第52話
「……重い病気なの?」
小町は不安そうな表情で、もう一度俊哉に尋ねた。
俊哉はしばらく黙ったまま俯いていたが、やがて小さく頷き、
「うん……少し、重いんだ」
とだけ答えた。
その横顔はどこか疲れ切っていて、無理に気丈に振る舞っているようにも見えた。
小町は胸が締めつけられる思いだった。
何か励ます言葉を掛けようとしても、何も思い浮かばない。
結局、
「そうなんだ……」
と呟くことしかできなかった。
その後、小町は佐奈が入院している病院を教えてもらった。
しかし俊哉は、少し困ったような表情で付け加えた。
「悪いけど……見舞いには来ないでほしい。」
「えっ?」
「佐奈は興奮すると身体に負担がかかるんだ。だから……頼む。」
俊哉はそう言って頭を下げた。
「……わかった。」
小町は頷いたものの、その言葉は心のどこかに引っ掛かったままだった。
翌日の日曜日。
小町は迷いながらも、一人で佐奈が入院している病院を訪れていた。
「私……何をしてるんだろう……」
俊哉との約束を破っている。
そう思うたびに足取りは重くなった。
それでも、小町は病室の前までやって来た。
病室のドアを見つめながら立ち尽くす。
『やっぱり帰ろう……』
俊哉は「来ないでほしい」と言っていた。
このまま帰った方がいい。
そう自分に言い聞かせ、小町は踵を返した。
しかし、数歩歩いたところで足が止まる。
『でも……』
佐奈は今、一人で病気と闘っている。
何も知らないふりをして帰ることなんて、本当にできるのだろうか。
小町はぎゅっと拳を握り締めた。
「……よし。」
小さく自分に言い聞かせるように呟く。
そして大きく深呼吸を一つすると、再び病室の前へ戻った。
コンコン――。
勇気を振り絞ってドアをノックする。
「はーい。どうぞ!」
聞き慣れた佐奈の元気な声が病室の中から聞こえてきた。
その声を聞いた小町は、もう一度だけ深呼吸をすると、ゆっくりと病室のドアを開けた。




