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第15話

『しょうがないな……ちょっとだけだぞ』


 電話の向こうで、俊哉が呆れたようにため息を吐く。


 その直後、小さくガサガサと音がした。


 スマホを渡しているのだと、小町はすぐにわかった。


 そして――。


『……お姉ちゃん』


 聞こえてきた声に、小町は思わず表情を曇らせた。


 いつもの元気いっぱいな佐奈の声じゃない。


 かすれている。


 苦しそうで、息も弱い。


『ごめんね……』


 途中で小さく咳き込む。


 その声を聞くだけで、本当に熱があるのだと伝わってきた。


「佐奈ちゃん……」


 小町は胸の奥がきゅっと締めつけられる。


 少し前まで、あんなに元気に笑っていたのに。


『日曜日……』


 佐奈は申し訳なさそうに呟く。


『一緒に行けなくなっちゃった……』


 その声があまりにも寂しそうで。


 小町は自然と優しい声になっていた。


「ううん。しょうがないよ」


 小町はベッドへ腰掛けながら、静かに言う。


「今はちゃんと元気になること考えなきゃ」


『……うん』


「元気になったら、その時いっぱい遊ぼ?」


 一瞬、沈黙。


 次の瞬間。


『絶対だよ!』


 佐奈の声が少しだけ明るくなる。


 それだけで小町はほっとした。


「うん。約束」


『えへへ……』


 電話越しでも、佐奈が笑っているのがわかる。


 すると向こうから俊哉の声がした。


『ほら、もう寝ろって』


『やだー』


『熱あるんだから』


『お姉ちゃんともっと話すー』


 兄妹のやり取りが微笑ましくて、小町は小さく笑った。


 だけど。


 そんな何気ない会話が、なぜか少し羨ましかった。


 誰かとこんな風に笑い合う時間。


 誰かに心配される日常。


 小町には、ずっと足りなかったもの。


 やがて俊哉が再び電話へ戻る。


『悪いな』


「ううん」


『じゃあ……今日はもう寝かせるから』


 俊哉の声は、どこか疲れていた。


 でも優しかった。


 その優しさが、小町の胸を静かに揺らす。


「俊哉くんも、ちゃんと休んでね」


 一瞬。


 電話の向こうが静かになる。


 まるで、そんな言葉をかけられると思っていなかったみたいに。


 そして小さく、


『……ありがと』


 とだけ返ってきた。


 その声が妙に近く感じて、小町の胸が熱くなる。


『じゃあ、また学校で』


「うん。おやすみ」


『おやすみ』


 通話が切れる。


 部屋の中が急に静かになった。


 さっきまで誰かと繋がっていたせいか、その静けさが妙に寂しい。


 小町はスマホを胸へ抱きしめながら、天井を見上げた。


(日曜日……暇になっちゃったな)


 本当は少し楽しみにしていた。


 佐奈と遊ぶことも。


 そして。


 俊哉と一緒にいられる時間も。


 そのことを自覚した瞬間、小町は自分の頬が熱くなるのを感じた。


「……なに考えてるんだろ、私」


 小さく呟く。


 けれど胸の奥は、少し浮かれていた。


 その時だった。


 ――ブブッ。


 突然、スマホが震える。


 小町はびくっと肩を揺らした。


 画面を見る。


 知らない番号からの着信。


「……え?」


 ついさっきまで俊哉と話していたせいで、胸騒ぎがした。


 こんな時間に誰――?


 スマホの振動だけが、静かな部屋に響いていた。

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