第48話
夕食を終え、小町と佐奈がお風呂に入っている間――。
リビングでは、小町の母・紀美代が電話を手に取っていた。
受話器の向こうに出たのは、佐奈の母・香奈だった。
仕事から帰宅した香奈は、すでに俊哉から事情を聞いていたらしく、電話がつながるなり
申し訳なさそうな声で言った。
「本当に申し訳ありません……。うちの子がご迷惑をおかけしてしまって……」
何度も頭を下げている様子が、電話越しにも伝わってくる。
紀美代は穏やかに微笑んだ。
「いいえ。佐奈ちゃん、とてもいい子ですよ」
その一言に、香奈は少し安心したようだった。
「ありがとうございます……」
そして改めて言葉を続ける。
「今日はそのまま、お世話になってもよろしいでしょうか。明日、息子の俊哉に迎えに行かせますので……」
「もちろんです。安心してください」
紀美代が優しく答えると、香奈は何度も礼を言い、電話は静かに切れた。
しばらくして、お風呂場の扉が開く。
「ふぅ……」
濡れた髪をタオルで拭きながら、小町がリビングへ戻ってきた。
母の表情を見るなり、不安そうに尋ねる。
「どうだった?」
紀美代は受話器を電話機へ戻し、小さく笑った。
「『娘をよろしくお願いします』って。今日は泊まっていいそうよ」
その言葉を聞いた瞬間、小町はほっと胸をなで下ろした。
「よかったぁ……」
そのすぐ後から、佐奈もお風呂から出てきた。
まだ少し湿った髪から、水滴がぽたぽたと落ちている。
その姿を見た紀美代は優しく微笑んだ。
「佐奈ちゃん、こっちへおいで」
「はい」
佐奈は素直にソファへ腰掛ける。
紀美代はタオルで優しく髪を拭き、ドライヤーで丁寧に乾かし始めた。
「熱くない?」
「うん、大丈夫!」
鏡越しに見える佐奈の表情は、少し照れくさそうだった。
そんな二人の様子を、小町はどこか微笑ましい気持ちで見つめていた。
その夜。
慣れない家で緊張していたはずの佐奈だったが、一日中いろいろな出来事があったせいか
、布団に入るとすぐに眠ってしまった。
小町のベッドで静かな寝息を立てる佐奈。
その穏やかな寝顔を見つめながら、小町は小さく微笑んだ。
「今日はゆっくり休んでね……」
そう呟くと部屋の明かりを消し、静かな夜が春野家を包み込んでいった。




