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博士転生〈戦国時代にユートピアをつくる〉  作者: ビアンコ
隠れ里編

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第十七話 手術

 村上水軍の一派―――海賊の姫、瑞波みずはは誠に服従を誓ったが、海賊の男衆の目は反抗的なままだった。


「もし、僕や里の住人に危害を加えようとした時には、真っ先に瑞波を殺しますから覚悟してください」


 誠が真剣であることを理解したのか、海賊達も渋々頷いた。


「あの、誠様、頼み事をできる立場ではないことは承知していますが、怪我で苦しんでいる娘がおります。その娘を助けて頂くことはできないでしょうか?」


 瑞波が申し訳なさそうに誠に頭を下げる。


「わかりました。とりあえず娘さんを僕に診させてください」


 瑞波は誠を小屋の中に案内して、横になっている卯月うづきに会わせた。


「この娘は私の側仕えで卯月といいます。ここに来る途中で敵に矢を射られました」


「傷を診せてもらいますね」


 誠は卯月の腕に巻かれた止血用の粗末な布を外して傷口の様子を診た。それから額に触れて熱の具合を確かめる。


「たぶん、化膿していますね。傷口を切り開いて悪いものを取り除く必要があります。僕の里に腕の良い医師がいますので治療してもらいましょう。幸い、高熱も出ていないようなので、敗血症までは進んでいないと思います。命に別状はないでしょう」


「誠様、ぜひお願いします」


 瑞波は再び頭を下げる。


「では、卯月は僕が異能で運びます。瑞波と他の人達は僕と葵の後についてきて下さい」


 誠は卯月を背負う――といっても異能を使っているので体力的な負担はほぼない――形で、一行は里まで移動することにした。


 一行が里に到着すると、新設した射撃場で妹のつむぎとくノ一のすみれが射撃練習をしていた。しかも、二人とも魔法少女の衣装を着用している。紬は短銃で、菫は椿が最近開発に成功した長距離狙撃銃を使っていた。


「誠〜、おかえり〜!」


「お兄ちゃん! その人達は誰!?」


「二人とも、ただいまー! この人達は海賊だよ!」


「大変だ! 今度はお兄ちゃんが海賊を連れてきたよ、お母さんに知らせてくる!」


 紬が母、志乃しのに報告しに走り去っていった。菫はマイペースに射撃練習を続けていた。どうも長距離狙撃銃が気に入ったようで、他のことがどうでもよくなっているらしい。


「あの誠様、この里では年端もいかない娘も種子島(火縄銃)を使えるのですか?」


「え、あ、はい、あれは種子島じゃなくて、火縄を使わないで射撃できる新しいタイプの銃です。ここの里では全員使えますし、それぞれ自分専用の銃を持ってますよ」


「……」


「では、先に卯月の治療をしてしまいましょう」


 一行は里の専属医師である久世宗一郎の診療所に向かった。


 診療所の中には誠と患者の卯月、そして瑞波の3名だけが入り、他は屋外で待機となった。


「葵、悪いけど、この人達を見張っておいて、人手が必要なら芹や椿にも手伝ってもらって」


「わかった、そうする」


 大人数で里の中を移動してきたので、せり椿つばきもすでに近くまで見物に来ていた。


「それから、芹はみお姉さんを診療所まで連れてきてくれないかな、手術の助手を頼みたいんだ」


「誠さん、了解しました」


「見張りは任せろ、誠。こいつらが怪しい動きをしたらぶち殺して構わないんだよなー」


「うん、そうしてくれて構わない!」


 椿がやたら張り切っている。おそらく、自分が開発した銃を実戦で使ってみたいのだろう。瑞波を人質に取ってはいるが、海賊衆そのものを信用しているわけではない。万一、里の人間を人質にするような真似をされてはたまらないため、椿を見張りに置くことは誠にとっても好都合だった。


 診療所の中に入り、宗一郎に説明する。


「宗一郎さん、ごめん、澪姉さん用の贈り物に使う水晶なんだけど、トラブルがあって採ってこれなかった」


「誠、分かってるって、怪我人か病人を連れてきたんだろ。さっさと診せな」


「話が早くて助かるよ」


 卯月の傷口を宗一郎に見せる。


「こりゃ、傷口を開いて悪い部分を取り除かないとダメだな。治療中はかなり痛むから、この娘が動かないように押さえつけておいてもらいたいんだが」


「瑞波、力が強い男衆を三人連れてきてくれないか?」


「誠様、承知しました」


 澪が合流し、男衆も三人集まった段階で、別室で手術の準備を整える。


「顔と両手を石鹸できれいに洗ってください。洗ったらそこに置いてある手術着、帽子、マスク、手袋を身に着けてください。マスクの付け方が分からない人は里の者に教えてもらってくださいね」


 手術の準備が整い、診察台に寝かせた卯月の身体を屈強な男が三人がかりで押さえつけた。


「じゃあ、始めるぜ」


 宗一郎は傷口を、海水から作った代用の生理食塩水で念入りに洗い、傷口の周りを日本酒から作った70%エタノールで殺菌処理する。


「じゃあ、早速、切っていくから患者が暴れないようにしっかり押さえておいてくれよ」


 宗一郎が自分の両手を70%エタノールで消毒後、煮沸殺菌済みの手術用ナイフで患部を切り開いていく。痛みを我慢できず卯月は暴れ出すが、四肢を押さえつけている屈強な海賊に敵うわけもなかった。


「ヒャッホー! 生きた人間の肉を切り刻めるって最高の気分だな、誠〜!」


「発言に気を付けないと澪姉さんがゴミを見るような目で見てますよ」


 宗一郎は一瞬ギクリとするが、テンションは高いままだ。


 嬉々として卯月の患部を切り開いている宗一郎を見て不安になったのか、瑞波が誠に聞いてきた。


「誠様、あの方に任せて本当に大丈夫なのですか?」


「大丈夫だって、伊達に死体の解剖を趣味にしてないって! 今まで何百体、死体をバラバラにしてきたと思ってんだ。この国に俺より人間の体に詳しい奴はいないって!」


「死体の解剖って……」


 宗一郎の返答を聞いて瑞波がドン引きしている。


「宗一郎さん!!」


 澪から宗一郎へ叱責が飛んだ。


「ごめんて……」


 一応、謝りはするが宗一郎のテンションは上がりっぱなしだ。


「まずは膿を全部出して、滅菌生理食塩水で洗浄してっと」


 痛いのか堪らず卯月が暴れ出した。


「お次は、腐っているお肉をチョキチョキっと切って、取り除いてっと」


 宗一郎が椿に作ってもらった手術用のはさみで卯月の腕の壊死した組織を切り始めると、かなり痛かったのか卯月が再度暴れ出した。


 かなり大胆に切っているが太い血管は避けているため、出血はさほどない。


「ウヒョー! なんて綺麗なお肉なんだー! 腐った所を取り除いた甲斐があったぜ。縫合しないでしばらく見続けていたいな、なあ、誠!」


「あの、僕に同意を求められても困るんですけど……」


 手術で切り開いた患部を舐め回すように観察している宗一郎に澪がブチ切れた。


「宗一郎さん、いい加減に仕事をしてください!!」


「澪、スマン……」


 宗一郎は渋々、手術を再開して最終段階へと進める。


「最後に抗生剤入りの滅菌生理食塩水で洗浄して縫合してできあがりだ」


 宗一郎は滅菌済みの縫合糸で器用に傷口を縫い合わせていった。


 最後に葵達が苦労して集めた抗生物質を染み込ませた滅菌済みの湿布を傷口に巻いて手術を終えた。


「嬢ちゃん、よく頑張ったな! 傷は治るから安心しな。思ったより酷くなかったぞ」


 手術を終えた卯月はよほど辛かったのか、死にそうな顔でぐったりしていた。


「宗一郎さん、ありがとう。格好良かったよ! 澪姉さんが惚れるわけだ」


「馬鹿野郎、褒めても何も出ねぇぞ!」


「宗一郎さん、あとでお説教です」


「澪、ごめんて、頼むから機嫌を直してくれよ」


 手術が終わってもテンションが高い宗一郎に瑞波も感謝して頭を下げる。


「この度は、うちの卯月が大変お世話になりました。この御恩は一生忘れません」


 一応、宗一郎にも医師としての自覚があるのか、術後のケアについて瑞波に伝えた。


「この嬢ちゃんは、うちの診療所でしばらく預かるよ。不衛生な場所に寝かせるとまた膿んじまうかもしれないからな」


 このように卯月の治療も無事終え、海賊一行も安心したようであった。


 この後は、母屋である山小屋で海賊の事情聴取が待っていた。

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