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博士転生〈戦国時代にユートピアをつくる〉  作者: ビアンコ
撫子護衛編

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第二十三話 護衛依頼

=== 敦賀の娼館『紅椿屋』にて ===


 女将の雪乃ゆきのすみれ(17歳)とせり(17歳)から注文していた品物を受け取っていた。


「魔法少女の衣装10着と漫画20冊と乙姫10個、たしかに受け取ったよ」


「雪乃さん、毎度〜」


「こら、お姉ちゃん! 雪乃さんに失礼でしょ!」


「今さら気にしてないからいいよ。それより、魔法少女の衣装と乙姫は全然足りてないから、次も出来次第すぐに持ってきてくれないかい? あるだけ買ってやるからさ」


「はい、雪乃さん」


「ところで、アンタ達の新しいあるじに依頼したい仕事があるんだけど、伝えておいてくれないかい?」


「いいけど、どんな依頼なの〜?」


「今度、越前の小領主の娘が越中国えっちゅうのくに(現在の富山県)に嫁ぐことになったんだけど、その道中の護衛依頼だよ」


「雪乃さん、護衛はふつう娘さんの実家が出すんじゃないんですか?」


「もちろん、そうなんだけど、娘の実家にはちょっと嫌な噂があってね、嫁ぎ先の婿殿の方から秘密裏に腕の立つ護衛をつけてほしいって依頼なんだ」


「へ〜、訳ありなんだ〜」


「雪乃さん、その悪い噂っていうのは?」


「婿殿の話では、嫁入りの道中で姫を政治的な理由で暗殺するって噂があるらしいんだよ」


「それって、婿殿にとってマズイことなの〜? どうせ政略結婚で面識もないんでしょ」


「婿殿は商いで成功した小領主でね、その利権を狙っている勢力が姫暗殺の濡れ衣を婿殿に着せて、それを理由に攻めてくることを心配しているらしいのさ」


「なんだか、物騒な話ですね……」


「それで、腕の立つ護衛ってことで、アンタ達の主に頼もうと思ったってわけさ。知ってるよ、乙姫の件で桔梗屋のところの野武士20人を全滅させたってこと。裏の世界じゃ専らの噂だよ」


「あははは〜、誠は怒らせると怖いからね」


「雪乃さん、ということは、敵に悟らせないように何かに偽装して護衛するってことで合ってますか?」


「そうだよ、芹は賢いね。だから、表向きは道中で姫を退屈させないように婿殿が手配した商人ということにしておいてほしいんだよ」


「わかりました、雪乃さん。誠さんに伝えておきます」




=== 隠れ里にて ===


 誠(17歳)の目の前では雪乃から護衛依頼に誰が同行するかで女達が揉めていた。


「護衛依頼なんだから、戦力が必要なんだろ? じゃあ、私は同行決定だよな!」


椿つばきちゃんは、蒸気エンジンと船を完成させないといけないから留守番決定〜!」


「なんだと、すみれ! やんのか、コラ!」


「そうじゃなくて〜、この里で長距離狙撃銃を一番上手く使える私で決まりでしょ〜」


「お兄ちゃんばかり、旅行に行けてズルイ! 私もついていく!」


「誠、剣の腕が立つ姉さんを連れていきなさい。まさか、姉さんの言いつけを聞けないなんてことないわよね」


「誠様、是非、姫を同行させてやってください!」


 瑞波みずは(16歳)の部下のうち最古参の甚兵衛じんべえ(61歳)が誠に向かって土下座した。


「誠、私もこの国の他の街を見てみたい。お父さんからも許可はもらっているから大丈夫よ」


 イギリス人の天才少女アリス(14歳)も日本の町並みに興味津々で是非とも同行したいらしい。



 といった具合に既に収拾がつかなくなっていた。考えてみれば、隠れ里に年中、引きこもっているのだから、そろそろガス抜きがしたいのだろう。とはいっても今回の護衛には不穏な噂があるので、里の最大戦力で当たりたいと誠は考えていた。



「皆さん、実は既にメンバーは決めていて、嫁で元忍びの葵、椿、菫、芹の4人にお願いしようと思っているんだ」


「なんでなんで? 葵ちゃん達ばかりズルイ!」


つむぎ〜、ごめんな〜。今回の護衛旅はきな臭い噂があって危ない目に遭う可能性が高いんだよ。お兄ちゃん、紬には怖い思いをさせたくないんだ」


「……」


「そのかわり、今回の護衛で越中国の小領主に気に入られたら、行商で呼ばれる機会もあると思うんだ。その時には順番に連れていくから、今回は我慢してもらえないかな?」


「わかった……でも、瑞波みずはちゃんは連れていきなよ。お兄ちゃんのお嫁さんの中で瑞波ちゃんだけ仲間外れにするのは絶対許さないから!」


「う〜ん……瑞波は、武術は何かできるのかい?」


「誠様、一通りは嗜んでおります。幼少のころから父に叩き込まれてきましたので」


「じゃあ、瑞波も加えた5人を同行させることに決めます」




=== 越中国の潮崎邸にて ===


 潮崎忠康しおざきただやす(28歳)は越中国にある3000ごく規模の小領主であり、すでに家督は継承済みである。家は代々、製塩・廻船業で栄え、主家を乗り換えながら生き延びてきた。なかでも忠康はやり手の当主であり、廻船業による現金収入が石高以上の実質的な経済力をもたらしていた。


「忠康様、越前の東雲家から輿入れされる撫子なでしこ様の護衛依頼の件、無事手配できました」


 側近である卯木新八うのぎしんぱち(32歳)が報告する。新八は忠康の側近くに仕える若手筆頭であり、忠康の「表の顔」と「裏の算段」の橋渡し役でもあった。また、忠康とは主従でありながら気安く話せる間柄でもあった。今回の撫子護衛の件についても家中で唯一詳細を知らされている人物であった。


「新八、依頼先は信頼できるのか?」


「はい、敦賀で娼館を営んでいる雪乃という者の紹介ですので間違いありません」


「紅椿屋の雪乃か、敦賀の裏社会を牛耳っている女だな。それなら問題はなさそうだ。それで、どんな奴に護衛を依頼したんだ?」


「それが、たった一人で野武士20名を皆殺しにした腕の持ち主らしいです。部下に元くノ一を何名か抱えているようで、今回は彼女らも護衛として同行するとのことです」


「それなら、撫子の影の護衛としては十分な戦力になりそうだな」


「はい、それに撫子様の実家、東雲家と縁組がこのまま上手くいけば、当家の生存戦略に役立つ情報源や政治的パイプにもなります。つまり、下手な兵力を手にするよりも利があります。ですので、是非ともこの縁組は成功させなければなりません」


「新八の言う通りだな。まずは、縁談の成功を祈ろう」




=== 越前の東雲邸にて ===


 東雲撫子しののめなでしこ(16歳)は、越前地方の2500石規模の小領主のいわゆる箱入り娘である。東雲家は天正3年(1575年)の一揆平定を生き延び、新体制のもとで街道筋の警固を任されている家であった。


「撫子様、嫁ぎ先の忠康様から輿入れの道中で退屈しないようにと、面白い商人をつけてくださると連絡が来ています」


みやび、忠康様は随分と私に気を遣ってくださるのね。きっと今回の縁組が成功すれば潮崎家にとってよっぽど利があるんだわ。どうせ、私なんか政略結婚のコマですからねっ」


 みやび(48歳)は撫子が生まれてから直ぐ乳母として仕え、事実上の育ての親でもある。


「撫子様! そのようなことは間違っても嫁ぎ先で口に出さないで下さいね!」


「わかっているわよ。嫁いだら上手くやるから一々心配しないで!」


「本当に大丈夫なんでしょうね」


「雅はいつも煩いわね。私だってもう大人なんだから放っておいてちょうだい!」


「撫子様……」


「何! まだあるの!?」


「今回の輿入れなのですが、道中につく護衛のほとんどがご当主様の敵対派閥の者なのです。それで先程の忠康様からのふみには、いざという時は商人を頼れと書かれておりまして……雅は心配でなりません」


「はあ? ばっかじゃないの!? 商人なんか頼ってどうするのよ? それに雅、今回の縁談は東雲家にとっても経済的に成功している忠康様とのパイプができるっていうメリットがあるのよ。いくら敵対派閥だからって、縁談を壊したりしないわよ!」


「でも、雅は撫子様が心配でなりません」


「はぁ〜。今度の輿入れは越中国まで退屈しないように商人もつくのでしょう? 雅もそんな暗い顔をしていないで、楽しみなさいよ!」


「雅は、撫子様がどうしてそんなに能天気でいられるのか理解できません」


「……」




=== 隠れ里にて ===


 護衛メンバー選出会議のあと、椿は護衛に加わることになった瑞波に声をかけていた。


「瑞波、工房までちょっと付き合え」


「はい、椿様」


「椿でいい、誠の嫁同士だろ」


「はい……椿、私に何の用なのですか?」


「瑞波が護衛任務に持っていく武器の準備だ」


「椿、ありがとうございます」


 瑞波が申し訳なさそうに頭を垂れる。


「そう気にするな。他の奴らは同じ忍びの里出身だからな、何が必要か大体分かっているけど、お前は初めてだからな」


「椿って、見かけによらず優しいんですね」


「当たり前だろ。私より優しい奴はいねぇよ! これでも誠の嫁の中じゃ最年長だからな。困ったことがあったら、遠慮なく相談しに来い。私がなんとかしてやるから」


「……」


 瑞波の瞳から涙が溢れた。


「お、お前、泣いてるのか?」


「はい、椿があまりに優しい言葉をかけてくれるので、つい……」


「大げさな奴だな。まあ、瑞波もここに来てから大変なことばっかだったからな。今度の護衛旅行はお互い楽しくやろうぜ!」


「はい、椿、こちらこそよろしくお願いします!」


「まあ、お前は大した奴だよ。誠が本気で怒っているところ、私は初めて見たからな」


「椿は誠様を怒らせたことはないのですか?」


「呆れさせたことは何度もあるけど、怒らせたことはまだないな。忍びの里にいたころは師匠を毎日にようにキレさせてたけどな」


「……そうなんですね」


「まあ気にすんな。誠の嫁になったからには大事にしてくれるって! 今回だって、初めはメンバーに入ってなかったのも瑞波の身を案じていたからだぞ。最終的に連れていくことにしたのも、あいつなりに考えがあってのことだろ」


「はい、今回の護衛任務では誠様の期待に応えてみせます」


「まあ、そう気張るな。いざとなったら私ら嫁達も瑞波を支えてやるから気楽にいこうや」


「椿、ありがとう」





===


 こうして、各陣営、様々な思いを胸に越中国への輿入れ道中が始まろうとしていた。

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主要キャラクターと年齢


惣兵衛(父) 39歳

志乃(母) 36歳

澪 19歳

誠 17歳

紬 15歳


葵(嫁1号:くノ一、忍びの里長の娘・しっかり者) 16歳

椿(嫁2号:くノ一、鍛冶師・狂犬のお姉さん) 19歳

菫(嫁3号:くノ一、諜報・隠密・絵師・天才肌)17歳

芹(嫁4号:くノ一、諜報・隠密・絵師・常識人)17歳

瑞波(嫁5号:海賊の姫) 16歳


エドワード(商人、銃の名手) 32歳

アリス(天才・マッドサイエンティスト) 14歳


久世宗一郎(医師・マッドサイエンティスト) 25歳


東雲撫子(越前の小領主の娘:護衛対象の姫) 16歳


潮崎忠康(富山の小領主:撫子の嫁入り相手)(28歳)

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