第73話
佐奈は悲しそうな表情を浮かべ、
「ごめんね……お兄ちゃん。佐奈が病気になったせいで、お姉ちゃん【小町】と
離れ離れになっちゃって……」
と、申し訳なさそうに謝った。
俊哉は優しく微笑むと、佐奈の頭にそっと手を乗せた。
「そんなことは気にするな」
「今は、自分の病気を治すことだけを考えていればいい」
そう言うと、俊哉は佐奈の髪をわざとクシャクシャにした。
「あっ、もう! せっかくママに髪をセットしてもらったのに!」
頬を膨らませた佐奈は、
「ママ~!」
と声を上げながら、逃げるように母親・香奈のもとへ駆けていった。
その無邪気な後ろ姿を見送りながら、俊哉は小さく笑う。
だが、その笑顔はすぐに消えた。
気丈に振る舞ってはいたものの、その胸は張り裂けそうなほど苦しかった。
『これで……本当に最後なのかもしれない……』
俊哉は誰にも聞こえないように、小さく呟いた。
一方その頃――。
俊哉のもとへ向かって走る小町の脳裏には、これまでの思い出が次々と浮かんでいた。
昼休みになるたびに二人で過ごした学校の屋上。
他愛もない話をして笑い合った時間。
佐奈と一緒に出かけた、体験型ゲームセンター。
そして、佐奈に怪我をさせてしまい、自分を責め続けた日々。
思い出せば思い出すほど、俊哉との思い出はどれも大切なものばかりだった。
『どうして……』
『どうして、何も言わずにいなくなるの……?』
小町の瞳には涙があふれ、頬を伝って次々とこぼれ落ちる。
それでも足は止めない。
携帯電話を強く握り締めながら、小町はただひたすら俊哉のもとへ走り続けた。




