第57話
遥はその写真を手に取り、不思議そうに裏返した。
『何、これ……?』
写真の裏には、古びた文字で
『塩江香奈』
と女性の名前が書かれていた。
その下には、赤ちゃんの名前らしき文字も記されていたが、長い年月で文字が擦り切れ、
ほとんど判読できなくなっていた。
『塩江……?』
『塩江くんのお姉さん……? それとも親戚?』
遥は首を傾げながら、写真の女性をじっと見つめた。
その時だった。
玄関のドアが開く音がした。
仕事を早めに終えた父・幸隆が帰宅したのだ。
しばらくして書斎のドアが開き、幸隆が部屋へ入って来た。
すると、自分の書斎で一枚の古びた写真を見つめている娘・遥の姿が目に入った。
「遥!」
幸隆は驚いたような声を上げた。
遥はその声に振り返る。
「パパ……」
幸隆は遥が手にしている写真を見た瞬間、表情を一変させた。
「ここで何をしている!」
鋭い怒鳴り声が書斎に響く。
突然の父親の怒声に、遥は思わず肩を震わせた。
「ご、ごめんなさい……。」
「ちょっと探し物をしていて……。」
そう言うと、遥は手にしていた写真を幸隆へ向けた。
「ねえ、この人って誰?」
「"塩江香奈"って書いてあるけど……。」
幸隆は写真を見るなり、慌てて遥の手からそれを奪い取った。
そして写真を胸元へ抱き寄せるように握り締める。
「お前には関係ない。」
低く押し殺した声だった。
しかし、その声には怒りと焦りが滲んでいた。
「今すぐ、この部屋から出て行け!」
幸隆は鋭く言い放った。
遥は父親のあまりにも取り乱した様子に驚きながらも、
「……ごめんなさい。」
と小さく謝ると、静かに書斎を後にした。
部屋を出た遥は、閉ざされた書斎のドアを見つめながら、小さく呟いた。
『やっぱり……。』
『塩江くんには、何か大きな秘密があるんだ……。』




