第17話
日曜日。
駅前は休日らしい賑わいに包まれていた。
春物の服を抱えた人たち。
カフェへ並ぶカップル。
スマホを片手に笑い合う高校生たち。
そんな人混みの中を、小町は親友の愛歌と並んで歩いていた。
「で、今日はどこ行く?」
愛歌がスマホで新しく出来た店を調べながら、小町へ尋ねる。
「いつものショッピングタワー? それとも新しく出来たモール?」
「んー……」
小町は少し考える。
「新しいモール、気になってたかも」
「だよねー! SNSでもめっちゃ流れてくるし!」
愛歌は嬉しそうにスマホ画面を小町へ見せる。
“映える春スイーツ特集”
そんな文字が並んでいた。
小町は思わず苦笑する。
「愛歌って本当にそういうの好きだよね」
「だって可愛いじゃん!」
二人は笑いながら、人通りの多い交差点を渡る。
その時だった。
ふと、小町の視界の端を誰かが横切った。
黒いパーカー。
少し伏せられた横顔。
だけど、その歩き方に見覚えがある。
(……え?)
小町の足が止まる。
鼓動が一気に速くなる。
(今の……)
その人物は、人混みを避けるように早足で進んでいく。
どこか焦っているようにも見えた。
そして――。
一瞬だけ見えた横顔。
(俊哉くん……?)
小町は目を見開く。
次の瞬間には、その姿は人混みの中へ消えかけていた。
「小町?」
愛歌が不思議そうに振り返る。
けれど小町の耳には、もう何も入ってこなかった。
日曜日は家にいるはずだった。
佐奈の看病をしているはずだった。
なのに、どうして――?
胸の奥がざわつく。
嫌な予感。
だけど、それ以上に。
“知りたい”という気持ちが勝ってしまった。
「ごめん、愛歌!」
「え?」
「急用できた! また今度埋め合わせする!」
「ちょ、小町!?」
愛歌の声を背中で聞きながら、小町は人混みの中へ駆け出した。
見失いたくない。
理由を知りたい。
どうして俊哉がここにいるのか。
どうして、あんな顔をしていたのか。
小町は人を避けながら走る。
春風が髪を揺らす。
胸が苦しい。
走っているせいだけじゃない。
もし本当に俊哉だったら。
もし、自分に嘘をついていたのだとしたら。
――その時、自分はどう思うのだろう。
やがて小町は、人混みの向こうに俊哉の後ろ姿を見つけた。
間違いない。
俊哉だ。
けれど、いつもの学校で見る彼とはどこか違っていた。
表情が硬い。
何かに追い詰められているみたいに。
俊哉は立ち止まる。
その視線の先。
そこには、大きな高層ビルがそびえ立っていた。
ガラス張りの外観。
冷たい空気を纏ったそのビルは、どこか近寄りがたい雰囲気を放っている。
俊哉はしばらく無言で、そのビルを見上げていた。
まるで覚悟を決めるように。
そして。
小さく拳を握ると、ビルの中へ入っていった――。




