第30話
その写真を見た瞬間、俊哉の表情が変わった。
「それ……」
かすれた声が漏れる。
「俺の……」
俊哉は慌てたように階段を駆け下りると、小町の手から写真を取り戻した。
まるで誰にも見られたくない宝物を守るかのように。
小町は思わず肩を震わせた。
俊哉のあまりの必死さに驚いたのだ。
「ご、ごめんなさい……」
小町は小さな声で謝った。
「塩江くんが落としていったから……」
俊哉は写真を胸元に抱えたまま黙り込む。
その横顔はどこか苦しそうだった。
しばらく沈黙が続く。
やがて俊哉は視線を逸らしたまま、
「いや……」
と呟いた。
「ありがとう」
その一言だけだった。
けれど小町には、それが少しだけ嬉しかった。
今日の俊哉はずっと自分を拒絶していた。
冷たく突き放されてばかりだった。
それなのに今、初めて少しだけ心の扉が開いた気がした。
俊哉は再び階段を上り始める。
小町はその背中を見送った。
本当は聞きたいことがたくさんあった。
あの写真の女性は誰なのか。
どうして最近様子がおかしいのか。
なぜあんな悲しそうな顔をするのか。
だけど聞けなかった。
聞いてはいけない気がした。
だから小町はその場に立ち尽くしたまま、俊哉の背中を見つめ続けた。
すると――
数段上がったところで俊哉が足を止めた。
そして振り返る。
「……あれ?」
俊哉は少し不思議そうな顔をした。
「もう付いて来ないのか?」
「え?」
小町は目を丸くした。
ついさっきまで、
『付いて来るな』
そう言っていたはずなのに。
俊哉は困ったように笑う。
「なんだよ、その顔」
そして少しだけ優しく微笑んだ。
その笑顔は、初めて出会った日の俊哉そのものだった。
「置いていくぞ」
そう言い残して、俊哉は屋上へ続く扉の向こうへ消えていった。
数秒遅れて、
小町はようやく我に返る。
「ま、待って!」
胸の奥が少し熱くなる。
さっきまで感じていた不安も怒りも、いつの間にか消えていた。
俊哉のことをもっと知りたい。
どうしてそんな悲しい顔をするのか知りたい。
そして――
できることなら、その悲しみを少しでも分けてもらいたい。
そんな気持ちのまま、小町は階段を駆け上がった。
屋上の扉の向こうへ。
俊哉を追いかけるために。




