第16話
静かな部屋に、スマホの振動音だけが響いていた。
知らない番号かと思った。
けれど画面をよく見ると、表示されていた名前に小町は少しだけ肩の力を抜く。
【月見愛歌】
「……愛歌?」
小町は慌てて通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『もしもし、小町?』
聞き慣れた親友の声。
その明るい声を聞いた瞬間、なぜか少し安心する。
『今、大丈夫?』
「うん。どうしたの?」
小町はベッドへ寝転がりながら答えた。
すると愛歌は少し嬉しそうな声で、
『日曜日って暇?』
と聞いてきた。
その言葉に、小町の胸が小さく揺れる。
ついさっきまで、日曜日には予定があった。
俊哉と。
佐奈と。
だけど――。
(なくなっちゃったんだよね)
そう思った瞬間、胸の奥が少し寂しくなる。
「……うん。一応、暇だけど」
小町は天井を見つめながら答えた。
「どうして?」
『よかった!』
愛歌の声がぱっと明るくなる。
『ちょっと買い物付き合ってほしいんだよねー』
「買い物?」
『そうそう! 春服見たいし、コスメも欲しいし!』
楽しそうに話す愛歌の声を聞きながら、小町はぼんやり考える。
本当なら今日は、俊哉たちと出掛けるはずだった。
佐奈がはしゃいで。
俊哉が困った顔をして。
そんな時間を少しだけ楽しみにしていた。
だからこそ。
急に空っぽになった日曜日が、妙に寂しかった。
『……小町?』
「え?」
『聞いてる?』
「あ、ごめん」
小町は苦笑する。
「別にいいよ。一緒に行こうか」
『ほんと!?』
愛歌の声が弾む。
『やったー! じゃあ駅前集合ね!』
「うん」
『絶対寝坊しないでよ?』
「それ愛歌に言われたくないんだけど」
『あははっ、確かに!』
二人で笑い合う。
その何気ない会話が、少しだけ小町の心を軽くした。
『じゃあ日曜日ね!』
「うん。またね」
通話が切れる。
静かになった部屋の中で、小町はスマホを胸に乗せたまま、小さく息を吐いた。
(日曜日か……)
本当なら違う未来だったかもしれない。
でも。
それでも俊哉のことを考えてしまう自分がいる。
スマホの画面を見つめる。
ついさっきまで通話していた履歴。
その名前を見るだけで、胸が少し苦しくなる。
(……なんなんだろ、この気持ち)
まだ恋とは認めたくない。
だけど。
俊哉の声を思い出すたび、胸が熱くなる。
小町は枕へ顔を埋めると、小さく唸った。
「もう……知らない」
けれどその頬は、少しだけ赤く染まっていた――。




