第60話
俊哉は病院を出ると、小町を駅まで送っていた。
しばらく歩いたあと、俊哉がぽつりと口を開く。
「ごめんな……。」
「佐奈が、変なことを言って。」
小町は静かに首を横へ振った。
「ううん……。」
俊哉は前を向いたまま、小さくため息をつく。
「最近、佐奈も自分の病気のことに気付き始めていてさ……。」
「だから、ああやって無理に明るく振る舞ってるんだと思う。」
その声は、とても寂しそうだった。
小町は何も言えなかった。
励ましたい。
何か声をかけたい。
そう思っても、どんな言葉も軽く感じてしまい、口を開くことができない。
二人の間に重い沈黙だけが流れた。
その空気に耐えきれなくなった小町は、おずおずと口を開く。
「あのさ……。」
「さっき佐奈ちゃんが言ってたことなんだけど……。」
俊哉は不思議そうに小町を見た。
「え?」
小町は少し頬を赤くしながら俯く。
「デートのこと……。」
俊哉は一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出したように苦笑した。
「ああ、そのことか。」
「あれは佐奈が勝手に言っただけだから、気にしなくていいよ。」
俊哉は照れ隠しのように笑いながら答えた。
その言葉に、小町は少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「……そうだよね。」
俯いたまま、小さく呟く。
「クリスマスくらいは……いいじゃない。」
あまりにも小さな声だった。
俊哉には、その言葉は届かなかった。
「え? 何か言った?」
俊哉が聞き返すと、小町はハッと顔を上げた。
「な、何でもない!」
「気にしないで!」
そう言うと、小町は照れ隠しをするように俊哉の少し前を小走りで歩き出した。
そんな小町の後ろ姿を見つめながら、俊哉は不思議そうに首を傾げるのだった。




