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博士転生〈戦国時代にユートピアをつくる〉  作者: ビアンコ
隠れ里編

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第十八話 海賊の処遇

 山小屋では、海賊側代表の瑞波みずは(15歳)、最古参の甚兵衛じんべえ(60歳)、侍女頭の登勢(43歳)に対して事情聴取が行われようとしていた。


 隠れ里の住人は宗一郎以外全員が参加している。宗一郎は、この里に来て初めての患者が気になるらしく診療所に残ることになった。


 今回の事情聴取は誠が取り仕切っている。


「それじゃ、瑞波、そちらの事情を洗いざらい話してください」


 瑞波の話によると、事情は次のようなものだった。


 瑞波の一族は村上水軍の本家ではなく、傍流にあたる分家である。その分家が、海賊同士の派閥争いに敗れて滅ぼされたのだという。命からがら瀬戸内海から逃げてきたが、敵対勢力が敦賀の街にいない保証もない。そこで、人目につかない入江を探して身を隠しながら、卯月を治療してくれる医者を探そうとしていた、ということらしい。


「事情はわかりました。先程の約束どおり、これから皆さんは僕の支配下に入ってもらいます。海賊行為は今後一切禁止します。いいですね」


「わかりました。誠様に従います」


「姫! 海賊を止めたらお家再興ができなくなります!」


 最古参の側仕えである登勢が口を挟む。


 瑞波が沈黙していると、同じく最古参の男衆である甚兵衛も苦虫を噛み潰したような無念の表情を滲ませている。


「皆さんは、勘違いしています。支配下に入るということは僕の命令には絶対服従です。僕は自分の下僕しもべが海賊行為を働くことは絶対に許しません」


「承知しました。誠様、登勢の失言をお許しください」


 ここで、くノ一達のヒソヒソ話が聞こえてくる。


「ちょっと、せりちゃん、誠ってヤバくない? 海賊を完全に従えてるよ」


「お姉ちゃん、今頃、誠さんの凄さに気づいたの?」


すみれもやっと誠の凄さに気づいたか、頭悪そうだし仕方ないかぁ」


「そのセリフは、狂犬の椿つばきちゃんだけには言われたくないな〜」


「てめぇ、喧嘩売ってんのか?」


「誠が凄いの当たり前。それは正妻の私が一番よく知っている」


 あおいが「ふんす」とばかりに自慢げな表情をしている。


 放っておくと、収拾がつかなくなりそうなのでさすがに止めに入る。


「あの、皆さん、ちょっと恥ずかしいので静かにしてもらえますか?」


「「「「……」」」」


 気を取り直して続ける。


「元海賊の皆さんには、僕の支配下で海運や船を使った商売をしてもらう予定です。もし、将来その商いで成功したら、瑞波の子孫は僕の支配から独立して商いを行うことを許可します。ただし、貴方達は一生涯、僕の下僕です。これは変わりません」


「それは、私の子孫はお家再興をできる可能性があるということでしょうか?」


「そうなります。ただし、海賊業を再開することはオススメしません。海賊行為自体がこの国ではいずれ衰退して滅ぶからです」


「なぜ、そう言い切れるのですか?」


「僕の下僕となった皆さんには特別に教えますが、僕には未来の記憶があります。僕の知る未来の日本に海賊はいません。村上水軍の一族は未来にも残っていますが、海賊業はしていません」


「……」


「そういう先のない家業に拘るよりも、真っ当な商いを覚えて僕のために利益を出してください」


「わ、わかりました……ただ、私達には商いのノウハウがありません」


「それについては心配しないでください。こちらに船を使った商売のプロがいますので、エドワードとアリスを指導係としてつけます。エドワードは海運業のプロで、アリスはあらゆる学問に精通した天才です」


 誠のセリフを聞いてアリスが嬉しそうな表情をする。エドワードも本来の仕事に戻れると分かって表情が明るい。


「誠様、私達のために斯様な心遣い、感謝いたします」


「ただし、問題があって瑞波達が商いに使う商船ですが、これから建造する予定なので、それまで皆さんは船の建造を手伝ってください。開発責任者はこちらの天才技師の椿と、同じく天才設計師のアリスです」


「おい、聞いたか菫! 誠が私のことを天才技師だってよ! 羨ましいだろ」


「椿ちゃんが天才だったら、私は神の領域に入っているかな〜」


「お姉ちゃんも椿ちゃんも話が進まないから静かにして!」




 気を取り直して続ける。


「それで、造船にあたっては瑞波の仲間に詳しい人がいたら開発に関わってほしい。そして、建造にも人手が必要なので、労働力も提供してほしいのだけど」


「わかりました、誠様。こちらにも船大工が四人おりますので協力させます。労働力の方もお任せください」


「それから船の設計や開発には瑞波も加わってください。今回、建造する船は僕が知る未来の技術をふんだんに取り入れる予定です。船長候補の瑞波には船の仕組みを知っておいてもらいたいんだけど、構わないかな」


「はい、ぜひ私にも関わらせてください。私も分家の跡取りとして父から操船技術などは幼いころから叩き込まれてきました。きっと誠様のお役に立てると思います」


「では、瑞波一行の将来のことはこのくらいでいいかな。ここまでで質問のある人はいます?」


「では、儂から。船で商いをするということだが、船に武装は積むのか?」


「良い質問です。武装は当然積みます。これについては椿に負担をかけると思うけど、今、里で使っている銃を大型化したものを船に搭載する予定です。この辺はエドワードも知識があると思いますので開発に協力してもらえると嬉しいです」


「誠、私が乗っていたポルトガル商船にも大砲は搭載されていたから、知っていることは全部教えることができますよ」


「エドワードからも協力してもらえることになったので、商船用の大砲は開発できると思います。僕としては、射程も威力も一歩進んだ武装を搭載して、商船というよりも戦艦寄りの船を建造したいと思っているので、開発メンバーの人達もその辺りを目指してくれると嬉しいです。甚兵衛、これで答えになりましたか?」


「はい、誠様、儂らとしても最高の船を作って姫に乗ってもらいたいので、できる限り協力いたします」


「ほかに、質問は?」


「誠、私からいいかしら?」


「なんだい? アリス」


「船の動力はどうするの? 蒸気機関は開発にまだ時間がかかるわよ」


「船の動力は基本は風力と人力で、蒸気機関は完成したら搭載するつもりだよ」


「風力は帆走で、人力は?」


「よくぞ聞いてくれました! 前に椿とアリスに作ってもらった三輪車の仕組みを応用するつもりなんだよ。まだ、この時代の船には使われてない技術だから今度の開発会議のときにでも紹介するよ」


「どんな技術かワクワクするわね。誠、楽しみにしているわ!」


「まあ、実際の設計と開発はアリスと椿に丸投げになるけど……」


「その辺は任せてもらって大丈夫よ」


「おう、私に任せろ!」




「他になければ、瑞波達のここでの生活についての議題に移るね。まず、住居だけど、寝床は里の資材置き場を片付けて、当面はそこで生活してもらいます。住居についてはなるべく急いで作るけど、瑞波から希望はあるかい?」


「誠様、希望というのは?」


「たとえば、瑞波達男女16人全員が一つの家屋に住めるようにした方がいいのか、あるいは男女別にした方がいいのか、とかだけど、希望はある?」


「では、16人全員が一つの家屋に住めるようにお願いできますか?」


「了解、じゃあ、そういう風に作るよ。他に希望はあるかい?」


「いえ、こちらの皆様と同じような作りにしていただければ構いません」


「じゃあ、住居の方はお任せでいいってことね。次は日々の仕事についてだけど、海賊の皆さんには、里での農業の手伝いと、海での食料調達をお願いします」


「海での食料調達って、漁のことか? それなら得意だから儂らに任せてくれ。ただし、農業のことはよく分からんから誰の手伝いをすればいいんだ?」


「農業は僕の父である惣兵衛そうべえが責任者ですので、父の指示に従ってください」


「わかった。惣兵衛様、よろしくお願いします」


「食料の管理も父が行っているので、漁業と農業の時間配分も父と相談して決めてください」


「誠様、承知いたしました」


「あと、里の共同施設、風呂や厠の使い方は、父と葵が教えますので彼らの指示に従ってください」


「承知しました」


「あ、重要なことを忘れてました。僕たちは敦賀の有力者と敵対関係にありますので、敦賀へ行くことを禁じます。欲しいものがあれば、僕か葵に言ってくれれば代わりに買い出しに行ってきます。里の場所がバレたら攻め入られる可能性が高いので、それだけは絶対避けてください。絶対です」


「誠様なら簡単に撃退できるのではありませんか?」


「相手が街の有力者レベルならそうですが、対立相手が戦国武将レベルまで大きくなると、こんな里なんて一瞬で滅ぼされます。ですので、目立つようなことは絶対に避けてください。いいですね!」


「誠様、承知いたしました。皆にも誠様の言いつけを守るように申し伝えます」


「では、今回の打ち合わせは終了ということで、解散します。お疲れ様でした」




===


 解散後、外で紬と海賊の男衆が立ち話をしていた。


「おじさん達、お兄ちゃんは頭のネジがぶっ飛んだヤバイ奴だから、間違っても逆らわない方がいいよ!」


「まじか、嬢ちゃんの兄貴って、そんなにヤバイのか?」


「前に敦賀に住んでいる時にヤクザの集団に襲われたことがあるんだけど、全員ブチのめした後に有り金全部とドスを巻き上げてて、ヤクザも涙目になっていたんだよね」


「そりゃ、ヤクザも災難だったな……」


「それから、山中で野武士20人に襲われたこともあったんだけど、その時は相手も私たちを殺しに来ていたから、お兄ちゃんブチ切れちゃって全員ぶち殺しちゃったんだ。その時も死体から金目のものを根こそぎ漁ってたよ」


「……わかったよ、おじさん達、嬢ちゃんの兄貴には逆らわないようにする」


 この後、海賊の男衆は誠のことを「わか」と呼ぶようになり、誠はその呼び名を止めさせるのにしばらく苦労した。

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