第74話
小町が息を切らしながら、駅のホームへと続く階段の下まで駆けつけた、その時――。
ちょうど電車の乗車を知らせるベルが鳴り響いた。
『嘘でしょ……! ま、待ってぇ!……』
小町は最後の力を振り絞るように階段を一気に駆け上がった。
ホームへ飛び出すと、今まさに俊哉たちが電車へ乗り込もうとしているところだった。
俊哉の姿を見つけた小町は、
「待ってぇ!……」
思わず声を張り上げた。
その声に気づいた俊哉は、一瞬だけ足を止める。
電車へ乗るのをためらうように立ち尽くしたが、やがて小町のほうを振り向くことなく、家族とともに電車へ乗り込んだ。
「待ってぇ!……」
小町は必死に駆け出した。
しかし、焦るあまり足がもつれ、そのままホームへ倒れ込んでしまう。
転んだ小町が立ち上がろうとした、その時。
発車ベルが鳴り響き、無情にも電車のドアが閉まった。
ゆっくりと動き出した電車は、そのまま小町を残して駅を離れていく。
『どうしてよ……』
遠ざかっていく電車を見つめながら、小町はその場に崩れ落ちた。
すると突然、携帯電話のメール着信音が静かなホームに響いた。
『こんな時に……誰?』
涙で滲む視界のまま携帯電話を開き、届いたメールを確認する。
差出人は――俊哉。
震える指でメールを開く。
そこに書かれていた言葉は、たった一行だった。
『ごめん!……』
それだけだった。
その短すぎる言葉が、小町の胸を深く締めつける。
堪えていた涙は、もう止めることができなかった。
小町はその場に泣き崩れ、遠ざかっていく電車をいつまでも見つめ続けていた。




