第42話
『暇だなぁ……』
週末。
小町はリビングのソファに寝転びながら、ぼんやりと天井を見上げていた。
テレビをつけても面白くない。
本を読もうとしても集中できない。
頭に浮かぶのは、いつも俊哉のことだった。
佐奈が怪我をして以来、俊哉と距離を置いている。
それなのに、気が付けば彼のことばかり考えてしまう。
そんな自分が嫌だった。
その時――。
ピンポーン。
突然、玄関のチャイムが鳴り響いた。
小町はソファに寝転んだまま、
「ママー、出てー」
と声を掛けた。
しかし返事はない。
数秒後、小町は思い出した。
「あっ……そうだった」
母親は近所の奥様たちと一緒に、新しくできたショッピングモールへ出掛けているのだった。
家には自分しかいない。
もう一度チャイムが鳴る。
ピンポーン。
「はぁ……しょうがないなぁ」
小町は重い腰を上げた。
玄関へ向かいながら、
「はーい! 今、出ます!」
と声を掛ける。
そしてドアを開けた。
「どちら様――」
そこまで言いかけて、小町は言葉を失った。
玄関の前に立っていたのは、
塩江佐奈だった。
『えっ……』
心臓がドクンと鳴る。
佐奈の腕には、まだ怪我の包帯が残っていた。
それを見た瞬間、小町の胸が痛んだ。
思わず視線を逸らしてしまう。
けれど、すぐに平静を装い、
「佐奈ちゃん? どうしたの?」
と笑顔を作った。
佐奈は何か言いたそうにモジモジしていた。
足元を見たり、小町の顔を見たりを繰り返している。
やがて意を決したように顔を上げた。
「あのね……」
「うん?」
「宿題で分からないところがあるの」
佐奈は小さな声で言った。
そして両手で抱えていたノートを差し出す。
「お姉ちゃん、教えてくれない?」
小町は少し驚いた。
学校の勉強なら兄の俊哉に聞けばいいはずだ。
それなのに、わざわざ自分の家まで来た。
不思議に思いながらも、
「いいわよ」
と答える。
その瞬間。
佐奈の顔がぱっと明るくなった。
「本当!?」
「うん」
「やったぁ!」
佐奈は嬉しそうに飛び跳ねた。
その無邪気な笑顔を見て、小町は胸が締め付けられる。
怪我をした本人は、もう気にしていないのかもしれない。
それなのに、自分だけが過去に囚われている。
そんな気がした。
「じゃあ、上がって」
小町がそう言うと、
「おじゃましまーす!」
佐奈は元気よく返事をして家の中へ入った。
その背中を見つめながら、小町は小さくため息を吐く。
――本当に宿題だけなのだろうか。
そんな予感が胸の奥に芽生えていた。
そしてその予感は、決して間違っていなかった。
佐奈は今日、ある大切な目的を持って小町の家を訪れていたのだから――。




