第39話
駆けつけた俊哉によって、佐奈はすぐに病院へ搬送された。
医師による精密検査の結果、ゲーム機から転落した際に頭を軽く打っただけで、
大きな異常は見つからなかった。
脳波にも異常はなく、経過観察のため入院はするものの、
二、三日ほどで退院できるだろうとのことだった。
その知らせを聞いても、小町の胸の重さは消えなかった。
病院へ駆けつけた小町は、病室の前の廊下で俯いていた。
『私のせいだ……』
佐奈が楽しそうに自分の手を引いていた姿が頭に浮かぶ。
『私がちゃんと見ていれば……』
胸が締め付けられた。
そんな時だった。
病室のドアが静かに開いた。
中から俊哉が出てくる。
俊哉は俯いたままの小町を見ると、ゆっくり近づいてきた。
「春野さん……」
優しい声だった。
小町は顔を上げることができない。
「ごめんなさい……」
それしか言えなかった。
俊哉は困ったように微笑む。
「君のせいじゃないよ」
「でも……」
「俺だって佐奈から目を離していたんだ」
俊哉は静かに首を振った。
「だから、そんな顔するなよ」
その言葉が、かえって小町の胸を痛めつけた。
責められる方が楽だった。
なのに俊哉は責めない。
優しく許してくれる。
だからこそ苦しかった。
「本当に大丈夫だから」
俊哉はそう続けた。
「佐奈なら数日で退院できるってさ」
そして少しだけ笑う。
「だから自分を責めるな」
小町の目に涙が滲んだ。
俊哉はそんな小町を見つめる。
何かを言いかけるように唇を動かし――
ゆっくりと手を伸ばした。
まるで泣きそうな小町を安心させるように。
抱き締めようとするように。
小町の鼓動が跳ね上がる。
その瞬間だった。
「塩江くん! 妹さん、大丈夫!?」
廊下に響く声。
二人は同時に振り返った。
遥だった。
その後ろには吾郎もいる。
俊哉は伸ばしかけた手を止める。
小町も思わず一歩後ろへ下がった。
せっかく近づいた距離が、一瞬で離れてしまう。
遥はそんな空気に気付かないふりをしながら駆け寄ってきた。
「大丈夫なの?」
俊哉は少し表情を曇らせながらも答える。
「ああ。心配ないよ」
その言葉を聞いた遥は、露骨に安堵の表情を浮かべた。
「よかったぁ」
そう言いながら持っていた紙袋を差し出す。
「これ、お見舞い」
中には高級そうな果物の盛り合わせが入っていた。
俊哉が受け取ろうとした時だった。
遥は一瞬だけ小町を見る。
ほんの一瞬。
だが、その視線には勝ち誇ったような色が宿っていた。
まるで、
――私の方が役に立つ。
そう言いたげに。
小町は思わず視線を逸らした。
胸の奥が少しだけ痛んだ。




