第50話
授業がすべて終わり、小町が帰り支度をしていると、ノートの間に一枚の紙切れが
挟まっていることに気が付いた。
「……なに、これ?」
不思議そうに紙を取り出してみる。
そこにはメールアドレスと、
『塩江俊哉』
という名前が書かれていた。
「なによ……これ」
小町は思わず顔をしかめた。
しばらく紙を見つめていたが、迷った末に携帯電話を取り出す。
『なんのマネ? 春野』
とだけ打ち込み、そのメールアドレスへ送信した。
家へ帰った小町は、自分の部屋で机に向かい、宿題をしていた。
その時だった。
♪♪♪
携帯電話の着信音が静かな部屋に響く。
画面を見ると、
『塩江俊哉』
の文字が表示されていた。
『本当にごめん』
短い一文だけのメールだった。
小町は携帯電話を見つめながら、小さくため息をつく。
「もう……」
そして、
『本当になんのマネ?』
とだけ返信した。
数秒もしないうちに返事が届く。
『学校では避けられていたから……。
メールなら話をしてくれるかと思って』
その一文を読んだ小町は、思わず画面を見つめたまま黙り込んだ。
あの日から、自分が俊哉を避け続けていたことを思い出したからだ。
『……ずるい』
そんな言葉を心の中で呟きながらも、小町はもう怒る気にはなれなかった。
その夜、二人は他愛もない話を何通もメールで交わした。
学校では話せなかったことも、不思議とメールでは素直に言葉にできた。
いつしか小町の中にあったわだかまりも少しずつ溶けていき、俊哉を責める気持ちは消えていた。
それ以来、小町と俊哉は学校では毎日のように顔を合わせながらも、家へ帰ると
メールを送り合うようになった。
何気ない出来事や、授業の話、佐奈のこと――。
そんな他愛のないやり取りを重ねるたびに、二人の距離は以前よりも少しずつ縮まっていった。




