表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

第26話

「そう言っているが……本当なのか?」


 担任は腕を組みながら、小町と俊哉を交互に見た。


 教室中の視線も二人へ集中する。


 小町の背中を冷たい汗が流れた。


 『どうしよう……』


 否定しても疑われる。


 かといって本当のことも話せない。


 あの日、俊哉が自分を抱き締めた理由は、俊哉自身が話したくないはずだ。


 小町が言葉に詰まっていると――


 ガタッ。


 一つの椅子が音を立てた。


 俊哉だった。


 ゆっくりと立ち上がる。


 教室中の視線が今度は俊哉へ集まった。


 小町の心臓が跳ねる。


 『まさか……』


 俊哉は真っ直ぐ前を見たまま口を開いた。


「抱き合っていたのは本当です」


 教室がどっとざわつく。


 小町は思わず立ち上がりそうになった。


 『なに言ってるの!?』


 顔が熱くなる。


 だが俊哉は落ち着いた様子で続けた。


「でも、変な意味じゃありません」


 教室が静かになる。


 俊哉は一瞬だけ小町を見た。


 その視線に、小町は息を呑む。


「春野さんの目にゴミが入っていて……」


 俊哉は少し困ったように笑った。


「それを取ろうとしていただけです」


 その言葉を聞いた瞬間、小町は胸を撫で下ろした。


 自分の苦しい言い訳に、俊哉が合わせてくれたのだ。


 教室のあちこちから、


「本当かなぁ」


「怪しい」


 という声が漏れる。


 だが担任は手を叩いて話を打ち切った。


「もうその話は終わりだ」


 教室が静かになる。


「ホームルームを始めるぞ」


 生徒たちは不満そうな顔をしながら席へ戻った。


 もちろん、完全に納得したわけではない。


 むしろ噂はさらに広がりそうだった。


 それでも小町にとっては十分だった。


 少なくとも、この場は乗り切れた。


 ホームルームが終わる。


 担任は出席簿を抱えながら教室の扉へ向かった。


 だが、ふと立ち止まる。


 そして振り返った。


「塩江」


 俊哉が顔を上げる。


「昼休み、職員室へ来なさい」


 教室がざわつく。


「え?」


「なんで?」


 生徒たちが小声で囁く。


 だが担任は理由を言わない。


「私のところへ来れば分かる」


 それだけ言い残し、教室を出て行った。


 扉が閉まる。


 小町は不安そうに俊哉を見た。


 しかし俊哉は驚いた様子もなく、静かに窓の外を見ていた。


 その横顔を見た瞬間、小町は気付く。


 ――俊哉には、何か心当たりがあるのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ