第37話
『え……?』
小町は辺りを見回した。
そこで初めて気付く。
さっきまで自分の手を引っ張っていた佐奈の姿がない。
『佐奈ちゃん……?』
嫌な予感が胸をよぎった。
その時だった。
人だかりの向こうから悲鳴が聞こえる。
「誰か呼んで!」
「大丈夫!?」
ざわめきが広がる。
小町は血の気が引いた。
『まさか……!』
人混みをかき分けるように駆け出す。
吾郎も慌てて後を追った。
そして――
小町はその場で立ち尽くした。
床に倒れていたのは佐奈だった。
「佐奈ちゃん!」
顔色は真っ青だった。
目を閉じたまま動かない。
周囲には心配そうに集まった人たちが立っている。
「どうして……」
小町は震える声を漏らした。
頭の中が真っ白になる。
だが、今はパニックになっている場合ではない。
「吾郎!」
小町は振り返った。
「すぐに塩江くんを呼んできて!」
吾郎は呆然と立ち尽くしていた。
目の前の光景が信じられないという顔だった。
「おい!」
小町は思わず叫ぶ。
「早く!」
その声で吾郎はようやく我に返った。
「あ……ああ!」
慌てて駆け出していく。
小町は佐奈の傍へ膝をついた。
「佐奈ちゃん!」
小さな肩をそっと揺する。
しかし反応はない。
胸が締め付けられる。
『お願い……』
『目を開けて……』
小町は必死に佐奈の名前を呼び続けた。
◇
一方その頃――
遥は佐奈に何が起きたのか知らなかった。
俊哉を人の少ない通路へ連れて行く。
そして意を決したように立ち止まった。
「ねぇ……塩江くん」
俊哉が振り返る。
遥はぎゅっと拳を握った。
聞かなければならない。
ずっと気になっていたことを。
「小町とキスしたって、本当なの?」
俊哉の表情が一瞬だけ固まった。
遥はそんな俊哉を真っ直ぐ見つめる。
逃げ道を与えないように。
けれど、その瞳の奥には不安と恐れが滲んでいた。
聞きたくない。
でも聞かずにはいられない。
それほどまでに――
遥は俊哉のことが好きだった。




