらいの効果があるのか不明な状態では、結論は出せそうもなかった。でも、万が一ってことも想定しておくべきだろうと、誠は保険をかけたくなっていた。
「でも、いきなり嫁になってくれって言ったらアリスは何て言うかな……」
「いいよ、私、誠の嫁になるね!」
ふと気づくと、アリスが隣で微笑んでいた。
「えっ、いいの?」
意表を突かれた誠は間の抜けた返事しかできなかった。
「うん、誠がいつプロポーズしてくれるか、ずっと待ってたんだよ」
「そうでしたか……あの、アリス、これからよろしくね」
「うん!」
アリスはそのまま他の嫁達がいる方に走り出した。
「椿〜! 私も誠の嫁にしてもらえたよ〜!」
アリスの叫びを耳にして、宗一郎が寄ってきた。
「誠〜、結局アリスも嫁にしたのか。まあ、こうなることは分かってたけどよ」
「はい、返す言葉もありません」
「まあ、アリスの奴もずっとお前のことが気になってたみたいだし、早く決まって良かったんじゃないのか?」
「そうですね。こうなったら覚悟を決めますよ。ところで宗一郎さんは澪姉さんとは、いつ夫婦になるんですか?」
「そうだな、この旅から帰ったら申し込むとするよ」
「そうですか、姉さんもきっと喜ぶと思いますよ」
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護衛任務2日目の午後、歩いている誠の左右両側から菫と芹が近づき腕を組んで顔を寄せてきた。
「二人とも、何かご用ですか?」
すると菫が耳元で囁いた。
「誠〜、昨日の女子会の宿舎に忍びが来ていた」
芹も小声で補足した。
「誠さん、しかも、撫子の側仕えと通じていました」
「えっ、昨夜、大丈夫だったの?」
「うん、昨日は諜報だけだったみたい」
「身内に裏切り者がいるのは厄介だね」
「撫子には私達が護衛で来ていて、身内に裏切り者がいることを伝えたんですけど信じてもらえませんでした」
「今日か明日辺り仕掛けてくるかもしれないね〜」
「明日から山間の道に入るから襲ってくるとしたら、明日の可能性が高いですね」
「そういえば、今日は、宿舎が借りれなくて野営するって言ってたよね?」
「はい、今日は先約があって、予定していた宿舎から断られたみたいです」
「今夜も撫子の野営に付き合ってもらえる? 昨日の女子会みたいに」
「了解、瑞波とアリスは危ないから誠の側に置いて守ってあげて〜。二人とも嫁になったばかりだから、誠の側に居たいだろうし」
「じゃあ、撫子の護衛はくノ一4人組に任せたよ」
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その夜、撫子は誠達のテントに嫁達と宿泊することになった。
「なんで、アンタ達商人の方が私より立派な野営設備をもってるのよ! 私は誠の嫁達と一緒に寝るわ!」
という具合に撫子の我儘で、陣幕のような布の仕切りで四方を囲った中に誠のテントを設営して宿泊することになった。誠達のテントは二組あり、一組を撫子とくノ一4人組が使う形になった。
「しかも、この軽くて温かい寝具は何なの?」
「撫子、それは誠のアイデアで作った羽毛布団っていうんだ。中に鳥の羽毛が入ってるんだぜ」
「この布団って、とても寝心地がいいのよ〜。私、もうこれじゃないと寝れないわ〜」
「菫、まさか、アンタ達いっつもこんな贅沢してるの!?」
芹が割って入った。
「はい、誠さんと一緒にいると大体こんな感じですよ」
葵も得意げに会話に入ってきた。
「里では、厠も水洗、お風呂も毎日入り放題。さすが私の旦那様」
「領主より贅沢な暮らしをしているなんて全く信じられないわ! どんな贅沢しているのかもっと教えなさい!」
一方、隣のテントでは、残りのメンバーが野営していた。
「瑞波、今日はライバルが少ないから誠にたくさん甘えられるわね」
「そうですね、アリスちゃん。こういうのも新鮮で楽しいですね」
「こんばんは、誠さん、私もこちらで寝ることにしました。お姉ちゃんほどじゃないですけど、索敵要員がこっちも居た方がいいって話になりまして」
「考えてみれば、芹の言うとおりだったね。ちょっと抜けてたな」
「おい、先に言っとくけど、お前らには俺の酒、飲ませないからな!」
「宗一郎さん、今日は敵が来るかもしれないので、誰も飲みませんよ。宗一郎さんも万が一に備えて深酒しないでくださいね」
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その夜、結局、敵の襲撃はなかった。菫が言うには撫子の寝所が急に変わったせいで、敵の計画が狂ったんじゃないかということだった。




