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第40話

 「あ、ありがとう……」


 俊哉は少し困ったような表情を浮かべながらも、遥から差し出された果物の盛り合わせを受け取った。


 その様子を見た小町は、胸の奥が妙にざわつくのを感じた。


 自分でも理由はわからない。


 けれど、この場にいるのが苦しかった。


 「じゃあ……私はもう帰るね」


 小町は小さく微笑んだ。


 「妹さんによろしく伝えておいて」


 そう言い残し、足早にその場を離れる。


 俊哉が何か言おうとしたようだったが、小町は振り返らなかった。


 振り返ったら、きっと泣いてしまう気がしたからだ。


 病院を出たあとも、小町の胸の中には重たいものが残り続けていた。


 『私のせいだ……』


 何度も同じ言葉が頭を巡る。


 『私がちゃんと見ていれば……』


 俊哉は気にするなと言ってくれた。


 責めるどころか、優しく慰めてくれた。


 けれど、その優しさが今の小町には何より辛かった。


 数日後。


 佐奈は無事に退院した。


 以前と変わらない笑顔で、小町の前に現れる。


 「お姉ちゃん!」


 いつものように元気よく駆け寄ってくる佐奈。


 だが、その腕には白い包帯が巻かれていた。


 小町の視線は自然とそこへ向かう。


 胸が締め付けられた。


 思わず顔を逸らしてしまう。


 「こんなの全然平気だよ!」


 佐奈は明るく笑った。


 まるで小町を安心させようとしているみたいに。


 だが、その直後。


 腕を動かした拍子に、佐奈はほんの少しだけ顔をしかめた。


 「っ……」


 一瞬だけ見せた痛そうな表情。


 それが小町の胸を深く刺した。


 『やっぱり痛いんだ……』


 罪悪感が再び押し寄せる。


 俊哉は以前と変わらなかった。


 学校でも。


 帰り道でも。


 小町に優しく接してくれる。


 何事もなかったかのように笑いかけてくれる。


 けれど――


 優しくされればされるほど、小町は苦しくなった。


 顔を合わせるたびに思い出す。


 佐奈が倒れた日のことを。


 病院でのことを。


 俊哉の優しさを。


 だから小町は少しずつ俊哉を避けるようになった。


 そして。


 あれほど毎日のように通っていた学校の屋上にも行かなくなった。


 昼休みになっても階段を上らない。


 屋上へ続く扉を開かない。


 青い空の下で俊哉と話した時間。


 何気ない会話。


 優しい笑顔。


 その全てを思い出してしまうから。


 屋上には今日も風が吹いている。


 けれど、その風を受ける小町の姿はもうなかった。

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