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第59話

『お金さえあれば……。』


『お金さえあれば、佐奈に手術を受けさせてあげられるのに……。』


 俊哉は重い足取りで、佐奈に頼まれたオレンジジュースを買うため、自動販売機へ向かっていた。


 その途中、病室へ向かう小町とばったり出くわした。


 二人は同時に相手に気付き、


「あっ……。」


 思わず顔を見合わせ、その場で立ち止まる。


 しばらく気まずい沈黙が流れたあと、小町がおずおずと口を開いた。


「それから……佐奈ちゃんの体調はどう?」


 俊哉は小さく息をつき、寂しそうに微笑んだ。


「それが……あまり良くないんだ。」


 そう答えると、自動販売機でオレンジジュースを一本買い、じっと缶を見つめた。


 その表情には、どうしようもない無力感が滲んでいた。


「そうなんだ……。」


 小町はそれ以上、何も言えなかった。


 二人はそのまま佐奈の病室へ向かった。


 病室で待っていた佐奈は、小町の姿を見ると嬉しそうに笑った。


 しかし、以前のように飛び跳ねて喜ぶ元気はもうなかった。


 その姿に、小町は胸が締めつけられる思いだった。


 佐奈は俊哉から受け取ったオレンジジュースを両手で持ち、一口飲むと、小町を見上げた。


「ねぇ、お姉ちゃん。」


「お兄ちゃんとは、デートしないの?」


 突然の質問に、小町は目を丸くした。


「えっ……?」


 思わず俊哉と顔を見合わせる。


 俊哉も照れくさそうに目を逸らした。


「し、しないわよ。」


 小町は顔を赤くしながら慌てて否定した。


 佐奈は二人の様子を見比べると、頬を膨らませた。


「つまんない……。」


 そう呟くと、残っていたオレンジジュースを一気に飲み干した。


 その無邪気な一言に、病室には小さな笑いが生まれた。


 だが、その笑顔の裏で、三人ともそれぞれに消えない不安を抱えていた。

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