第55話
小町が佐奈の見舞いを終え、病院を出ると、俊哉は小町を駅まで送ってくれた。
しばらく二人で無言のまま歩いていると、俊哉がぽつりと口を開いた。
「さっきは、ごめん……」
突然の謝罪に、小町は慌てて首を横に振った。
「ううん。私の方こそ、勝手に佐奈ちゃんのお見舞いに来ちゃって、ごめんなさい……」
俊哉は苦笑いを浮かべながら、
「あんなにはしゃいでいる妹を見たのは、本当に久しぶりだったんだ……」
そう言って、少し遠くを見るような目をした。
「病気になってから、お医者さんにも『あまり興奮させないように』って言われていてさ……」
小町は思わず足を止めた。
「佐奈ちゃん……そんなに悪い病気なの?」
俊哉は少し顔を曇らせ、小さく頷いた。
「ああ……。血液の病気らしいんだ。」
少し間を置いてから、続ける。
「医者には、アメリカで手術を受ければ治る可能性があるって言われてる。でも……」
俊哉は悔しそうに拳を握った。
「ものすごくお金がかかるらしい。」
小町は言葉を失った。
『そんな……。』
あまりにも重すぎる現実に、何を言えばいいのかわからなかった。
そんな小町を気遣うように、俊哉は無理に笑顔を作った。
「でも、今日は春野さんが来てくれて助かったよ。」
「最近の佐奈、ずっと元気がなかったから……。あんな笑顔を見たのは、本当に久しぶりだった。」
そう言って微笑む俊哉だったが、その笑顔はどこか寂しそうだった。
小町はただ、小さく頷くことしかできなかった。
それからというもの、俊哉は佐奈の看病のため、学校を休む日が増えていった。
ある日。
急に学校を休みがちになった俊哉を心配したクラスメイトが、小町のもとへやって来た。
「なあ、春野。塩江って、最近どうしたんだ?」
「何で学校を休んでるんだよ?」
小町は一瞬、俊哉との約束を思い出した。
病室で見た佐奈の笑顔。
そして、病気のことを誰にも話さないでほしいという俊哉の気持ち。
そのすべてが頭に浮かぶ。
「さあ……。」
小町は少しだけ視線を逸らし、
「風邪でも引いてるんじゃない?」
と、とっさに笑ってごまかした。
「なんだ、そうだったのか。」
ほとんどのクラスメイトは、小町の言葉をそのまま信じた。
しかし――。
『……嘘ね。』
俊哉に想いを寄せる遥だけは、小町の表情のわずかな変化を見逃さなかった。
遥は小町をじっと見つめながら、
『絶対に何か隠している……。』
と、静かに疑い始めるのだった。




