第70話
「ええ……そうよ。それに、手術が終わってもしばらくは向こうで
治療を続けなければならないから、私たちも一緒にアメリカへ行かなくちゃいけないの」
香奈は俊哉の顔を見つめながら、静かにそう告げた。
あまりにも突然の話に、俊哉は言葉を失った。
香奈は戸惑う俊哉に優しく微笑み、
「あなたも学校のことや色々あるでしょうから、早めに準備をしておいてね」
と言い残すと、手術や渡航の手続きを進めるため、病室を後にした。
病室には静けさだけが残る。
俊哉はベッドで眠る佐奈の寝顔を見つめた。
佐奈にとって、この話は間違いなく希望だった。
助かる可能性がある。
それは何より嬉しいことのはずだった。
だが、その一方で、この町を離れなければならない現実が俊哉の胸を締めつけていた。
『春野には……何て言えばいいんだ……』
そう呟きながら、俊哉は眠る妹の手をそっと握った。
翌日――。
小町は昨日、俊哉が待ち合わせ場所に来なかった理由が気になり、何度も携帯電話をかけた。
しかし、何度かけても俊哉は電話に出なかった。
『どうしたんだろう……』
不安な気持ちが募っていく。
その時、突然、携帯電話の着信音が鳴った。
『俊哉!?』
小町は慌てて電話に出た。
「もしもし!」
だが、受話器の向こうから聞こえてきたのは俊哉ではなく、
「もしもし、春野か?」
幼なじみの吾郎の声だった。
「……何だ、吾郎か」
思わず落胆した声になる。
「何? 何か用?」
ぶっきらぼうに尋ねると、吾郎は苦笑しながら答えた。
「相変わらず、つれないなぁ」
そして少し間を置き、
「それよりさ……昨日の待ち合わせの相手から、何か連絡はあったのか?」
と、どこか探るような口調で尋ねてきた。




