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第46話

 小町が佐奈の前に立ちはだかったことで、俊哉は寸前のところで手を止めた。


 振り上げた拳は空中で震え、そのままゆっくりと下ろされる。


 佐奈は兄の怖い表情に耐えきれなくなり、ついに涙をこぼした。


「うぅ……」


 小さな肩が震える。


 小町は慌てて佐奈のそばへ駆け寄った。


「大丈夫だから……」


 優しく頭を撫でながら、そっと抱き寄せる。


「怖かったね」


 その言葉に佐奈は声を上げて泣き出した。


 小町はそんな佐奈を慰めながら、振り返って俊哉を睨みつけた。


「ダメでしょう!」


 俊哉は思わず肩を震わせた。


「妹さんにそんなことしたら!」


 普段の小町からは想像もできないほど厳しい声だった。


 俊哉は気まずそうに視線を逸らす。


「ご、ごめん……」


 小町の迫力に押されるように、素直に頭を下げた。


 だが小町の怒りはまだ収まらない。


「佐奈ちゃんだって不安だったんだよ!」


 俊哉は何も言い返せなかった。


 自分でも感情的になりすぎたことは分かっていたからだ。


 しばらく沈黙が流れる。


 やがて小町は泣いている佐奈の肩を抱きながら言った。


「今日はもう帰りたくないよね?」


 佐奈は小さく頷いた。


「だったら、少し落ち着くまでうちにいる?」


 その言葉に佐奈は小町の服をぎゅっと掴んだ。


 俊哉は困ったように頭を掻いた。


「いや、それはさすがに迷惑だろ……」


「迷惑じゃないわ」


 小町は即座に言い返した。


 そして少しだけ表情を和らげる。


「お母さんに聞いてみないと分からないけど、少しくらいなら大丈夫だと思う」


 俊哉はしばらく迷っていたが、泣いている佐奈を見ると観念したようにため息をついた。


「……わかった」


 そして佐奈に向かって、


「ごめんな」


 と小さく謝る。


 佐奈はまだ泣きながらも、小さく頷いた。


 俊哉は再び小町を見た。


「悪いけど、少しだけ頼む」


「任せて」


 小町は力強く答えた。


 俊哉は安心したような、それでいてどこか寂しそうな表情を浮かべると、


「じゃあ、また後で迎えに来る」


 そう言い残して春野家を後にした。


 玄関のドアが閉まる音が響く。


 それからしばらくして――。


 買い物から帰ってきた小町の母・紀美代は、リビングに見慣れない少女が座っているのを

 見て足を止めた。


「えっ?」


 そして首を傾げる。


「小町。この子、誰?」


 突然の質問に小町は苦笑いを浮かべた。


「えーっと……」


 何から説明すればいいのか分からない。


 佐奈と顔を見合わせたあと、


「実はね――」


 小町は今日起きた出来事を母に説明し始めた。

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