第47話
小町の母・紀美代は、リビングのソファにちょこんと腰掛けた佐奈をじっと見つめた。
緊張しているのか、佐奈は背筋をぴんと伸ばし、両手を膝の上でぎゅっと握り締めている。
その様子を見た紀美代は、少し表情を和らげた。
「そう。この子がクラスメイトの妹さんなのね」
小町はおそるおそる口を開く。
「うん……」
少しためらったあと、
「お兄ちゃんと喧嘩しちゃったみたいで……」
と言葉を続けた。
そして意を決したように母を見つめる。
「今日だけ、この子をうちに泊めちゃダメ?」
紀美代は驚いたように目を瞬かせた。
「でも、ご両親が心配するんじゃないの?」
もっともな言葉だった。
小町は慌てて頷く。
「だから後でちゃんと連絡する! でも、このまま帰したら可哀想で……」
そして両手を合わせる。
「お願い、ママ!」
すると佐奈も慌ててソファから降りた。
小さな体で深々と頭を下げる。
「お願いします!」
その必死な姿を見て、紀美代は困ったように笑った。
「もう……二人してそんな顔されたら断れないじゃない」
小さくため息をつく。
「わかったわ」
二人の顔が一斉に明るくなった。
「でも条件があるわよ」
紀美代は優しく微笑みながら続ける。
「あとでちゃんと、お兄さんか親御さんに連絡をすること。それだけは約束して」
「うん!」
「はい!」
二人は元気よく返事をした。
その返事に紀美代は満足そうに頷く。
「じゃあ、晩ご飯の準備をしなくちゃね」
そう言ってキッチンへ向かうと、
「お手伝いします!」
佐奈は勢いよく立ち上がり、紀美代のあとを追いかけた。
「えっ?」
紀美代は少し驚いたが、すぐに笑顔になる。
「ありがとう。それじゃあ、お皿を並べてもらえる?」
「はい!」
佐奈は嬉しそうに返事をすると、一生懸命お皿を運び始めた。
その姿を見ていた小町は思わず苦笑する。
(私、お手伝いなんてほとんどしたことないのに……)
少しだけ恥ずかしくなった。
「……私も手伝う」
照れくさそうに立ち上がると、キッチンへ向かう。
紀美代はそんな娘を見て目を丸くした。
「珍しいこともあるものね」
「もう、ママ!」
小町は頬を膨らませる。
その様子に佐奈がくすっと笑った。
さっきまで泣いていた少女の笑顔が戻り、春野家のリビングには久しぶりに穏やかな空気が
流れていた。




