第49話
翌日の昼過ぎ――。
俊哉は、妹の佐奈を迎えに春野家へやって来た。
玄関先で俊哉の姿を見つけた佐奈は、途端に顔を曇らせ、
「イヤだ! 帰らない!」
と言って、小町の母・紀美代の後ろへ隠れた。
俊哉は困ったように眉をひそめ、
「佐奈、わがままを言うな。帰るぞ」
と静かに声を掛けた。
しかし佐奈は首を横に振り、
「イヤだもん!」
と紀美代の服をぎゅっと掴み、離そうとしない。
俊哉は困ったようにため息をつきながらも、
「本当に怒るぞ、佐奈」
と少しだけ厳しい口調で言った。
その声に佐奈の目には涙が浮かび始める。
その様子を見た紀美代は優しく微笑み、
「佐奈ちゃん。またいつでも遊びに来ていいのよ」
と頭をそっと撫でた。
「本当?」
佐奈は涙ぐんだ顔のまま紀美代を見上げる。
「もちろん。また小町と一緒に遊びましょうね」
その言葉に佐奈はようやく笑顔を取り戻し、
「うん! また来る!」
と元気よく頷いた。
そして名残惜しそうに何度も振り返りながら、俊哉と一緒に家へ帰っていった。
月曜日の朝――。
小町が昇降口で上履きに履き替えていると、少し遅れて俊哉がやって来た。
俊哉は小町の前で立ち止まり、
「一昨日は、妹が迷惑をかけて本当にごめん」
と頭を下げた。
小町は靴箱を閉めながら首を横に振る。
「別に気にしてないわ。うちの母も、佐奈ちゃんが来てくれて楽しかったって言ってたし」
少し間を置いてから、小町は続けた。
「それより、お母さんが『またいつでも遊びにおいで』って言ってたって、佐奈ちゃんに伝えておいて」
その言葉に俊哉は少し驚いたような表情を見せた。
「……ありがとう」
小町は照れ隠しをするように、
「私は伝言を頼まれただけだから」
と言うと、足早に教室へ向かって歩き出す。
俊哉はその後ろ姿をしばらく見つめ、
「……ああ」
と小さく頷き、小町の後を追うように教室へ向かった。




