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第36話

「ねぇ、塩江くん……」


 遥はそっと俊哉の隣へ歩み寄った。


「お邪魔虫もいなくなったことだし、私たちも楽しみましょう?」


 そう言うと、俊哉の腕に自分の腕を絡ませる。


 俊哉は少し驚いたような顔をした。


「いや……でも……」


 その視線は自然と、小町と佐奈が消えていった方向へ向いていた。


 遥はその様子を見て胸が痛んだ。


『また……』


 自分が隣にいるのに。


 俊哉の目は別の誰かを追っている。


 それが悔しかった。


 遥は無理やり笑顔を作る。


「大丈夫よ」


 さらに腕をぎゅっと抱き寄せた。


「晋間くんもいるし、佐奈ちゃんも一緒なんだから」


「でも……」


「ね?」


 俊哉が断る隙を与えないように、遥は半ば強引に歩き出した。


 俊哉は困った顔をしながらも、そのまま連れて行かれてしまう。


 その背中を見送りながら、遥は小さく唇を噛んだ。


『今日だけでいい……』


『少しだけでも、私を見てほしい……』


 誰にも聞こえない願いだった。


 ◇


 一方その頃――


「ねぇ、お姉ちゃん! 次はあれ!」


 佐奈は小町の手を引っ張りながら、施設の奥へ奥へと進んでいた。


「ちょ、ちょっと待って!」


 小町は苦笑しながら付いていく。


 しばらく歩いたところで、ふと違和感を覚えた。


「あれ?」


 小町は辺りを見回した。


「ねぇ、吾郎」


 後ろを歩いていた吾郎を見る。


「塩江くんと遥は?」


 吾郎は一瞬だけ表情を強張らせた。


 だがすぐに誤魔化すように周囲を見回す。


「さあ……?」


「さっきまでいたんだけどな」


 わざとらしく首を傾げる。


「そう……」


 小町も辺りを見回した。


 胸の奥が少しだけざわつく。


『どこ行ったんだろう……』


 その時だった。


 ――ドンッ!


 どこかで何かが倒れる音がした。


 続いて、


「きゃああっ!」


 少女の悲鳴が響き渡る。


「!?」


 小町たちは同時に振り返った。


 その声には聞き覚えがあった。


「佐奈ちゃん!?」


 小町の顔から血の気が引いた。


 そして次の瞬間――


 小町は夢中で悲鳴のした方へ走り出していた。

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