第53話
病室のドアを開けると、ベッドの上に座っていた佐奈は目を丸くした。
「えっ……」
一瞬きょとんとした表情を浮かべた次の瞬間――
「わぁーい! お姉ちゃんだ!」
満面の笑みを浮かべた佐奈は、ベッドから勢いよく飛び降りると、小町のもとへ駆け寄り、
そのままぎゅっと抱きついた。
「佐奈ちゃん!」
あまりの勢いに小町は少しよろけながらも、優しく抱き返す。
その無邪気な笑顔を見て、小町は思わず首を傾げた。
「あれ? 病気なんじゃなかったの?」
佐奈は小町から少し離れると、不思議そうな顔で首を傾げた。
「うーん……」
少し考えてから、
「よく分からないけど……佐奈、病気なんだって」
と、どこか他人事のように笑う。
そして再び、
「会いたかった!」
と言って、小町に抱きついた。
その無邪気な姿に、小町は胸が締めつけられた。
本人はまだ、自分の病気の重さを何も知らないのだ――。
その頃。
佐奈の病室へ向かっていた俊哉は、廊下まで聞こえてくる賑やかな声に足を止めた。
「えっ?」
病室から聞こえる佐奈のはしゃぐ声。
普段は静かな病室とは思えないほどの騒ぎだった。
『まさか……何かあったのか!?』
嫌な予感が胸をよぎる。
俊哉は慌てて病室のドアを開けた。
「佐奈!」
飛び込んできた光景に、俊哉は思わず目を見開く。
そこには、小町にしがみついて嬉しそうにはしゃぐ佐奈の姿があった。
「……春野さん?」
なぜ小町がここにいるのか、一瞬理解できない。
しかし、興奮して動き回る佐奈を見た俊哉は、とっさに声を荒げた。
「何をやってるんだ!」
病室に鋭い声が響く。
突然怒鳴られた佐奈と小町は、同時に俊哉の方を振り向き、きょとんとした表情を浮かべた。
「ちょっと、塩江くん!」
慌てて小町が声を掛ける。
その声で俊哉も我に返った。
「……悪い。」
一度深呼吸をすると、佐奈の前まで歩み寄り、今度は穏やかな声で言った。
「佐奈。お前は病気なんだから、あまり動き回っちゃダメだ。また先生に怒られるぞ」
その言葉に佐奈は頬を膨らませ、
「だって、暇なんだもん……」
と不満そうに呟く。
それでも兄の言葉には逆らわず、しぶしぶベッドへ戻って腰を下ろした。
小町はそんな兄妹のやり取りを見つめながら、俊哉がどれほど佐奈のことを気に掛けているのかを、
改めて感じていた。




