第十三話 魔法少女
誠は、菫と芹を嫁として迎え入れることとし、家族に紹介した。家族は半ば呆れていたが快く二人を迎え入れ、誠も二人のために離れを増築するなど、新しい生活の準備を進めた。
だが、誠には妻たちに秘密にしていることがあった。前世の記憶があることだ。菫と芹を迎え入れたのを機に、誠はそれを打ち明ける決心をした。過去に葵や椿に手伝ってもらった研究開発の内容があまりに突飛すぎて、誤魔化し切れなくなっていたからだった。
「あの〜、今日は僕から皆さんに告白したいことがあります」
「誠、私は何を聞いても受け入れる自信がある。遠慮せずに何でも言ってほしい」
代表して正妻の葵が答える。他の妻達も早く話せと言わんばかりに黙って頷いていた。
「実は僕には前世の記憶があります」
「誠、前世って、いつの時代の記憶があるんだよ? たとえば源平の頃のとかか?」
第二夫人の椿が今度は自分が発言する番だとばかりに聞いてきた。
「ちょっと違ってて、僕の前世は未来のものなんだ」
「それって、どれくらい未来なの〜?」
今度は第三夫人の菫が聞いてくる。
「今から450年くらい先の未来。葵や椿に手伝ってもらっている研究開発のネタは未来の技術だったんだ」
「えー! じゃあ、誠さんはこれから起こる出来事も知っているんですか?」
今度は第四夫人の芹だ。
「うん、細かい出来事は分からないけど、有名な出来事はだいたい知っているよ。たとえば、信長がいつ死ぬのか?とかね」
「「「「……!」」」」
「でも、僕個人が何をしても歴史の流れはほとんど変わらないと思う。だから、正直あまり気にしてないし、かといって積極的に歴史を変えようとも思ってないんだ。今日はそのことだけ皆に伝えたいと思って集まってもらったわけ」
「じゃあ、今までこの里でやってきた薬の研究も続けていいの?」
抗生物質の探索研究を担当している葵が聞いてきた。
「うん、家族を守るための研究開発はこれからも積極的に進めるつもりだから、その点は安心してほしい。とはいっても里限定だから歴史への影響力はほとんどないと思うけど」
「それを聞いて安心したぜ! 誠から頼まれる仕事は無茶振りが多いけど面白いからな」
椿も納得してくれたようだ。
「ということは、私や芹ちゃんにも誠はやってもらいたいことがあるわけ〜?」
「うん、二人は絵が得意らしいから、僕のいた時代の絵の娯楽を試しに作ってもらおうと思っているんだ」
「へ〜、楽しみ〜」
「誠さん、ぜひ近いうちにその『娯楽』について3人で打ち合わせしましょう!」
菫や芹も乗り気のようだ。
という具合に、誠が一大決心をして行った告白も4人の妻は何事もなく受け入れてくれた。
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翌日、誠は、絵師である菫と芹の3人で絵の娯楽について打ち合わせを行った。
試しに前世でヒットしていた代表的な漫画やアニメのストーリーを伝えて、二人が興味を示したものについては、誠が見本を描いて見せた。誠は絵を描くのも得意だったので、かなりそれっぽい見本を渡すことができた。
数日後、菫と芹が持ってきた漫画作品は魔法少女ものだった。いつの時代も女性は魔法少女に憧れるのだろうか?
もちろん画風は戦国時代風なので現代の漫画とは全くの別物なのだが、ちゃんと魔法少女ものになっていて、完成度も商品として売れるレベルのものだった。ストーリーを戦国時代に合わせてアレンジしているのは芹が機転を効かせたのだろう。魔法少女が魔法を使わずに肉弾戦を演じているのはなんともシュールだが、芹の話ではこの時代の人には魔法が理解できないからだそうだ。
「いや〜、君たち凄いよ! ちゃんと漫画になってる! じゃあ、これを里の皆に配れるように印刷しようか」
「え〜、まさか印刷って全部手で描くの〜 面倒だし、絶対ヤダ!」
「いやいや、菫さん、いくらなんでもそんな面倒な仕事は頼まないから安心してよ」
「じゃあ、どうするつもりなんですか?」
「版画として大量生産しようと思うんだけど、どうかな?」
「版画で絵をね……今まで全く思いつきませんでした」
「エロ本は一点ものを手書きして納品してたからね〜」
「版画なら同じ絵を大量生産できるから、漫画を多くの人に読んでもらうのに適していると思うんだよね。今回は僕が作って見せるから、二人にはやり方を覚えてほしいんだ」
「お姉ちゃん、もし人気が出れば私達の新しい商材になるかもしれないね」
「そうだね〜、とりあえず作ってみようよ」
ということで、魔法少女ものの漫画第一号を印刷し、里の皆に配って反応を見ることになった。
結果的に、誠の里の女性陣は魔法少女にハマってしまう。年少組の紬(14歳)やアリス(13歳)がハマるのは分かるが、澪(18歳)や椿(18歳)までが熱心に読みふけっているのには理解に苦しんだ。おそらく娯楽がない世界で生きてきたため免疫がなかったのだろう。
そのうち、魔法少女の漫画に触発された澪は、得意の麻の機織り仕立てで魔法少女の衣装を作って配り始めた。当然、次に始まるのは魔法少女ごっこである。これにはくノ一の4人も嬉々として参加していた。
「君たち、敦賀で公演でもして金をとった方が良いんじゃないの?」
誠が冗談混じりにいうと、くノ一4人組はなにやら真剣に悩みはじめた。
翌日、4人の姿が見えないので紬に聞いてみると、
「お兄ちゃん、知らないの? あの4人、魔法少女の漫画と衣装を持って敦賀の紅椿屋ってお店に営業に行くって言ってたよ」
紅椿屋については、誠も菫と芹から聞いているので知っていた。敦賀で有名な娼館だ。
「え〜、あの人達はいったい何をしに行ったんだろうね」
誠は少し不安になったが、しっかりものの葵や常識人の芹も同行しているので深く考えないことにした。
その後、くノ一4人組は1週間ほど里には帰って来なかった。
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敦賀の紅椿屋の奥座敷では、菫達4人のくノ一が魔法少女に扮して公演を行っていた。公演と言っても里でのごっこ遊びの延長であったが、くノ一の身のこなしにより迫真の演技が繰り広げられていた。
「マジカル〜スーパーイナズマ〜キーック!」
公演会場ではマジカルブルー葵の飛び蹴りがマジカルブラック芹に突き刺さって観客を沸かせていた。
その横ではマジカルレッド椿とマジカルイエロー菫が演舞している。
「マジカル〜コークスクリューパーンチ!」
今度は椿の右ストレートが菫の顔面にヒットしていた。
「痛〜い! マジカルレッド、もうちょっと手加減してよ!」
「うるさい!私はいつも本気だぜ! マジカルイエロー、覚悟しろ!」
色々混ざっているが、これらはすべて芹の脚本だ。戦国の世の人間には到底理解できないカタカナの必殺技名も、あえてそのまま使わせていた。原作の空気感を一切崩したくないという、芹なりのリスペクトの表れであった。
「マジカルレッド」だの「コークスクリューパーンチ」だの、耳慣れぬカタカナ言葉が飛び交う光景に、女将の雪乃は会場の隅でただ困惑するばかりだった。
「やれやれ、私はいったい何を見せられているのかね……」
雪乃はくノ一達の熱意に押し切られて娼館での公演を許したのだった。
しかし、若い遊女達は食い入るようにくノ一達の公演を見ていた。やはり辛い人生を送ってきた十代の少女にとって魔法少女は眩しい存在なのだろう。
公演後は漫画の即売会である。大量生産により遊女でも気軽に買えるくらいの売値に抑えたので漫画は飛ぶように売れた。遊女を買いに来た男性客の中にも感化されて買っていく者も一定数混じっていた。
一方で、魔法少女の衣装の短いスカート丈は、この時代の男性にはとても煽情的に見えた。
「女将、魔法少女の遊女はいないのかい?」
「魔法少女って色っぽいよね! 今日は魔法少女を頼むわ!」
「俺はもう魔法少女以外に興味持てなくなっちまったよ!」
……などなど、遊女にも魔法少女の衣装を着せてほしいというリクエストが雪乃のもとに少なからず入るので、彼女も対応せざるを得なかった。
「まあ、商売になるんだったら、菫達の要望を聞いたのは無駄にはならなかったみたいだね。あの衣装もアンタ達が作っているんだろ? 買ってやるから今度来る時に用意してきな。漫画とやらもうちで委託販売してやるからさ」
このように菫達が里に帰るころには漫画の他に衣装の注文も入っていた。
「芹ちゃん、魔法少女って儲かるんだね! 誠って伊達に未来人してないよね〜」
「うん、誠さんの商売のセンスには脱帽だよ。漫画もそうだけど、公演すればって言われてた時なんか、頭に雷が落ちたくらいの衝撃だったもん」
「うん、誠について行けば間違いない。さすが私の旦那様」
葵が満足げに頷いた。
「だけどよ、この公演って面白いよな! 大っぴらに暴れられるんだからよ! 誠には感謝しないとな」
くノ一達は敦賀での魔法少女公演の成果に満足したようだった。
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隠れ里に帰ってきた菫達から敦賀公演の報告を聞いた誠は、寝耳に水で、一瞬どう反応したらいいかわからなかった。
「君たち、世間から注目されるようなことは控えてほしいのだけど……」
しかし、何かをやりきったような清々しい表情の彼女らを見ていると、それ以上は強く言うことはできなかった。そして、内心では乙姫の時のように歴史の修正力が働かなければ良いのだが……と少し心配になるのだった。




